飴乃寂


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£開戦宣言£




「ねぇルッスーリア。私は確かに、イベント会場では全力でそのキャラになりきっていたわ」



キャラ一人一人の個性を出すために、ウィッグから衣装、メイクにとどまらず口調や口癖まで研究し尽くし、それはもう力を入れて。



「けれどね、あくまで閉鎖的空間の中だけであって、私はそのままの衣装で外出したことは一切ない」



文化祭でコスプレするから貸してくれ、と頼まれて衣装を貸すことは、稀にあったが。



「嫌だわ!折角の登場シーンなんだから、おめかしして行かなきゃダメでしょ!?」


「登場シーンって何よ。ってそれより日本についたんだから家に帰してよ!!」



日本、それも並盛の某ホテル。


当然のように最上階のスイートルームを貸しきって泊まったヴァリアーの一行について母国へ帰れた私は、しかしまだルッスーリアに拘束されていた。



「あと、ちょ〜っとだけよ!どうせなら奴らをあっと驚かせたいじゃない!」


「奴らって……リボーンちゃん達のこと?」


「もちろんよ!」



着せ替え人形よろしく色んなドレスを着せられ、ようやく黒い高級そうなドレスに決まったと思えば、次はメイクだヘアメイクだとか。


用意周到に私用のカラーコンタクトまで出され、もうルッスーリアの勢いは止まらない。



「ホントにあんたってば、顔が私の好みドストライクすぎて、このまま手放すのは惜しいんだから!」


「あなた、死体愛好家じゃなかったの……?」


「あのヒットマンの愛人じゃなかったら、やってたかもしれないわね。あなたどうして男に産まれてこなかったの?」



男だったら私好みの肉体に改造して、完璧に仕上げたのに!!


と悲鳴を上げるルッスーリアに気づかれることなく、私の身体中からはどっと冷や汗が流れた。


さらっと事無げに言われたが、じゃあなにか。


私がリボーンちゃんの愛人(候補)でなかったら、そしてリボーンちゃんが持たせてくれたあの翻訳機がなかったら。


今の理由で、ルッスーリアに殺されていたのか。


「顔が好みだから」という理由だけで、殺されていたのか。



死体愛好家の仕上げって言ったら、殺すこと一択しかないじゃない!!



目の前の鏡台に写っているのは、いつもの日本人らしい目の色ではなく、人工的な銀色に輝く両目だ。


自分の顔立ちだが雰囲気が違うし、何かのキャラを模しているわけでもないので、違和感しかない。


やっぱりリボーンちゃん、あの翻訳機を渡してくれてお礼を言うわ。


そしてお母さん。心の底から、きっと人生で一番、いっっっちばん感謝します。



私を女に産んでくれて、本当にありがとう!!!!!!!



「さあできたわ!ガキでも女は着飾れば、誰もが羨む立派なレディになれるのよ!!」


「……やっと終わった」



ドレスを汚さないように肩からかけられていたケープをはぎ取り、無意味に私の背後でポーズをとるルッスーリアが、鏡ごしに見えた。


何だかんだで色んな話に花を咲かせた仲だ。


これでお別れかと思うと寂しさも込み上げてくるが、私は一つだけ、彼女にどうしても言いたいことがあった。



「あなた、一日中よくそのテンションが続くわね……」


「んもうっ、褒めても何も出ないわよっ」



小指を立てて、ぶりっ子のように体をくねらせるルッスーリア。


もはやこの不屈のポジティプ精神には、拒絶した分こちらが疲れるだけである。


つまり結局は、ルッスーリアに流されて言いなりになってしまうのだけれど。


これでアサシンでガチな死体愛好家でなければ、陽気すぎるだけの、いい友達なんだけどなぁ。






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