飴乃寂


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「よくお集まりいただきました」


「それでは只今より後継者の座を賭け、リング争奪戦を開始します……が」


「その前に一つ、連絡事項が」


「連絡……?」



ツナ達の前に現れたチェルベッロ達が言葉を切った時、後ろから駆け足で近づいてくる人影があった。


耳のいい獄寺が真っ先に音に気づいて振り返ると、目をギョッとさせる。


続いてツナも背後から近づいてくる人物に気がつくと、 えっと口を開けて悲鳴を上げる準備をした。


そんな話し相手の様子を介することなく、チェルベッロ達は淡々と声を続ける。



「昨晩行われた雪の守護者同士の対決は、両者会場に現れず不戦敗……」


「引き分けとして、勝敗のカウントはしないものとします」


「え゙え゙!?」


「昨日もやったのか!?」


「まさか俺達が別れた後に……か?」


「え゙え゙え゙え゙!!?」



しかし悲鳴はチェルベッロや山本、獄寺の言葉に向けたものへと早変わりし、ちょっと待てよとツナは小さな家庭教師に顔を向けた。



「そりゃ昨日だって雪の人はいないワケだよ!!っつーかお前本当に誰を選んだんだよ!?」


「あら。ボスの言う通り、やっぱりあの小娘は引っ張り出さなくて良かったのね」


「不戦敗たぁ不服だが……まあこれで七戦、奇数になった。きっちりシロクロつけられるってことだぁ」



頬に手を当てて一人言のように呟いたルッスーリアに、隣のスクアーロも頷いてみせる。


そしてツナと同じように、敵対している赤ん坊を見下ろした。



「ゔお゙お゙ぉ゙い!!一応聞いておく!お前らの雪の守護者ってのはどんな奴だぁ!?」


「それはこっちも知りてーぞ」



そこにようやく駆け足の主がツナ達の元に辿り着き、それを視界の隅に入れながら、リボーンは臆することなく言った。



「こっちはジンを指名した。イチノの代理でだったがな」


「えっ!?」


「じ、ジンさん!!?」


「っていうかそれより……っ」


「早川!お前も応援に来てくれたのか!?」


「……え、ええ……」



上からリボーン、早川、ツナ、獄寺、了平。


到着した途端に耳に届いた事実に、早川はまじまじとリボーンを見下ろした。



「リボーンちゃん……今の話、本当なの?」


「ああ」


「イチノちゃんか……ジンさんも、戦うはずだったの?」


「まあな」


「あら、誰か近づいてくると思ったら」


「なんだぁ、お前かぁ」



早川とは顔見知りであるヴァリアー側は、ルッスーリアを先頭に校舎から地面へ飛び降りた。


ツナ達とは距離をとって立ち止まったルッスーリアに、早川が驚きで呆然とした表情を向ける。


その視線を受け、友人となった乙女な彼は、拗ねたように唇を尖らせた。



「あんなに拒絶してたのに、どうして来ちゃったの?」


「だ、だって……」



もう後には戻れない。


そう釘をさされた上に、彼らは深く干渉することなく、予告通りに早川を手放した。


だからこの場にいるのは誰かに強いられたものではなく、自分自身の意思の行動である。


つまり、戻れない覚悟をしたのだ。


胸元のバッグの紐を両手で掴み、ルッスーリアの顔を見返して。



「イチノちゃんや、沢田や、あなた達が……心配になったから……」



危ないことは百も承知だ。


だがそれで自分が知らぬまま誰かがいなくなるのは、離れてしまうのは、嫌だから。


ヴァリアー達の性格を考えれば、甘いだのアホらしいのだと笑われるだろうが、仕方がないではないか。



「ねえ、ルッスーリア……私、まだあなたに聞いてないことがあったの」


「……何かしら」


「あなたがイチノちゃんの病室にいたのは、どうして?」


「…………」



今まで親しかった人間と距離が出来るだけで、こんなにも寂しくなるのだ。


それが今度は、一生の別れになるかもしれないと考えたら。


いてもたってもいられずに、足が勝手に動いたのだ。


自分が戻れなくなる理由は、これだけあれば十分だ。


目を逸らしたら負けな気がして、サングラス越しにルッスーリアの両目を見つめる。


