読み切り

□愛しき星の花咲けば
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俺の兄貴はアイドルオタクだ。二浪までして入った大学で、勉学よりもアイドル同好会の活動に忙しい。今の時代、乱立するアイドルグループもアングラからメジャーまでしっかり押さえているらしいけど、その中でも兄貴一番のお気に入りがコイツ。

『汐羅琉依だよ!みんなよろしく!』

「キヨラちゃあん!ゴッデス!」

キラキラしたアイドル衣装でテレビの中、ステージを駆け回るコイツ。最近メジャーデビューしたアイドルグループ、STAR's CROWNの花形だ。グループの中でも断トツで美形の汐羅琉依(キヨラルイ)を兄貴はゴッデスなんて言ってるが、コイツは男だ。女神じゃない。いくら女アイドルや女優より可愛くたって男だ。それを鼻息荒くして愛でる兄貴の気がしれない。

「勉強しすぎて頭ぶっ壊れたんだな」

「うおおお!キヨラちゃんのひざ破壊力ハンパねえぇ!!」

「ひざの破壊力て何だよ」

意味わかんね。俺のツッコミも聞こえちゃいないらしい。こんなんじゃ、明日の文化祭にシークレットでSTAR's CROWNが来るなんて言わない方が良さそうだ。



「はぁー今日のキヨラちゃんも超絶可愛かった」

兄貴は生放送の音楽番組が終わると満足げにため息をついて、すぐにスマホをいじりだした。今の番組感想なんかを呟いたりしているらしい。その後もコンサートのDVDを流したり、アルバム流したりと騒々しくされて、文化祭の準備で疲れている俺はめちゃくちゃ迷惑だ。明日は当日で朝早いんだけど。

「兄貴。うるさくて寝れない」

なんでうちの親は部屋を分けてくれないんだろ。

「キヨラちゃんの美声を子守唄に眠れるなんて、永眠できるほど幸せだぞ」

「……オヤスミ」

兄貴よ、お前が永眠しろ。






「神田、おっは!」

「おはよう…」

朝一でダチの小賀にでかい声で挨拶されてげんなりした。すかさず肩を組んできて、顔を覗き込まれる。

「どした?なんかすっげー疲れてね?」

「寝れなかったんだよ」

「ああー!さてはまた兄貴か!」

あの後とても眠れなくて、兄貴が気の済んだ朝方まで布団の中でもがき続けたけど、結局1時間くらいしか寝れてない。小賀は俺の兄貴がアイドルオタクであることを知っていて、俺の苦労をわかってくれてるはずなのに。さっきから俺の横でフンフーンと鼻にかかったメロディーを繰り返しているのは、昨夜兄貴がエンドレスで流していたSTAR's CROWNの新曲。

「歌うなァー!!うるせーんだよ!!」

「何キレてんの?ただの鼻歌じゃん」

「昨日死ぬほど聞かされてんだよ!もう聞きたくねーよ!」

「でもよー、今日ご本人の生歌聞くんだぜ?」

「俺は聞かない!」

「どーやって?」

「耳栓をする!」

「無駄だと思う、に一票」

それは俺もそう思うけど!でも、どうにかして抵抗したいのだ。ボイコット出来るならそれが一番なんだけど、文化祭実行委員で生徒会副会長でもある俺はそうするわけにはいかない。ちなみにこのうるさいダチは会長様だ。こんなにチャラいのに、公の場では見事な猫かぶりだ。

「二人ともー!じゃれてないでゲストのお出迎えするよー!」

書記の光村が呼んでいる。光村はいい奴だ。優しくて気遣いが出来て、女の子だったら絶対彼女にしたいタイプだ。

「大変だったね、神田。もしかして、今日のことお兄さんに教えたの?」

「いや、教えてない」

「うん、ま、そうだよね」

光村、何でお前は女の子じゃないんだ。もったいない。

俺達は、実行委員担当の志場先生と一緒に学校の裏口に向かった。そろそろ、STAR's CROWNの到着時間だ。

「志場ちゃん、一応SPついてんだよね」

「ああ。マネージャーから、スタイリストと各メンバーにSPが一人ついて来ると聞いている」

「8人?」

「プラス、音響スタッフとサポート、あとカメラが入るからトータルで20人だ」

「お!カメラ来んの?身嗜み整えとかなきゃなあ」

そう言うと、小賀は毛先をちょいちょい触った。チャラい。ていうか、

「お前、企画書渡したろ。読んでないのか?」

「読んだ読んだ。でも細かいことはお前がちゃーんと把握してくれてるから忘れた」

「オマエな…」

「怒んなよ神田」

だったらヘラヘラすんな!


 
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