飴乃寂


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リング戦四日目、嵐の守護者候補の戦い。


本日の会場である校舎の三階へと向かうと、一番最初に出迎えてくれたのはリボーンちゃんだった。



「ちゃおっス」


「早いわねリボーンちゃん、こんばんは」


「ところでお前、ゆうべはジンに会ってねーか?」


「!?」



出会い頭早々に突かれたくない所を突かれ、思わず後退りしてしまった。


そんなあからさまな態度を見せてしまったが最後、この赤ん坊に何を言っても通じる訳がない。


訳がないのだが、反射的に頭は高速回転であらゆる言い訳を並べ始める。



「な、何を言ってるのリボーンちゃん?ジンさんは行方不明になって誰も見てないって……」


「じゃあお前、ゆうべは一体何してたんだ?」


「それは昨日電話でも言ったでしょ?プロットもろもろに集中しすぎてすっぽかしちゃったって」


「お前ならそういうこともあるだろうが、初日にあれだけ覚悟を決めたヤツが、二日目で早々すっぽかすとも思えねー」


「そ、それは本当に申し訳なかったけど!」



けど!だけど!!



「動力源が限られるお前が大事な用事を丸々忘れるほどのことが、現実で起こったとしたとすれば……」


「……っ!」



キランと獲物の狙いをつけたように光った目に、思わず生唾を飲み込む。



「お前がこの三次元で唯一猫を被っても媚びまくる、ジンがいたからってだけだ。イチノに何かあれば、俺達にも連絡が来るだろうしな」


「うぐぅ……っ!!」



その時私の中で、ボクシングの試合が終わった時に連打される、ゴングの音が鳴り響いた。


負け戦はどう悪あがいた所で、状況が好転することは微塵もなかった。


そもそも相手が悪すぎる。相手は読心術まで使える世界一のヒットマンだ。



ジャキッ



「おめージンと何を話した。吐かねーと撃つぞ」


「嫌よ!銃を向けられたってジンさんと二人きりの秘密の会話なんて誰にも話さないわ!!」


「おいリボーン!!早川に銃向けて何やってんだよ!!」


「良いところに天使が!助けなさい沢田!!」


「えっ、なっちょ、え"えっ!?」



騒ぎを聞きつけてか、校舎の奥から出てきた沢田の後ろに慌てて隠れる。


挙動不審になっている沢田の両肩をガッチリ掴み、逃がさないと盾にする。



「どけツナ、ぶっぱなすぞ」


「た、タンマタンマ!二人で何してたんだよ!?っていうかなんで俺はいつの間にか盾にされてるの!?」


「今どいたらベルの二の舞にするわよ沢田。人の恋路を邪魔する輩は、赤ん坊だろうが馬に蹴られて死になさい」


「ベルって……まさか今日の相手の切り裂き王子!?早川は晴戦の時といい、一体何してんの!?!?」


「知ったら後悔するわよ」


(ますます何したんだよ!?!?)


「……ま、茶番はこのくらいにして」


「茶番!?」


「何よ悪ふざけだったの?」



大人しく銃をしまったリボーンちゃんに、沢田の影から顔を出すと、リボーンちゃんは腕組みをした。



「早川、本当にジンから何も聞いてねーんだな?」


「…………」


「え?ジンさん見つかったの!?」



殺気はないが真面目になった雰囲気に、私は昨夜の事を思い返しながら言葉を選んだ。



「…………雪の守護者の使命とか、その事について聞いたくらいよ……」


「そういえば雪の守護者について、俺まだ知らないや」


「お前らにはまだ教えてねーしな」


「だったらちゃんと教えておけよ!俺達は霧の守護者のことだってまだ聞いてないんだぞ!?」


「霧の守護者?」


「あっそうか、早川も知らないのは当然だよな……」



沢田が言うには、雪の守護者の時同様、沢田側の霧の守護者が誰なのか知らされてないらしい。


なんてずぼらなのかしらとリボーンちゃんを見るも、相手はどこ吹く風といった体でポーカーフェイスを貫いている。



「雪の守護者の話は、全員いるところでするか。山本達ももう着いてるしな」


「あのバジルって美男子も?」


「ああ、来てるぞ」



私達二人を置いて先に歩き出すリボーンちゃんに少し遅れてついて行くと、確かにそこには山本を始めとするメンバーが揃っていた。


が。



「…………獄寺はどうしたの?今日はあいつの番でしょう?」



本日の主役に等しい人物が見当たらないのでそう言うと、何故か周りの皆は黙って俯いてしまった。


隣にいる沢田も同じで、ならとその足元にいるリボーンちゃんを見下ろす。



「獄寺の家庭教師はシャマルなんだがな、あいつは勝機がない戦いに弟子を出すやつじゃねぇ。まだ現れないってことは、ヴァリアーに勝つための新技を完成させられてないってことだ」