その下は自分達と同じように喜怒哀楽をよく表し、言葉を巧みに扱う、同じ人間だ。


それが今日は何故か、見えない壁に阻まれているかのように距離を感じる。


ルッスーリアが、黒服を着た集団が、今までとは全くの別人に見える。



「もちろんあの娘が、私達の雪の守護者だったからよ」


「な゙っ」


「ど、どういうことだ!?」


「うちには雪の守護者の座に相応しい人間がいなくてね。取り合えず数あわせに適当に選んだのが、イタリアに入院中だった品臣イチノだっただけよ」


「なるほどな。つまりはからずも、雪の守護者は両者ともイチノを選んでたってことだな」


「そんなことってあり得るの!?」


「ぐ、偶然……だよな?それか確率的に……奇跡としか」


「だが俺はイチノの急病で、ジンを代理に立てた。そこで両者の雪の守護者が異なり、形式上バトルも行われたんだな」


「それでもおかしいわよ!!」


「っ!?」



声を上げて周りの騒ぎを静め、早川は続けた。



「急病で何日も目覚めない人を選ぶだなんて、数あわせにしてもお粗末すぎるわよ!!あの時あなた、私がいなかったら本当は……っ」



本当は。


本当は、誘拐されるのは彼女の方だったのではないか。


そして、無理やりこの場に出されていたのではないか。


いいや、違う。


それだけなら、まだマシだ。



「………………イチノちゃんを、殺すつもりだったんじゃないの……?」



戦いの場に立ち歩きもできない人間を同行させるだなんて、余程の理由があるに違いない。


もしかしたらヴァリアークオリティーやらボンゴレの財力やらで、彼女を目覚めさせる秘策でもあったのかもしれない。


だがそれらを上回っても尚重要な理由が、自分の頭では思いつかなかったから。


戦いに間違いなく足手まといになる彼女を、先に片づけようとしたのではないか。


そう考えると、病室に訪れたのがあの一度だけでも、日本に戻る時に彼女を同行させていなかったことも、しっくりくる。


リボーン同様、彼らもはじめから彼女を戦わせる気などなかったのだ。



「あんた、何か誤解してるわね」


「えっ?」


「だ・か・ら、中途半端に物事に首を突っ込むんじゃないって言ってるのよ」



世紀の大告白をしたかのような緊張をほぐしたのは、そんな返事だった。


ルッスーリアは小指を立てた拳で、早川を指す。



「あの娘を選んだのはマーモンだけど、後は放っておいていいってボスが言ったのよ。だから私は、単にあの娘の顔を拝みに行っただけ。まあボスのは勘だろうから、理由はないんだろうけど」


「か……勘!?」


「そもそもリング争奪戦の中で、雪の守護者のバトルが起こったことは過去に一度もないの。今回のように両者不戦敗、みたいにね」


「はあ!?」


「そもそも俺は、誰にも口外せずにバトルが行われている方に納得いかねーぞ。家光がイタリアでジンに会ってから、ジンもずっと音信不通だしな」


「リボーンちゃんまで!?」



ちょっと待って。


一気に話についていけなくなったんだけど!


そんな中、唯一冷静を保つ彼女達が義務的に述べた。



「ある人物の希望により、雪の守護者戦は前日に行いました」


「ある人物……?」


「ボスか?」


「ヴァリアー側も知らねーってことは……九代目、とか?」


「…………」


「へ、返答なし?」


「あいつら、肝心なとこはだんまりかよ!」


「雪のハーフボンゴレリングは、既に二つとも返還されていますのでご心配なく」


「……ということは、ジンがリングを返還しに日本へ来てたってことか?」


「かもな。ヤツがここに姿を現さない理由は分からないが……」


「ま、音沙汰ないのも無事の便り、ってな!」



様々な憶測が飛び交う中、輝く指輪が一つ入った小箱を見せながら、チェルベッロ達はまた口を閉じた。


会話の主導権を握っていた早川の混乱により、再び主導権は司会者に渡る。



「では遅くなりましたが、改めて」


「あちらをご覧ください」






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