飴乃寂


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£Love_is....£




¨六花ネット¨


¨二四時間不定休〜恋愛相談以外なんでも受付中〜¨


¨報酬 時価 要相談¨


¨連絡先 〇〇〇‐〇〇〇‐〇〇〇¨



そんな胡散臭い貼り紙がしてある小さな店。


以前からの情報屋業の功績もあって、お客の入りは上々だ。


ただ会話をしに(要は遊びに)来るクラスメイト達を迎えることも多々あるので、結果的にいつも誰かしら居座っている。


ので、ジンも常時お茶菓子を補充してくれている。



のだが。



「君に出すお菓子はないから帰ってくれるかな、獄寺君?」


「オイこら」



退院したとは聞いていたが、あれから顔を合わせるのがなんだか癪だったので、これが退院後の初顔合わせであったりする。


しかしすっかり愛着がついた赤いソファに寝転がって端末をいじっているので、向かいのお客用ソファに座る獄寺の顔は見ていない。


それでも声色から、眉間にシワを寄せて機嫌を悪くしていることは容易に察した。



「…………チッ」



舌打ちしたいのはこっちだバカヤロウ。


どうしてこんなにアピールしているのに、こいつは毎回無下にして、そのくせあれ作れだのどこに行っていただのと……。


…………やはり相手から見た自分は、不穏な影をちらつかせるボンゴレの危険人物……という風にしか見えていないのだろうか。


だとすれば、最初のアプローチの仕方から間違えたことになる。


構ってくれるならたとえ敵かもしれないと思われていても、そうすれば何かと自分を気にかけてくれるんではないかと、思っていたのに。


ああもういっそ、時間を出会った頃まで巻き戻して、最初からやり直したい。


と、言うか。


ちらりと目だけを動かすと、獄寺も膝で頬杖をついてこちらを見ていない。


どころか、明後日の方向を親の仇でも見るかのように、しかめ面して睨んでいるのが見えた。


冷静に改めて考えると、なぜ自分が彼に惹かれているのかが分からない。


確かに顔は良いが、中身ならもっと怒りっぽくなくて人格的にできたーーーー要は外見も中身も美しい完璧なーーーー美形達が、この町には沢山いると分かっているのに。



はあ。



いつだったかリボーンが、ターゲットを落とすには、確実に落とせる一瞬の隙を狙い撃つ気力と根性が必要だと言っていた。


要は、粘り強さで勝つしかない。


ここで投げ出すのも癪だから、それも相まって面白くないし。


内心で溜め息をつき、依頼主へご所望の旅行プランをメールで送る。


店を立ち上げたのでジンがパソコンも一台だけ購入してくれたが、慣れのせいか、もっぱら端末操作の方が多い。


この沈黙も耐え難くなってきているし、ジンは不在中。


と言うかいるにはいるのだが、どうやら高見の見物を決め込んでいるようだ。


ジンは特にこの店でやることがない場合、奥の壁の天井近くの高さに、本体のお面の姿に戻ってぶら下がっている。


つまり、自分を挟んで獄寺と反対側の壁にいて一部始終を見ているはずなのに、全く反応がないということは、そういうことだ。


チッ。舌打ちしたいのはこっちだ。


獄寺には適当にお茶を出して、早々に帰っていただくとしよう。



「……コーヒー煎れるけど、何ほしい?」



獄寺と顔を合わせずに立ち上がり、小さなキッチンへ行く。


相手がリボーンでも有料客でもないから、粉末のインスタントコーヒーでいいだろう。


支度をしている途中で、ミルク。とぶっきらぼうな声が聞こえたので、小さなプラスチック容器に入ったミルクをソーサーに添えて、テーブルに出す。


相変わらず、獄寺は明後日の方向を向いたまま。


相手も顔を合わせるつもりはないらしい。


……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そしてそのまま、時計の秒針が一周した。



「…………」


「…………」



進展は、なし。


…………いい加減、そろそろ言わせてもらおう。



「…………」


「…………」



お前、一体何しに来たんだ?


