正義ノ味方
□悪を倒せば必ず正義であるか?
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「俺の酒とタバコは?」
ネオンや街灯、囚人の騒ぐ声が夜のフリーシティを照らす。その路地裏で若い男が痩せた中年の男の首にナイフを突きつけ脅している。
「見つからなかったんだ!頼む!許してくれ!」
必死で痩せた男は謝る。が、それで収まるほど若い男は冷静ではなかった。そもそも謝られて許すような人間はこの街では珍しいが。
「どれだけ待ったと思ってんだ!」
夜も更け、寒くなった路地に声が響く。だが、よくある光景に誰も興味を示さない。余計なことに首を突っ込めば死さえ当然の街であることも理由だった。
怒りが押さえられない男はナイフを振り上げる。
一瞬銀色に光ったそれが振り下ろされた。
「ぎゃああああ!!!」
痩せた男の腕が切り裂かれ血飛沫が辺りに散る。
叫び声は暗闇に呑まれた。
表情が恐怖と痛みに歪む。
その事が若い男をさらに興奮させた。血塗れのナイフをジーンズでふき、光らせて倒れている男の恐怖を煽ってみたりする。
冷たい風が痩せた男に死を予感させた。
「オラァ!」
とどめをさそうと若い男がもう一度ナイフを振り上げる。
と、その時だった。
「?!」
腕に紐状のものが絡みつく。
そして強い力に引っ張られ体がよろめいた。
ゴッ
拳が顎を打ち抜き鈍い音がなる。
ナイフを落とし若い男はフラフラとバランスを崩し、倒れた。気を失っている。
安心したのも束の間、新たな、しかも正体の知れない何者かがそこに存在していることに男は危機を感じた。
「あ、あんたは!?」
腕の激痛に耐えながら痩せた男は聞く。敵ならすぐに逃げなくてはならないからだ。
何者かは近づいて来て話す。
「正義の味方気取って人殴ってるだけの者ですよ。」
ボロボロの服か防弾チョッキを着ている奴らしかいないこの街で割と普通の服装をした青年、カイはそう答えた。
「じゃ」
さっきの紐のようなものを近くの建物の屋根に絡ませ、跳ぶ。
紐が手元の機械に巻き取られる力であっという間に屋根まで上がり、また次の建物に跳び、瞬く間に闇に消えていった。