飴乃寂


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月曜日。


フゥ太が家を出ていった事には触れず、ジンはてきぱきと家事をこなすだけで、お互いの会話はほとんどなかった。


ただジンが町の様子を見に行く間は、ときたまメールで異変の有無を聞いてくる。


問題ない、変わりない、寝てただけと素っ気ない返事にも、逐一返すのだから真面目なものだ。


責任とって成人まで面倒見る!とも言うのだから、そこらの人間より責任感に溢れている。


時計を見、窓からの日の光を見て、そろそろ修業の時間だと思えば、すぐに登校の時間が過ぎる。


学校では、ただの不良のいさかいではなく、無差別事件に発展した頃だろうか。



ピンポーン



窓際に座って意味もなく日向ぼっこをしながら、ジンがいるキッチンの方を見やる。


するとキッチンからジンも顔を出して、お互いの顔を見つめた。


三日前まで無人だった家にお客だなんて、おかしくないか。


しかしこちらの疑問を知ってか知らずか、外から元気な青年の声がした。



「こんにちはー!宅急便でーす!!」


「……宅急便?」


「もしかして白蘭宛か?」


「ああ、ありうる」



白蘭本人と入れ違いになってしまった荷物が届いたのかもしれない。


なら素直に出た方が、宅急便のお兄さんも助かるだろうと重い腰を上げた。



「ボクがもらってくる」


「おう。何かあったらすぐ呼べよ」


「ん」



こんにちはー!と声のする玄関を開けると、宅急便のツナギを着た青年が、帽子を軽くあげて会釈した。



「どうも。白蘭様、イチノ様宛のお荷物です!」


「なんだ、ユカリさんじゃん。ご苦労様」


「こんにちはイチノちゃん。この家が不在だったら君の家に届ける予定だったんだけど」


「本当にボク宛なの?まあいいや、もらうよ」


「はい、サインお願いね」


「ん」



伝票にサインをして受け取ったのは、肩幅ほどある大きな段ボール箱。


しかし見た目より箱は軽く、片手で脇に抱えても問題なかった。


それを持ってリビングに戻ると、ジンもいぶかしげに首を傾げる。



「…………なんでお前の名前もあるんだ?」


「さあ?でもボクの名前もあるなら、開けてもいいよね?」


「ああ。差出人は……なんだ白蘭か。何送ってきたんだ?」



封をしてあるガムテープを剥がし、中を覗く。


と。



「…………」


「なんだなんだ?」


「……マシマロ」


「マシュマロ!?中身全部か!?」


「しかもこれ、母国産のマシマロだよ」



箱には、マシュマロが入った小袋がぎっしり詰まっていた。


その一つを手に取って裏の製品表示を見てみると、白蘭が今いる国の名前が書いてあった。


もちろんパッケージの文字も、その国のもの。


なんだあいつ。これを食べて元気を出せということか?



「でも昨日の今日で届くわけ……」



箱に貼ってある伝票を見直すと、発送の日付は先月になっていた。


つまり白蘭は、帰国間際に母国からマシュマロを取り寄せたはいいものの、もしかしたら自分と入れ違うかもしれないので、念のためにもう一つの宛先を書いておいた、ということか。



「…………あはっ、」



つまりこのタイミングで届いたのは、完全に偶然なわけだが。



「はははははっ、あははははははっ!」



昨日から、助けられっぱなしだ。


持っていたマシュマロの袋を開け、一つ食べる。


口の中に柔らかな食感とほんのりとした甘さが広がり、体を癒してくれるようだった。



「ん、おいし」



ほしかったひと押しをしてくれたのは、白蘭だった。


ボクの様子を見ていたジンが、横で安堵したように顔をほころばせる。



「元気、出たか?」


「うん、今ならまた頑張れる気がする」



立ち上がって、マシュマロをもう一つつまむ。



「着替えてくるよ。ボクも黒曜ランドに行かなくちゃ」


「……何しに行くんだ?」



少し警戒するように眉を寄せたジンを見、笑う。



「心配しないで。挨拶しに行くだけ」



離れ離れになるなら、その前に骸には、言わなきゃいけないことがある。


着替え類の荷物はジンが持ってきてくれたので、荷物が置いてある寝室へ向かう。


リビングに一人になったジンは、おもむろにズボンのベルトに引っかけていたお面を顔にはめ、呟いた。



「………………死相が、薄くなった」



精神的不死とは厄介で、ほとんど死相が出ないというのに。


だから度重なるトリップで、いつも後手後手になっていたのだ。


それが、見えたということは。



「――――Fancy may kill or cure...」



人間というのは、不思議な生き物だ。








生かすも殺すも

(君次第)
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