「でもまだ試合にまで時間があるし、そう決めつけるのは早いと思うぜ?」


「そうだ!!俺も極限に信じておるぞ!!」


「山本やお兄さんの言う通りだよ!獄寺君だってあんなに意気込んでいたんだしーーーー」



皆の会話を聞きながら、なるほどと心の中で相槌を打つ。


ただでさえこれは正統なボンゴレの後継者を決める戦い。自称(笑)右腕の彼が燃えないわけがない。


しかし昨夜の試合のせいで沢田は妨害者として失格。一勝二敗で、もし今日も勝てなかったら三敗で、残りの試合に全て勝たなくてはいけない。


このピンチにこそ右腕の出番だと気負っているに違いない。


それが現れないとなると、よほど出場を反対されているのか。


中学の保健医で女好き、セクハラも絶えずよく捕まらないなと思っていたけれど、彼もまさかの裏社会の闇医者だった。


美女探しをきっかけにイチノちゃんとふか〜い友達になっていた時は、もう勝手にしてくれと匙を投げたが、根底にあったのは医者であるからこそ命の大切さを尊ぶ心だった。


なんだ、まともなところもある人だったのか。



「獄寺の新技がどうであれ、とにかく俺達は待つしかねぇ。その間にお前らにも雪の守護者について教えてやる」



そんな失礼なことを考えて感心していたら、リボーンちゃんが昨夜のジンさんのように、雪の守護者の使命や特徴を話し始めた。


聞いた話と相違ない話だったが、決定的に違ったのは、この後だ。



「で、重要なのはここからだ。これは随分前にツナ達の周りにいるやつらの報告を九代目にした時に知ったんだが」


「え、九代目って……ザンザスをボス候補にした今のボンゴレのボスだよな?」


「まぁな。あの時はまさかこんな事になるなんて予想してなかったが、これも俺があいつに死ぬ気の炎の修行をさせていた理由の一つでもあるんだ。聞いた時は、この俺も流石に驚いたぞ」



レオンちゃんがみょんと四角形に伸びて、誰かのプロフィールに擬態する。


古い写真付きの、イタリア語の羅列。


カトレーナの名に相応しくカトレアの花のような金髪に、…………て…………。



「え、これって……」


「イチノちゃん」



思ったより、大きな声が出たらしい。


私が呟くと同時に、沢田や山本達の視線がこちらに集中した。


イタリアの二の舞になるものかと猛勉強した努力が、目の前の文章を容赦なく脳内で日本語化する。



「初代の、実妹…………突然、行方不明に、なり…………その後、生死の手がかりも見つかって、いない……」


「いっ、妹ぉ!?」


「初代ボンゴレに兄妹が存在したのですか!?」


「にしてもこれは……品臣を小学生にしたバージョンみたいなのな」



周りの反応は、余り耳に入って来なかった。


ただただ目の前のものに釘付けで、読めば読むほど、気分が悪くなってくる。



「天真爛漫で、誰とでも打ち解ける性格だった……一方で、兄である初代に反発することも多く…………彼女の情報収集能力は、人智を超え予知に通ずると謳われ……その源は実質上、謎に包まれている……」



が、訳すのはやめられない。


唾を飲み込み、震える指で文章を追っていく。



「…………一説では……幼い頃から、寝込むことが……多かったため…………極秘に埋葬……され……た……?」



初代雪の守護者だったカトレーナの情報が、勝手にイチノちゃんに置き換えられて、想像が進んでいく。



誰とも打ち解けた、情報屋、寝込むことが多かった、そしてーーーー。



最悪な展開を頭から追い出し、ジンさんの言葉を思い出す。


それに現地の病院で会った先生だって、命には関わらないと断言していた。


容姿だけではなく性格も似ていたようだが、彼女は彼女。全くの別人だ。


危ない、どうしてもこの手の話題には弱気になってしまう。


しっかりしろと己を奮い立たせ、気合いを入れる。


私はイチノちゃんがきっと目を覚まして、元気になってくれると信じている。


その間に何があったか、今度は私から言い聞かせたい。話したい。


そして萌えたポイントを、朝から晩まで連日語り尽くしたい!!



