銀魂短編

□帰りたい、その場所は
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江戸からは少しばかり離れた、とある山の麓。
銀時はそこで仕事を請け負っていた。

作業内容はこの村の公共施設の建設の手伝い。
知り合いの大工のツテで入った仕事だ。
ここへ来た時には既に大部分が出来上がっていたその建物だが、今日をもっていよいよ完成となった。

この仕事の事は新八にもきちんと言ってあるので無問題だ。
少々遠出になる為暫くは帰って来れないという事も予め告げてある。
少しの間離れてしまうからと、仕事に出る前日には普段の数割増しに情を籠めて愛し合った。
そして夜が明けた頃、行ってらっしゃいとの笑顔と幾度かのキスに送り出されたのである。
そんなやり取りから、早一週間。



無事に仕事も済んだというので、現在一緒に仕事をした者で集まって打ち上げの最中である。
銀時も酒をそこそこに適当な会話を弾ませていた。

因みに建築業のこの現場、メンバーは全員男である。
酒の席に男ばかりが集まっていれば、そのテの話が弾むのはいた仕方のない事だ。
あの子がどうしただとか、あの時はどうだったとか、あの店はどうだとか。

そして色々騒ぐうちに話題はすっかり各々の恋人や伴侶の話へと移り変わった。
家内の自慢をする者、愚痴を零す者、近々プロポーズを考えている者など内容は様々だ。
そして勿論、その場に居る銀時にもその話題は回ってきた。

「兄ちゃん嫁さんはいんのかい?」
「あぁ?あー、まァね」
「そうかい。そんでその嫁さんとは仲良くやってんのか?」
「やってるよ。もう仲良しこよしってな」

もう一週間も会えていない新八。
あの子は今頃何をしているだろうか。
時間を見る限りまだ寝てはいないだろう。
恐らくはそろそろ風呂から上がる頃だろうか。
湯上りホカホカの彼が、頭を過る。

そんな事を思い浮かべて、銀時はほんのり酒に染まった頬で知らずのうちに柔らかく頬笑んだ。

「ものっそい家庭的でさァ、可愛いんだよアイツ。
 銀さん銀さんって、いーっつも俺の事ばっか気にかけてくれてんの」
「そりゃあ何より。
 ところで、夜の営みなんかもアレかい?」
「あぁ?そりゃまァ、若い夫婦だし?それなりにはな」
「羨ましいぜ。けどお前ェさん、無茶ばっかして嫁さん泣かせてんじゃねぇのか?」
「泣かせてねぇよ。アイツいっつも俺にぎゅっとしがみついてさァ、赤ェ顔して可愛らしく喘いでんの」
「ほォ?そりゃ随分なテク持ってんだな兄ちゃん。
 俺にも教えて欲しいもんだぜ」
「だったら俺らがヤッてんのいっぺん見てみっか?
 ・・・っていや、やっぱそれァ無し。アイツのイイところなんて俺以外にゃ見せらんねぇわ」

銀時が饒舌なのは酒が入っている所為だろう。
その後も彼は普段の自分達の情事についてペラペラと語った。
もし新八に聞かれていたら鼻フックデストロイヤーを食らうに違いない。



「・・・嫁さん、これからも大事にしてやんなよ」

銀時の嫁・情事自慢が一息ついた時。
目の前でそれを聞いていた初老の男が一人そう言った。
口調は穏やかだが、とても真面目なトーンだ。

「毎日沢山会話して、それなりにスキンシップもしてよォ。んで、たまにはちゃんと目ェ見て愛してるって言ってやれ」
「何だよ、突然?」
「・・・俺みてぇによォ。嫁さんに逃げられんじゃねぇぞ兄ちゃん」
「あら、アンタ逃げられちまったの?」

銀時が意外そうに尋ねると、その隣の男が苦笑いした。
そして嫁に逃げられたらしい男の肩をポンと叩いて代わりに話し出した。

「コイツ、浮気の前科3犯。そりゃァ嫁さんも愛想尽かして当然だって」
「三行半突き付けられてヤケになって、博打に明け暮れて借金まで作っちまって。
 ・・・とんでもねぇ馬鹿なんだよ俺ァ」
「うわぁ、一番ダメなやつじゃんそれ」

溜息を吐いてすっかり項垂れてしまったその男。
隣の男がまた肩を叩いて宥める。
そして暫く慰められていたその男は、手に持っていたグラスの中身を一気にあおった。

しかし、生憎銀時にはその張本人に同情心は芽生えない。
度重なる浮気に博打に借金、掃いて捨てるほど程あるようなロクでもない話だ。
いい歳をした大の男のくせに情けないと、内心そう思った。


そして、自分は何だか無性にあの子が恋しい。

今すぐ顔が見たくてたまらない。
きっと「おかえりなさい」と笑ってくれるだろう新八、その身体を存分に抱擁したい。
それに、こんな安酒なんかではなく彼の作った食事が欲しい。

本当は明日の朝帰るつもりだった銀時だが、予定を繰り上げる事にする。
給金も既に受け取った事だし、もうここへ長居をする理由も無い。

「・・・あー。悪ィけど俺もう帰ぇるわ」
「あぁ。早く帰って嫁さん抱き締めてやれ」
「因みに今日、いい夫婦の日ってやつらしいぞ兄ちゃん」

いい夫婦の日。
そう言えば、今朝読んだ新聞にそんな事も書いてあった。

だったら尚更早く帰らねば。
現在時刻は21時過ぎ。
電車を何本か乗り継がなければならないが、向こうに着くのはギリギリ今日の内だろうか。

新八はきっと万事屋へ泊まり込んでいる筈。
銀時にはそう妙な確信もあるのだ。

自分は一週間こんなにも頑張って働いたのだ。
帰宅した時には、新八はさぞかし温かく迎え入れてくれるに違いない。


「そんじゃ、世話になったな。
 また何か仕事があったら声掛けてくれよ。個人的な依頼だって引き受けるぜ」

銀時が立ち上がると、皆からチラホラ返事もあった。
最後の挨拶もそこそこにその場を離れた銀時は、駅へと向かって歩き出した。
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