銀魂長編

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沖田に連れられていつもより遅れて職場へと到着した新八。
だが万事屋の店先ではお登勢と銀時が何かを言い争っているようだった。
おはようございますと新八が声を掛ければ、2人がこちらへ気づいた。

「あぁ新八かい、おはようさん。
 ・・・何だい?えらく可愛らしい格好してるじゃないかい」
「え、えぇ。これには少し事情がありまして・・・」
「新八ィ!ひでェんだぜ、こんな朝っぱらからババアに叩き起こされた!」
「いつまでも家賃持って来ないオメーが悪いんだろうが!」
「ケッ、今月分は渡したんだからさっさと下に戻りやがれクソババア!
 テメーの妖怪面なんていつまでも拝んでたくねぇんだよ!」

再び銀時と賑やかに言い合った後、漸くお登勢は階下へと戻って行った。
その間置いてけぼりだった沖田へ、新八がすみませんと謝る。

そして銀時は今やっと沖田の存在に気づいたらしい。
怪訝な顔で何故ここに居るのだと彼に問い掛けた。

「新八君を無事に保護しやした」
「保護?・・・何かあったのか?」
「あ、あの・・・」

保護と聞いて銀時の表情が強張った。
それに何となく嫌な予感のする新八はおずおずと口を挟もうとする。

しかし銀時はそれを聞き入れない。
どういう事だと沖田へ詰め寄れば、彼が事情を話し出した。

「たちの悪ィナンパ、有り体に言やァ強姦未遂の被害者でさァ」
「はぁッ?!強姦?!」
「ち、ちょっと沖田さん!話を大きくしないで下さいよ!」
「何でェ、事実だろィ」

新八が慌てて沖田を制止しようとするももう遅い。
銀時が血相を変えて新八の両肩をガシリと掴んだ。

「・・・詳しく話せ」
「分かりました、後でちゃんと話しますから・・・」
「そんじゃ俺ァそろそろ見回りに戻りまさァ」
「あ、沖田さん!今日は本当にありがとうございました」
「お前ェさん、元に戻るまではなるべく一人で出歩くのは避けなせェ」

新八は踵を返す沖田に深々と頭を下げもう一度改まって礼を告げた。
沖田は一言の注意を残して銀時と新八へヒラヒラと手を降り、その場から立ち去った。



それから数刻、いつも通り3人での朝食を済ませると神楽は今日も元気に外へ遊びに行った。
現在万事屋の居間には銀時と新八がソファへ隣り合って座っているが、彼らを取り巻く空気は重い。

無言で俯き加減の新八の頭を銀時がそっと撫でた。

「・・・新八」
「分かってます、話しますから」

新八は少し深呼吸をしてゆっくり顔を上げた。
銀時の顔を見れば彼が心配そうにこちらを窺っているのが分かる。

そんな銀時を早く安心させたくて、新八は努めて落ち着いて話し始める。

「先ず最初に言っときますけど。
 さっき沖田さんの言ってた強姦未遂なんてのは大袈裟なんです」
「・・・おぅ」
「・・・ここへ来る途中、歩いてたらチャラい男2人に立ち阻まれて、声を掛けられました」
「うん」
「僕はハッキリ誘いを断りましたけど全く聞き入れて貰えなくて、手首を掴まれて無理矢理引っ張られました」

つい先ほどの出来事について淡々と語る新八。
銀時もそれを静かに聞きながら時折相槌を打つ。

「ひと気の無い路地裏が近くにありましたから、恐らくはそこへ連れて行って暴行するつもりだったんでしょうね 」
「・・・」
「でもそこで偶々巡回中だった沖田さんが来て下さったので、僕は事無きを得られました」

新八は無事だった事を強調してニッコリと銀時へ微笑みかける。

それは自身の事を案じてくれている銀時への配慮だが、彼はまだ納得がいかないらしい。
心配そうな表情から一変、怒気を孕む暗い表情へと変わった。

「・・・無事だったとは言え、そいつらタダじゃ済まさねぇ。
 今から俺がキッチリこの借りを返してきてやるよ」
「あ、それも心配無いです。
 連中は沖田さんの連絡で駆けつけた他の隊士の人達に連行されましたから」

