読み切り

□フェロモンドリンク
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フ ェ ロ モ ン ド リ ン ク



『フェロモンアップでモテ度アップ!〇〇飲料、フェロモンドリンクレモンフレーバー!』

深夜のバラエティ見てると、最近この怪しい飲み物のCMがやたら流れてる。怪しいといっても、危険だとかそいうんじゃなくて、効果が怪しいって意味。オレみたいに年齢イコール彼女いない歴の平凡地味男がジュース飲んだだけでモテたら今までやってきた努力とか超無意味。あほか。

『あれヤバいっすよ!俺あれ飲んでから行く先々で入れ食い状態ですもん!』

『んなわけあるかい!』

『ほんまですって!』

とうとうバラエティでも話題に上りだしたみたいだ。モテない芸人がMCに熱弁してる。野郎ばっかの番組じゃあ、その効果はわかりゃしないが。

「バカバカしい…」

悪態ついたオレの手にはフェロモンドリンクが握られている。

「…オレってバカ」

モテないんだからしょうがない。藁にも縋りたい。女の子に触りたいし、キスしたいし、他にもイロイロやりたいことはたくさんある。
意を決してプルタブを上げる。プシュ、と音がしてほのかにレモンの匂いがした。ごくりと喉を鳴らし、一気に飲み干した。

『実はボクも飲みましたけど、何も変わんなかったっすよ』

『それはおまえが元々モテるからやろ!』

『いや、関係ないっしょ!先輩モテないからって必死すぎますって』

ゲラゲラとテレビの中で笑いが起こる。くそ…このモテ芸人め!モテない男の気持ちがわかってたまるか!オレは鼻息荒くして缶を握りしめた。





翌朝、何となく怠さを感じる身体で仕事に向かった。
今日は運がいいことに電車では座席に座れた。ただ、暖房のせいか頭がぼーっとしている。眠たくなってきて、ついつい舟を漕いでしまう。一際大きくぐらついた時、隣のサラリーマンの肩に頭をぶつけて反射的に起きた。

「すいませんっ…」

慌てて謝るオレ。

「いえ」

こっちを見たサラリーマンは気にしてないようで、短く返事をしただけで小さく畳んだ新聞に視線を落とした。銀フレームの眼鏡と撫で付けた髪型からインテリ臭がぷんぷんする。
オレはちょっと安心して、またも眠気に襲われる。再び揺れ始めたオレの肩に、インテリサラリーマンの手が触れた。

「よければ、私の肩を使ってください」

「え?」

どゆこと?

「ぐらぐらしていては貴方も危ないですし、周りも気になりますから」

「や、でも」

なぜ男の肩に
頭を乗せねばならんのだ!

「いいから」

半ば強引にインテリサラリーマンの手がオレの頭を引き付けて、その肩に乗せられる。抵抗しようとすると手に力が込められて抑えつけられた。くそ、このインテリーマン!何考えてんだ!

「おやすみ」

ぞくりとする低音で囁かれて、急激に眠くなる。何だこれ。
オレはそのまま深い眠りに落ちていった。



 
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