「お待ちしておりました、主に選ばれしお方。早速ですが主…ユズ様がお待ちですのでこちらへ」
『え、あの…?』
執事服を着た少し童顔な男性に、半ば強制的に部屋に通される。
名札には 北山 という文字。
「あーやっと来たぁ、待ちくたびれちゃったよ」
部屋に入ると、
女の子が口をとがらせていた。
「ユズ様、紅茶です」
「ありがとう。…あ、君も飲む?」
『いえ…』
「いらないの?ミツが入れる紅茶は美味しいのに、もったいない」
淹れたての紅茶からはいい香りがした。
しかし、
私は今、紅茶どころではない。
『あの、私に一体なんの御用でしょうか?』
そんなに、急いで本題にはいらなくても。と笑いながら彼女は言った。
そして、
“君にはこれから僕の作った物語の世界へ行ってもらいたい”
と言葉を続けた。
『は?』
物語の世界に行く?
なにそれ?
あまりにも現実味がなさすぎる話に私は困惑した。
「君には夢が足りない、それに希望も。現実ばかり見てたら疲れちゃうよ?そう、今の君みたいにね」
そう言って再び紅茶に口をつける。
『っ、余計なお世話です!』
「急に叫ぶな、耳が裂ける」
『あ、すみません…。でも、物語の世界に行くってどういう…』
「言葉通りの意味さ。ただ、僕の物語の世界に入るには少しばかり注意事項があってね…それを破ってしまうと永久にあの世界から抜けられなくなる」
そう言った彼女の顔からは笑顔が消えていた。
そして私の前に差し出された一枚の紙。
注意事項
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この世界の物語は、
決して外へ持ち出さない。
中傷は禁止。
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『これだけ?』
「そう、これさえ守っていれば問題ない。それから…」
『それから?』
「こちらの知識不足で、人物の喋り方がいまいち把握しきれてなくて違和感を感じることがあると思うがそこは大目に見てやってほしい」
『はい…?』
「それと、私は北山・玉森推しだから二人の話が多くなるかもしれないけど許してくれ」
『分かりまし…てか!あなたの世界に行くなんて一言も言っていないんですが!』
「はぁ、まだ分からないの?君に拒否権はない。それにこの城に招かれた時点で君の運命は決まっている。ミツ」
「すみません、主の命令なので…」
北山さんの言葉と同時に目の前がグラグラと揺れだし、私は意識を手放した。
「さぁ、深い夢の始まりだ。好きな物語の扉を開けるといい―…」
▼夢への入り口
2012.11.15