飴乃寂


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「―――ここからは、我々がジャッジを務めます」



視界が激しく上下に揺れ、着地の衝撃に醜い悲鳴を上げると、斜め前にいたベルが、おかしそうに小さく笑った。


それを恨みがましく睨むも、何やら大事な話をしているらしく、雰囲気というか空気が、重い。


後ろを振り返ると目の前に沢田達がいて驚き、次いでザンザスさんが間近で発する謎の光にドン引きし。


ツルハシが飛んできたと思ったら、沢田のお父さんだと言う人が、片目長髪の可愛い系男子と現れて。


そうしたら次はピンク髪で褐色肌の、お揃いのマスクをつけた女の人達が登場して、サクサクと場の司会進行をし始めて。



「場所は深夜の並盛中学校」


「詳しくは追って説明いたします」


「えっ!?並中でやんの!!?」



アカン。


完全に私、話し出すタイミング逃してる。


というか私の存在を示す隙すら、全くなかった。


リング戦?


この人達と、沢田達が戦うってこと?


ヴァリアークオリティの超人と、最近まで一般人だった中学生が?



「…………」



………腕相撲とか、テレビゲームなわけないわよね。


筐体か他の私がやり尽くしたゲームなら、私もヴァリアークオリティを発揮できるかもしれないけど。



「……これ、実は全部私が見ている夢なんじゃないかしら」


「ししっ、俺が試してやろうか?」


「腹筋が痛いから、試さなくても結構よ」


「つまんねっ」



ザンザスさんの肩でゲンドウポーズをとると、ベルがいたずらっ子のように笑う。


あのよく切れそうなナイフで刺されるだなんて、九死に一生を得なければ確実にあの世行きだ。


望みが薄い生死をかけるくらいなら、目の前の現実を受け入れることにしよう。


ああそうだ。これは現実なんだ。


私が獄寺とイタリアに行ったのも、王子様なディーノさんに会って、お見舞いに行って、ルッスーリアに拐われたのも、貴族のようなお屋敷が実はアサシンの幹部達の家だったのも、あの女の人達がどちらもマスクの下が美人な香りがしたのも、全部が全部、現実だ。



「ところで、そんなところにいたんだな。早川」



どういうことだってばよ。


展開が早すぎて、ついていけない。


再びゲンドウして俯くと、ふいに誰かに呼ばれた気がした。



「ん?」


「あらやだ、いつの間に手放してたのかしら」



白々しく頬に手をあてるルッスーリアには、後でなにかしらの制裁を与えよう。



「イタリアで行方が分からなくなって、方々探したんだがな……そいつらのところなら、見つからないわけだ」


「うふふ、ちょーっと借りてたわよ♪」



そのルッスーリアが、斜め下を向いて喋っている。


その目線の先を辿っていくと、懐かしい子供の声が届いた。



「無事で良かったぞ、早川」


「リボーンちゃん!」



全ての元凶なのに、その全てから守ってくれた、憎むに憎みきれない赤ん坊!!


私の声に、戸惑いを見せていた沢田達が、ようやく合点がいったように目を見開いた。



「もっ、もしかして早川さんー!!?」


「なんつー格好してんだおめーは!!っつーかあれから国中めちゃくちゃ探したんだぞ!?」


「早川!?見違えたぜ!」


「早川?誰だ?」


「京子の友達だぞ」


「むっそうか!俺の名は、笹川良平だ!よろしくな早川!」


「一斉に喋らないでちょうだい。とりあえず、京子ちゃんにはよくしてもらっているわ。悪かったわね獄寺」



本当に沢田のツッコミは相変わらずだし、各々好き勝手に喋るから、どれに返事をしたらいいのか困るのだけど。


ザンザスさんもようやく私の存在を思い出してくれたのか、やっと地面に下ろしてくれた。


塀の上にいる私からは、下にいる彼らが記憶より小さく見える。



「この淡々とした話し方、間違いなく早川!!」


「あなた達も相変わらず賑やかね」


「ヴァ、ヴァリアーの仲間じゃなかった……」


「俺はてっきりザンザスの愛人か何かかと……」


「でもよく分かったわねぇ、かなり雰囲気を変えたつもりだったんだけど……」



沢田と獄寺が同じ顔をしているのは、面白いわね。


それより最後のルッスーリアの言葉は、リボーンに向けたものだろう。


そういえば、私はほとんどずっと彼らに背を向けていたし、今は目の色も違う。


なのにリボーンちゃんははじめから私と断言できたのは、どうしてだろう。


と、ボルサリーノが似合う彼を見下ろした。


リボーンちゃんは、鍔をつまんで軽くこちらを見上げる。



「俺が、お前の顔を見間違えるわけねーだろ」


「!」


「んまっ」


「うわ、キザッ」



なにこれ、その気もないのにキュンとした。


胸に手をあてるなんて中々に乙女なポーズをとりながら、ドン引きしている沢田を横目に口を開く。



「…………リボーンちゃん」


「なんだ」



誰かに女の子扱いされること自体慣れていないから、むず痒くてドキドキする。


本当にリボーンちゃんったらおませさんで、赤ん坊なのにどこか男らしい色気がある。


私は勇気を振り絞り、一拍置いて一世一代の宣言をした。



「私、あなたの力は二度と借りないと誓うわ」


「悟りきった笑顔だ!!?」


「いい心がけだな、でも俺はいつでも力になるぞ」


「だからもうならないわ!!」



もう二度と、二度とこんな目に遭うのは、御免だ。



「あいつのあんな顔、初めて見たぞ……」


「ははっ、とりあえず元気そうで良かったじゃねーか!」


「そうだぞ!自力で事を成すことは、良いことだ!!」


「た、大変だったね……早川」



今なら沢田の苦労にも同情できる。


そして同情しているからこその、この言葉だろう。



「とりあえず沢田。あなたさっさと実力で先生を追い越して黙らせなさい」


「え゙え゙俺―――――!!?」


「ならまずきっちりこのリング戦を乗り越えないとな、ツナ」


「、うわああああああっ!!!」



沢田も沢田で、よくこのテンションでリアクションし続けられるわね。十分元気じゃないの。


それが実はザンザスさんの人を殺せる視線に対する悲鳴だと気づかぬまま、傍にきたルッスーリアに顔を覗きこまれた。



「じゃあ私達はもう行くわ。暫くあのホテルにいるから、いつでも遊びに来てちょうだい。むしろ一生私といていいわよ」


「あ、ええ……」



暖かい大きな両手で頬を包まれ、ほうと溜め息をつかれる。



「…………もう女でもいいから、私のコレクションにならない?」


「ならないわよ」



ちょっと寂しいとか思ったのに、台無しだ。


ぺしっと手をはね除けると、ツれないわねぇと口を尖らせつつも、ルッスーリアはうふふと笑って踵を返す。


いつの間にかザンザスさんはとっくに歩き出していて、それにレヴィと(確か)モスカ、マーモンちゃんが続いていた。



「じゃあなぁ」


「またな〜早川、うしししっ」



スクアーロはぶっきらぼうに、ベルは相変わらず笑って去っていく姿に、小さく片手をふって答える。


出会ったのも唐突なら、別れも呆気ないものだ。


さて、ところで。



「…………」


「おい、突っ立ってどうしたんだ?」



どうやってここからおりたらいいのかしら。






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