オ カ ル ト
□烙印
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……!………!!
暗闇の中にずっしりと沈み込んでいる。
遠くで何かを叩く音が鈍く響いている。
身体が重い。
動きたくない。
ずっとこのまま、深い深い闇の底で眠っていたい。
……!…!
鈍い音が次第に大きくなっていく。
嫌だ。煩い、煩い煩い……
ドン!!!!
「っ…!?ハァッ…!」
「霜原さん!!生きてますか!?返事してください!」
ああ…くそ。
‐烙印‐
「全く…電話は繋がらない、メールも返さない、呼び鈴は壊れてる、ノックしても返事がない。首でも吊ってんじゃないかと血の気が引きましたよ。まあでも、生きててよかったです。嫌ですよ、遺体の第一発見者なんて」
なまっ白い顔に細い鼻、陰気そうな一重の目を隠すように掛けられた眼鏡を長い指先で押し上げながら、九鬼勝(クキスグル)はまくし立てた。眉間に深い皺を刻んで、俺を睨む。ダイニングテーブルを挟んで向かい合わせで座っている俺は、その視線が鬱陶しくて顔を背け、居心地の悪さにため息をついた。
「…悪かったよ」
「本当に悪いと思ってるんですか?」
「……」
食い気味に言われて、一気に面倒臭くなって押し黙る。九鬼は呆れたように息を吐いてから、こちらに身を乗り出してきた。
「先生…先生が今までに無いスランプに陥っているのはわかります。けれど、読者は貴方の作品を待ち望んでいるんです。僕だって同じです。編集者という立場ですが、ファンの一人でもあるんです。先生がスランプを脱出するためなら、何だって協力しますから!」
暑苦しくて堪らない。
「…だったら構わないでくれ」
「そうは行きません」
きっぱりと言い切った九鬼に、怒りを通り越した憂鬱な感情が滲んでくる。尚も強い視線から顔を背けたまま、席を立って冷蔵庫に向かう。黙って俺の様子を見つめる九鬼を余所に、ほとんど空の箱の中からビールを取り出した。あと2本しかない。
「ビール」
「え?」
「ビール買って来てくれ。俺に書かせたいんだろ」
プルタブを持ち上げると、プシュと小気味いい音が鳴る。何か言いたそうな九鬼を睨みつけて言い切ると、冷えきったビールを呷った。