飴乃寂


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£晴の戦い£




たった二日分のはずが十日以上の、つまりまるまる一週分の見逃した回を一気に消化しつつ、横で稼動するPCの画面に表示された時刻を見た。


流石は我が親。自分が留守録していなかった分もきっちり全て録画されていたのだから、ますます頭が上がらないものである。



『場所は深夜の並盛中学校』



昨日彼女達が言っていた深夜とは、実質何時を指すのだろう。


深夜アニメの放送時間が深夜二十四時〜深夜二十七時などと表記されることはざらにあるが、だとしたら何時に行くのが一番正しいのか。


些細な疑問を解決すべく、そこら辺に放り投げていた端末を引き寄せ、辞書機能を開く。


PCでは久しぶりに会うメンツが、相変わらずな話題を繰り広げてレスを消化している最中だ。



「深夜……夜もふけた頃、真夜中」



ということは、つまり?


辞書を引き直し、次の単語を開く。



「真夜中……真っ暗になった頃、深夜」



…………。


部屋の中を、テレビとPCの稼動音だけが支配する。



「こンのドカスがああああっ!!!!」



最も発達したはずの文明の利器が、なんて役立たずなの!!?


某ボスのように叫んで端末を放り投げたが、ボスのように勢いよく叩きつける度胸はなく、端末はベッドのスプリングで小さくバウンドした。



「開始が一体何時からか分からないなら、留守録も何時からしとけばいいのか分からないじゃない!!」



あんた達にはリアルの生活だけで十分なんでしょうけれど、私にはオタク達によるオタク達の為のコミュニティーがあるのよ!!!


分刻みでゲームイベントは終始され、同人的な絵描きイベントだって予告されていたものから突発的なものまで様々だ。


前情報をいくら仕入れていたって、それを実行できる余暇と環境がなければ意味がない。


次回のイベントの打ち合わせだってあるのに、彼らになんて連絡すればいいか分からないじゃない!!



「大体あんな話聞いちゃったら、気になりすぎて集中できないわよ!!」



カーテンがかかった窓の向こう側には、通い慣れた中学校がある。


あそこでクラスメイト達があの常識の通じない連中と戦うだなんて、今ぞっこんのアニメすら頭に入らないくらい落ち着かない。


ああ落ち着かない。普段通りに生活しよう、落ち着こうとすればするほど、窓の外が気になって仕方ない。


留守録の消化に集中できていたのも、学校が生徒達で賑やかだった昼間の間だけだ。



つまり今日の学校は、堂々とサボったのである。


ああもう。



「何やってるのかしら、私……」



ルッスーリアだって、言っていた。



『これ以上知ったら、あんたも一般人じゃいられなくなるわよ』



だから何も聞かず、ただただ自由気ままに接していたというのに。


どうして私は部屋着の上にジャケットを羽織って、外出の準備をしているのだろうか。


番組表を何度も確認して留守録しなくたって、リアタイで観ていれば間違えたってすぐに気づけるわよ。



「デジカメ、メモリーカード、端末……に」



財布と、筆記用具。


取り合えず最低限のものだけを小さな斜めがけバックに入れて、こっそり部屋を出る。


オタク達は祭の最中だが、世間一般には就寝する時間である。


両親を起こさないように忍び足で階段をおり、玄関を開ける。



「いってきます」



申し訳程度に小声で挨拶し、徒歩三分の学校に向かって足を駆ける。



好奇心は身を滅ぼす。



それはまさに、今の私の現状だ。



だがしかし。



私は、声を大にして言いたい。



家の真横でマフィア達がガチンコバトルをしているだなんて、怖すぎて眠れやしません。



と。






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