今度は今までとはすっかり逆で新八の方が心配な表情を浮かべている。
依然暗い表情をしている銀時をハラハラと見つめた。


そんな困ったような新八を目の前に、銀時は小さく息を吐いて頭を掻く。
こうして新八に余計な心配をさせてしまった事を反省した。

そっと新八を腕の中へ抱き締めて、優しいトーンで問い掛ける。

「・・・怖かっただろ。ホントに大丈夫か?」
「はい。確かにあの時は怖かったですけど、でも銀さんが今こうして抱き締めてくれてるんで、もう平気です」
「そうか。とにかく無事でよかった」
「・・・でも僕、あの時逃げる事も戦う事も出来なくて、情けないです」
「今は女の身だからな。そりゃァいつも通りには動けなくたって無理ねぇよ」

心を込めて抱き締めれば、柔らかくえへへと笑う新八。
この誰よりも大切で愛おしい彼の身に忌々しい事態が降りかからなくて本当によかったと、銀時は心からそう思う。

しかし、いつまた同じような災厄がこの子へ降りかからないとも限らない。
銀時は相変わらず新八を抱き締めたまま少し考えた。

「新八ィ、お前今日は化粧まで加わってて更に可愛いわ。
 それにそのセミロングのストレート、銀さん超好み」
「えへへ。姉上がね、この着物に合うようにってしてくれたんですよ」
「・・・でも俺思うんだけどよ。お前がそうやって中々に見れるもんだから、録でも無ぇ野郎共が寄って来やがんだ」
「え?」

銀時は至極真面目に言うが、新八はキョトンとしてしまった。
新八が彼の腕の中からその表情を窺えば、銀時が少々言い辛そうに発言した。


「・・・明日っから、またいつも通りの格好で出勤できねぇか?
 こっち来てから着替えろよ」
「・・・姉上が、毎朝すごく張り切ってて・・・。
 あまり、無碍にはしたく無いんです」
「だったら俺が今朝の事お妙に話してやるよ。
 それならアイツだって納得すんだろ」
「・・・姉上に無駄な心配はかけたくないです。
 僕、無事だったんですし。ね・・・?」

銀時の提案に、新八はそれは無理だと遠回しに伝える。
今朝こんなに怖い目に遭ったと言うのに健気な事だと、銀時は内心苦笑した。

しかし、今何らかの対策を考えねばまた危険な目に遭うかもしれない。
今回は運良く助けが入ったが、もし次に何かあった時にまた助けがあるとは限らない。

気は進まないものの、銀時は彼へ最終手段を告げる。

「・・・ホントはこんな事言いたかねぇけど、背に腹は変えられねぇ」
「銀さん?」
「お前、元に戻るまでは1人での外出禁止な」
「そんなぁ・・・」

突如告げられた禁止令に、新八とて即座には納得出来ない。
角が立たない程度に銀時へ意義を申し立てる。

「今日はちょっと運が悪かっただけですよ。
 僕なんかを相手にする物好きなんて、そうは居ません」
「バーカ。お前鏡で自分の姿じっくり見てきてみ?
 ぶっちゃけ毎日ナンパされたっておかしくねぇレベルだと銀さん思うぞ」
「もうっ、そんな事ある訳ないでしょ。
 大体、外出がダメじゃ僕買い物にも行けないじゃないですか」

困った顔で銀時へ抗議するも、やはり彼はそれを聞き入れない。
どうしたものかと新八は困り果てた。


しかし、一方でそれは銀時が自分を本当に心配してくれているが故だと言う事も理解はしている。
こうして彼が自分の身の安全を案じてくれている事は心から有難く思う。
そして万が一、また妙なトラブルに巻き込まれて周囲へ迷惑をかけるのも嫌だ。

暫くは少し不自由するかもしれないが、心から敬愛する銀時の心遣いだって無碍にしたくない。


色々と考えたが、結局新八は銀時の出した単独での外出禁止令を素直に承諾した。


「・・・あー。怒っちまった?」
「いいえ。心配してくれてありがとうございます、銀さん」

銀時本人にもこれが些か横暴であるという自覚はあるので、探るように新八の顔を覗き込む。
だが新八もそんな彼の心中を理解しており、またふわりと微笑んで見せた。

こうして本当に聞き分けの良い新八、銀時も安心してフッと笑った。


「いい子、新ちゃん」

銀時の大きな掌がよしよしと新八の頭を撫でた。
そして彼がグロスで潤う新八の唇へそっと自らの唇を落とせば、2人の間に漂う空気がまたいつも通り穏やかに流れ始めた。

「外出る時は言え。俺も一緒に行くから」
「分かりました。面倒をかけますけど、よろしくお願いします」
「朝と夜の送り迎えもするから」
「えへへ、嬉しいです」


たとえ少しの不自由さがあろうとも、大好きな銀時がずっと傍に居てくれるというそれ以上の見返りに、新八は満足そうに笑った。

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