飴乃寂


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「あっ、ちょっとレヴィ!!」


「え?きゃあっ!」


「一人で狩っちゃダメよ」



見慣れた道をルッスーリアに抱えられて凄まじい速さで走っていたら、ルッスーリアは急に私を手放して塀――――もちろん高くて更に茂みもある――――を軽く飛び越えてしまった。


並走していた他のメンバーも一緒に消えてしまったので、台詞から察するに、レヴィが何かを抜け駆けしかけたようだ。


それはいいけど、ちょっと待って。


ルッスーリアが気合いを入れてめかしこんだドレスじゃ、ただでさえ動きにくいというのに。


こんな格好でこのコンクリートの塀をよじ登るのは無理だし――――というかボタン一つとっても高価そうなので、汚したら勿体ないという気持ちもある――――この塀の向こう側に出るには、かなり道を迂回しなくてはならないはずだ。


そして。



「…………」


「……え、えっと。ザンザスさん、は……行かなくていいんですか?」



憮然とした表情のまま、後ろからゆっくり歩いてくる、ルッスーリアが夢中の人……ヴァリアーのボスである、ザンザスさん。


どうして走っていた彼らと、歩いている彼がほとんど同時に到着するのかは、この際置いておく。


きっとあれだ。たまにお屋敷で聞いた、ヴァリアークオリティとかいうアレだ。


頭で考えるんじゃない。感じるんだ。



この人達に、一般常識は通じない!!



普段のあの騒がしい食卓でも一人平然と北京ダックに噛みついていたし、スクアーロの苦労を見ているだけでも、彼が横暴で我儘でマイペースな人だとは分かるけれど。



「…………」


「……その……」



この人、罵詈雑言と重要な仕事以外では、かなりの無口なのだ。


ルッスーリアと、彼をネタに話すことは数あれど、本人を前にすると流石の威圧感に私の腐った口も閉じ、今のように目があってしまった暁には、まさに蛇に睨まれた蛙になってしまう。


いつもは相手が先に、興味なさげに目を逸らして去ってしまうのだけれど。



「……ザンザスさん?」



何故、今日は動かない?


何故、私を見下ろしたまま止まっている??


どうしよう、彼は今手ぶらよね?


スクアーロのように突然、顔面に石焼きステーキをぶつけられたりしないわよね???


思わず目だけで彼の装備とついでに自分達の周辺を確認すると、ボソリと圧のあるバリトンボイスが響いた。



「…………やつの愛人だったな」


「へっ!?あ、はい!」



唐突すぎてつい肯定しちゃったけど、まだ候補です!候補!!


ルッスーリアがリボーンちゃん達のところに帰してくれるって言ったのに、この様だよ!



「ドカスが」


「え、へ!?まっちょままままままっ」


「うるせぇクソガキ」


「ふいっ!」



どういうわけかザンザスさんはお決まりの口癖を吐いた後、私の腰に腕を回して、米俵のように担ぎ上げた。


驚きと動揺はガチトーンの声と鋭い眼光に抑えられ、思わず両手で口を塞ぐ。


ルッスーリアは片腕で私を抱き抱えていたから、姿勢も呼吸も楽だった。


が、今はザンザスさんの雄々しい肩に自分の体重が乗っかって、腹部が圧迫されている。


更にそこに力を入れていないと、頭が逆さまになって色々と辛くなってくるから、とても居心地が悪い。


だがその程度のことで、誰がアサシンのボス相手に抗議をあげられるだろうか。


彼へのNOは、グラス・オア・チキン。


スクアーロへはお仕置き程度でも、平々凡々な肉体の私にとっては一撃必殺、つまり死だ。


デット・オア・ダイに他ならない。



「この俺に尻拭いさせるとは……ルッスーリアは後でシメとかねーとな」


(それってルッスーリアにとっては、ただのご褒美じゃないかしら……)



つまり部下達を追って高く跳躍した彼に、私はなされるがまま身を預けることになった。


どうやらルッスーリアの代わりに本来の送り先まで届けてくれるようだが、それを彼がやるとは意外だ――――と思うのは、少し失礼かしら。






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