一次
□私の王
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ーああ、私もここまでか。
臣下の裏切りによって女真族に攻め込まれた明には、既にその巨大な勢力に立ち向かう術はなかった。
敵に追われる中、私は臣下に見放され、最後まで残ってくれたのは××ただ1人だけだった。
「なぁ××、私はこれまで国の為に尽くしてきたつもりだった。」
「はい。」
「その仕打ちが、これか。」
「…………。」
私達を沈黙が包む。
なんと虚しい人生だったことか。国のために生き、裏切られ、そして惨めに死のうとしている。
ああ、けれど。
最後に幸せがやってきた。
「なあ、××。」
「はい。」
「好きだ。」
「………陛下、今はふざけている時では……。」
「ずっと、好きだった。」
つらい人生だった。
けれど、この死の間際になってやっと、私は心から笑えた。
「最期にお前といれて良かった。」
「やめてください。まだ終わりではありません。逃げきりましょう。逃げ切って、隠れていればいつか………。」
「ふ、おまえ以外の臣下皆に見放された私には、生き延びたとてどうすることもできないさ。」
「陛下………。」
「まあ、いいさ。それより疲れた。少し休もう。水でも汲んできてくれ。」
「陛下、お待たせしました。」
「…………陛下?」
明最後の皇帝、崇禎帝。
彼は先祖に面目たたぬと髪を顔に巻いて首を吊って亡くなった。
その側には名もない臣下が1人、彼に寄り添うように死んでいた。
彼の遺体は下ろされて、その髪の毛は解かれた。
そこからあらわれた彼の顔には、とてもとても幸せそうな笑みが浮かんでいたそうだ。