銀魂長編

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現在、夜の10時。
神楽はいつも通り早々に寝支度を済ませて押入れへと引き上げ、銀時は自分のデスクに座って愛読書のジャンプを読んでいる。

そして新八は夕食の片付けに銀時の寝具の準備など、幾つかの雑用を済ませてテレビを見ながら寛いでいた。
今彼が見ているのはバラエティ番組らしい。
時折笑うその横顔へ、銀時は自分の席から話し掛けた。

「新八ィ、今日帰んの?」
「えぇ、そのつもりですけど」
「・・・ホントに帰んのか?」
「銀さん?」

銀時はその場から立ち上がり、こちらを向いてキョトンとする新八の隣へ腰を下ろした。
そして彼の顔をまじまじと覗き込み、また同じ質問を繰り返す。

「帰るの?」
「あ、あの・・・?」
「泊まれよ」

銀時がこれでもかという程に顔を接近させ、ニッと笑いかける。
突然の銀時の接近に新八は少々戸惑った表情を浮かべた。
そんな彼の身体を、銀時はそっと抱き締めた。

「泊まるんなら、ちゃんとゆっくり布団で愛を育む。
 帰るっつーなら今すぐこの場で押し倒すぞ」
「もう、アンタは何をバカな事言ってんすか」
「さァ、どうすんの?」

抱き締められているので銀時の表情は窺えない。
しかしどうせニヤついているに違いないと新八には容易に想像がついた。
何が何でも帰るとは言わせない、そんな彼の肩口に顔を埋めて新八は穏やかに微笑んだ。


銀時はいまだに腕の中に閉じ込めていた新八を漸く解放し、彼の頬を撫でる。
そしてゆっくりと立ち上がって一旦1人で和室へと向かった。
新八が不思議そうにそちらを眺めるが、幾分もしないうちに銀時はまた隣へ戻って来た。
しかしその手に何か持っており、新八は小首を傾げる。
それは何ですかと問うよりも先に銀時が口を開いた。

「・・・これやるよ」
「銀さん?」
「広げて見てみろ」

銀時に促されて手渡された物を素直に広げてみた。
すると、それは真新しい寝巻きだった。
淡い桃色の生地の所々へ上品に花をあしらった、本当に可愛らしいデザインだ。
新八がわぁっと嬉しそうに感嘆をあげて銀時見やれば、彼は照れて頭を掻きつつ新八の頭を撫でた。

「何から何までお妙のプロデュースってのもなァ。
 これぐれェは俺が選んでも良いだろ?」
「銀さんありがとう!でもこんなに可愛いの、僕には勿体無いです」
「あー?いいのいいの。お前ェ十分可愛いから」
「もう、僕なんかを褒めたって何も出ませんよ」

銀時がニヤッと笑う。
そんな彼に照れた新八は、貰ったばかりの寝巻きをギュッと抱き締めて恥ずかしそうに顔を埋めた。

大変に可愛げのある仕草をする新八に銀時はそっと微笑む。
頭をポンポンと撫でてやると、彼はまだ赤いその顔を今度は銀時の胸元に埋めた。
素直な新八に気を良くした銀時が、また彼の身体を抱き締めた。


腕の中の新八の耳元に静かに囁きかける。


「今晩早速それ着ろよ。
 んで、俺に脱がされなさい」


身体つきが変化している新八への、初めてのアプローチである。
些か直球過ぎる感じが否めなくもないが、それでも銀時にしては頑張った方だろう。

この誘いに、新八はいまだ寝巻きを胸元に抱きながら静かに頷いて微笑んだ。

///

情事の前には互いに身体を清めるのが一般的である。

普段、神楽が寝付いた後ならば2人は一緒に風呂に入る事も多い。
こうして後に情事の気配を控えているのであれば尚更だ。
しかし今日はそれをしなかった。
新八の身体を目で見るのは今日が初めてであるからして、銀時は楽しみをこの後に取っておきたかったのである。

その旨を伝えれば新八はクスリと笑ってそれに従った。
じゃあお先にどうぞと、銀時に風呂を勧めた。

そんな訳で銀時は一足先に風呂へ入り、他の寝支度も済ませて自身の布団の上にゴロリと寝転がっている。
自分と入れ替わりで新八が風呂に入っているこの内に、銀時は隣に彼の布団も敷いた。
けれども恐らくは今夜それが使用される事は無い。



銀時が内心落ち着きなく新八が来るのを待っていると、シャンプーと石鹸の匂いと共に、彼があの寝巻きを身に纏ってゆっくりとこちらへ近づいてきた。

「・・・お待たせ、しました」
「おー、待ってました」

銀時が起き上がり、すぐ傍へやって来た新八の手をそっと引いて向かいに座らせる。


今の新八に、これから銀時と身体を繋げる嬉しさや喜びは、確かにある。
しかしながらそれらを上回ってしまう大きな不安、それが今の彼の本心である。

何せ今から本当に一糸纏わぬ姿を銀時に晒すのである。
この前全身を触って確かめて貰った際に彼は拒絶しなかったが、それでもこうして改まってしまえば不安はまたいくらでも湧いてくる。


この身体を目の当たりにした時、あまりの変わり様に引かれてしまったらどうしよう。
やっぱり気味が悪くて抱けないと、そう言われてしまったらどうしよう。
それによって今後の自分達の関係までもが変わってしまったらどうしよう。


そんな恐怖ばかりが一気に込み上げてきて、浮かない顔だった新八の頬に一筋の涙が伝った。

目の前ですっかり俯いて静かに涙を溢す新八。
銀時は慌てる事なく優しくそれを拭う。
温かい銀時の手に、新八は更にポロポロと涙を溢す。


暫くは泣き止みそうにない新八の身体を、銀時がそっと組み敷いた。
そして僅かに口角を上げて何度もその涙を自身の指や手の甲で拭ってやる。

新八の小さな唇へ触れるだけのキスをして、するすると髪や頬へ触れる。

「怖ェか?」
「・・・ん、えっと・・・」

怖いのは確かだが、勿論銀時自身が怖い訳では無い。
穏やかに問う銀時に、新八は何て答えて良いのかと焦った。

目線をすっかり他所へ向けて言い淀む新八に、銀時はあの時と同様に大体の察しがついた。


「新八ィ。言っとくけどな、俺がお前の身体見て引くなんて事ァ絶対に有り得無ぇぞ」
「え・・・?」
「もうな、お前を抱きたくて仕方ねぇんだよ。だから余計な心配すんな。
 お前は今から、銀さんの事だけ見て感じてればいいの」

自分の頭の中が全て読まれていたらしい事に新八は驚いて絶句してしまった。
しかし自分を組み敷く銀時を今改めて見やったところ、彼の目には確かに熱情が灯っているのが分かる。
不安がる自分に掛けてくれたその言葉は、どうやら彼の本心のようだ。


この人になら、銀時になら今の自分の全てを曝け出せる。


新八は漸くえへへと笑みを浮かべ、身体の力を抜いて全てを彼に託した。

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