銀魂長編
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2人に受け入れてもらえたのであれば、新八にとってもう何も心配事は無い。
最初に決意した通り、彼はすっかり女子としての生活を楽しみ始めた。
2人へカミングアウトした事を姉に報告すれば、彼女もそれを喜んだ。
新八が日中堂々と女の格好をしてくれるのであれば、コーディネートの遣り甲斐があると言うのだ。
ただしお妙にとって、天敵とも言える銀時に“妹”のおめかし姿を惜しみなく晒す事だけは唯一不満な要素ではあるようだ。
姉の全面的なバックアップのおかげで、新八は胸にサラシを巻いていつもの格好で出勤する事も早々にやめる事が出来た。
毎日彼女のアドバイスに基づいて素直に女物の下着や着物を身につけている。
この日も新八はやはり姉によって着物のコーディネートを施された。
そして女子の着物を着こなす以上、必然的にもう一つ必要となる工程がある。
そう、それは化粧だ。
ナチュラルにベースを整えてアイメイク、リップメイクを加える。
元々大きな目はさらにパッチリとし、グロスを乗せた唇はぷるぷるだ。
仕上げにストレートセミロングのウイッグを髪に被せて完了である。
「新ちゃん、本当に可愛いわよ。流石は私の妹ね」
「姉上が選んでくれる着物、どれも素敵です」
「フフフ、そうでしょう?でも、あの天パのセクハラだけが気掛かりだわ」
そう言いながらもお妙は自らの手で磨いた新八の完成度にニッコリと笑い、これから出勤する彼を見送った。
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新八が徒歩で職場へ向かう途中、2人組のチャラついた男連中がこちらへ近づいて来た。
これは絶対に関わりたくないタイプであり、そして関わってはいけないと新八は瞬時に判断がついた。
目を合わせずに通り過ぎようとしたが目の前を立ち塞がれた。
それにより新八は止まる事を余儀無くされてしまった。
「お嬢さん、可愛いねぇ。俺達と遊ばない?」
「・・・急いでるんで、遠慮します」
「まぁまぁそう言わないでさぁ。
まずはその辺でお茶でもしようよ」
「いいえ、結構です」
ニヤニヤと下品な視線を送られるのは心底不愉快だ。
ニヤケ面と言えば銀時からもしょっちゅう向けられるが、彼のそれを本気で拒絶したいと思った事は一度も無い。
相手を好きか否かでこんなにも心証が違うものなのかと、新八はどこか遠い所でボンヤリ思考を巡らせた。
そして今ニコリともせずに連中の誘いをハッキリ断るも、やはり話の通じる相手では無かった。
男のうちの1人が新八の肩へ触れ、耳元でとんでもない一言を吹き込む。
「お茶は嫌なの?じゃあ俺達とイイ事、しようか」
そして新八の手首を掴んで無理矢理連れて行こうとする。
嫌だと言っても聞き入れて貰えず、どんどんと引っ張られた。
ここは元より人通りも少なく、更に少し先は入り組んだ路地裏になっている。
この連中がしようとしている事は、新八にも嫌でも想像がついた。
いつもの新八であればこの程度の連中を振りほどいて逃げる事など容易いし、その気になれば難なく伸してしまえる。
しかし今は女の身であり、身体能力は未知数だ。
逃げ切れるとも腕っ節で勝てるとも限らない。
また女の格好が故、いつもの木刀も持ち合わせていない。
あまりにも不利な状況に、新八はこのままではマズイと本気で焦り怖くなってきた。
「ハーイ、お2人さんそこまでー」
「あ?」
「何だテメー」
聞き覚えのある声に新八が振り返れば、そこには真選組の一番隊隊長が立っていた。
見知った人物の登場に新八の表情がパッと明るくなる。
「沖田さん!た、助けて下さい・・・!」
「直ぐにその子を離してやれ。
でねーとお前さん方このまましょっ引くぜィ」
「うるせー邪魔すんじゃねぇ!」
連中の1人が沖田に殴りかかるも、当然彼にそんなものは当たらない。
沖田はヒョイと身軽にそれを避け、腰の得物で瞬時に峰打ちを叩き込んだ。
目の前でのあっという間の出来事に新八の手を掴んでいた力が緩んだ。
その隙に新八が沖田の方へ掛け寄れば、逆上したそいつもまた沖田へ殴りかかる。
だが結局はそれも虚しく、間も無く両者へ手錠が掛かった。
「暴行未遂の容疑に公務執行妨害でィ」
その後沖田の連絡により駆けつけた他の隊士が連中を所轄へ連れて行き、一件落着である。
「アイツらに何もされなかったかィ?」
「はい!本当に助かりました、ありがとうございます!」
「なぁに、市中の見回りも仕事のうちなんでねィ」
ピンチを助けてもらえた嬉しさと、久しぶりに見た知り合いのカッコ良い場面に新八がテンション高くお礼を告げた。
沖田はそんな新八の顔をジッと覗き込みポンと頭を撫でる。
「女になったってェのは本当だったんだねィ新八君」
「・・・え、僕だってバレてたんですか?
って言うか、何でその事を知ってるんですか?」
身体の事を話したのは銀時と神楽だけだ。
なので知っているのはお妙を含めた3人だけだとばかり思っていた。
予期せぬ沖田のその発言に、新八がサッと青ざめる。
「お妙さん発、近藤さん経由。
因みに土方さんや山崎あたりも知ってる」
「そ、そんな・・・」
「近藤さんと山崎はこの前お妙さんと買い物してるところを見かけたとかで、可愛いと大絶賛してたぜィ。
そんで土方コノヤローはお前さんは苦労人だと同情してる」
目を見開いて信じられないとでも言いたげな新八に沖田が真相を話す。
それでも新八はまだ少し不安気だ。
困った顔をしてすっかり俯いてしまった。
「少なくともウチでは誰もお前さんの事を笑ったり避けたりしてねェから、心配しなさんな」
沖田は新八の心中を理解してニッと笑い掛ける。
そして、気が向いたら俺に会いに屯所へ遊びに来いと、ちゃっかり誘いを掛ける事も忘れない。
漸く少し笑った新八の頭をもう一度ポンポンと撫でて、彼を万事屋へと送り届けるべく2人並んで歩き出した。
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銀さん不在ですみません;
本人は無自覚ですが、新八は総受け傾向です。
周りは皆何かと彼をチヤホヤしたがりますが、肝心の新八は銀さんからの好意にしか気が付きません。