「初代に妹がいたなんてバレたら、後継者争いもまたややこしくなるからな。これはボスからボスへ口頭でのみ受け継がれる、初代雪の守護者の極秘情報だが、イチノに似ている点が多いっつーことで特例で教えてくれたんだ」


「拙者はまだ、品臣イチノ殿に会ったことはありませんが…………ここの一説に、病弱だった故公の場に出られなかったとの記述があります。リング戦が行われている今を考えれば、似通っている部分に一致します」


「……そうね。彼女も腐っていたら隔世遺伝や先祖帰り、むしろ本人説でも信じるわ」


「腐っている!?……とは、日本独自の表現ですか?ちなみにどういった意味で……」


「やめとけバジル、お前は知らなくていい世界だ」


「なるほど!その世界に触れる為には、拙者はまだまだ未熟だということなのですね!やはり日本は奥が深いです……」


「…………リボーンちゃん、このこ三日位家に預けさせてくれないかしら?完璧に仕上げてみせるわ」


「¨修行の一言で改造し放題¨っつー下心が見え見えだから却下だ」


「チッ!並盛には貴重すぎる無知なピュア系美男子なのに!!」


「早川って、時々物凄く激しくなるよね……」


「でもついさっきみたいに顔真っ青にしてた時より、ずっと元気そうでいいじゃねーか!」


「山本にはあれが元気に見えるんだ……俺には怖い思い出しかないよ……」



心機一転。会話のどさくさに紛れて一人こちらの世界へ引きずり込んでしまおうと試みるも、呆気なく失敗に終わった。



「あ・の・さぁ〜」



そんな時に肩にかかるズシッとした重さに、既視感を覚える。


わざわざ後ろを見なくとも、相手の正体は分かっている。



「な〜んかとあるネットで俺に激似だって評判で大好評急上昇中の小説があるらしいんだけど、お前知らね?」


「心当たりがないわ」


チャッ


「しかもそれ、イタリアの俺達の本部地域中心に広まってんだよね」


「その地域のイタリア人が書いたからじゃないの?」


ツツ...


「お前なめてんの?いくら訳されてるとはいえ、発信源は日本の趣味悪ィ個人サイトだってのは分かってんだよ!」


「あらそう」


「、………しししっ」


ガンッ


「いてっ!」


「おいベルゥ!!!何マジギレしてやがんだ!!てめぇの今日の相手はそいつじゃねぇだろお"ぉ"!!!」



不気味な笑みと共に目の前にちらつかせていたナイフを持ち上げようとしたベルに、スクアーロの拳が制裁を与えた。


頭を抱えるベルにそ知らぬ顔を通し続けていれば、本日も彼女達が、我関せずと事務的に口を開く。



「間もなく時間となります」


「あの時計の針が十一時をさした時点で獄寺隼人を失格とし、ベルフェゴールの不戦勝とします」



チェルベッロ達がさす時計を自然と見上げると、残り時間はもう二分とない。


今回の戦いがどうなることやら、少なからず不安はあるのだが。


今はまだ、私にはやりたいことがある。


斜めがけの鞄からデジカメを取り出し、ベルの服飾を中心にシャッターを切る。



ピピッ


カシャカシャカシャッ



「んあ?」


「……今度は何してんだぁ?」


「早川はいつもカメラを持ち歩いているな!」


「ええ。ボタンの形や編み上げブーツの作りがイマイチ分からなくて適当に描いてしまったから、次は完璧にする為に保存するのよ」


「うむ?いまいち意味が分からんが、己の腕を高めようとしていることは極限に分かったぞ!」


「こンのアマまだ何かやる気……!!」


「ベルってば今はリング戦だってこと忘れてないだろうね?」


「忘れてねーよマーモン!!俺はあいつをぶっ殺したいだけだっつーの!!」


「クラゲ頭の変人に殺されるくらいなら、そこら辺のドブで溺れた方がまだマシよ」


「この俺がドブ以下なワケねーだろ!!」


「君達の犬猿っぷりもよく飽きないね」



隣で手元を見ていた了平先輩やベルに適当に返事をしながら、保存された複数の画像を確認する。


一目では分からないが、線の一本まで原作に忠実に描きたくなるのが絵師というものだ。


これで描写ももちろん、イラストだって心置きなく全力で詳細に描ける。


なので私はスクアーロに羽交い締めにされて唸るベルをみやり、遠慮なく笑った。


その直後に都合よく時計が爆破されるなんて、もちろん知るよしもない。



「あの小説、予想以上に評判が良かったから、続きを書くらしいわよ?」


「〜〜〜〜っ、やっぱお前から殺す!!!ぜってぇ殺す!!!」


「うお"お"お"お"お"ぉ"いガキ共ぉ!!!そのケンカなら後でやれえぇぇ!!!」




ドガァンッ




まるでベルとの騒ぎを打ち切るように、時計を破壊した爆発音。


その音により辺りは一瞬静まり返るも、すぐに心強い声が聞こえた。



「お待たせしました十代目。獄寺隼人、いけます」








((漫画にするとして、どこまで脱がせようかしら……))(ベルフェゴールの二の舞にならなくて良かったな、ツナ)(よくわからないけど早川だけは敵に回しちゃいけないことだけは改めてよく分かったよ!!)
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