頬は緩むのにこめかみがひくつくなんて顔の感覚、初めてだ。



「……ねえ、」



堪忍袋の緒が切れそうなのを感じつつ、口を開いた時。



「…………わ、悪かった、な!」



…………うん?



「あれから退院してもお前、全然家にこねーし……あの時のは何というか、いつもの掛け合いっつーか冗談っていうか……」



そわそわしながら、しどろもどろに話し出した獄寺。


しかし不意に意を決した顔をして真っ直ぐ見られたから、思わずこちらの背中も延びてしまった。



「だ、だから……また、メシ…………食わせて、ほしい…………つーか今更コンビニ弁当食ってもなんか物足りないっつーか、イマイチなんだよ!だからその、だな――――」


「…………、」



ほう。そういうことか。


腕組みをし、顎に手を添える。


今思い返せば、自分もいつものノリで言い合いしていたのに、いつの間にか本気になって今の今まで怒っていた。


というか何故あれほど憤慨していたのか、冷静になった今となっては分からない。


本当に些細なことでヘソを曲げていたということだ。


あの獄寺がこうして直接謝っているのだから、自分もこれ以上ムキになる必要はないだろう。


よし。と自己完結し、獄寺の傍にしゃがみこむ。


相手と目が合うと、獄寺は唇を結んで謝罪をつづるのを止めた。



「ボクも怒りすぎたよ、ごめんね。今日の十七時頃にお邪魔するから、また作らせてもらうね」


「、おう」



ソファに座っているから斜め上にある顔が、ホッとしたようにほころぶ。


つられてふふっと笑うと、いつもなら悪態が返ってくるのに、今回は満更でもない様子で、



「……ハハッ」



笑みが返ってきた。



「っっっ!?」



ビックリして息が止まった。


当然なのだが、獄寺は本当に美形だ。


笑顔が貴重すぎる勿体ないと常々思っていたが、いざ目の前にすると心臓に悪いからタチが悪い。



「じゃあ俺は、十代目のところに寄ってから帰る。邪魔したな」


「……あ、うん!」



数秒遅れて、立ち上がった獄寺に続き、他の来店者達が帰る時と同じように出口に先回りし、ドアを開ける。


ドアノブを掴んで獄寺が出るのを待っていると、ふいに目があった。


瞬きすると骨ばった手が毛先をつまみ、微かに頬に手の甲の体温が伝わる。


次から次へと起こる不可思議なことに、まるで機械の停止ボタンを押されたかのように、全身が動きを止めた。



「そういやお前、髪のびたな」


「えっ?」


「そっちの方が似合ってんじゃねーか?」


「ファッ!?」



言うだけ言って、手を離した獄寺はさっさと店を出ていく。



「え…………は、な…………え?」



体の自由が戻ったのは、一度も振り返ることなく小さくなっていく背中が人混みに消えた頃だった。



「……、…………」



ぱくぱくと、誰もいないのに口が開閉する。



「………あいつ、何か妙なもんでも食べたのか……?」



呟いたところで、答えてくれる者はいない。


ドアを閉めて深呼吸し、とりあえず落ち着け、落ち着けと自己暗示をかける。


目の前のガラス戸に自分の顔が映っていて、確かにこの町に来た頃より髪はずいぶん伸びていた。


はじめはショートカットだったのが、もう肩をこえそうだ。


少し前に獄寺が触れていた毛先をつまみ………………離す。



「……〜♪」



邪魔だからそろそろ切ろうかと思っていたが、次美容院に行く時は、毛先を揃えるだけにしてもらおう。



「ジン君、今日はもう閉店にするよ〜」


《買い出しに行くのか?》


「ん!君も帰っていいよ」



ようやく聞き慣れてきた禍々しい声も、今は耳に心地よく響く。


やれやれ全く。我ながら、注文の多い美形に仕留められてしまったものだ。






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