飴乃寂


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朝起きて制服に着替えたが、足は学校とは別方向へ向かっていた。


用事があると言って犬や千種とは学校前で別れた為、今は一人。


昨日も通った裏通りに入って進んでいくと、昨日来た店の前でしゃがんでいる黒い制服姿の少女がいて、うっすら笑みを浮かべた。


やっぱりいた。というのが素朴な気持ちだった。



「中に入らないのですか?」


「………店内で静かにしてる気分じゃないんだ」



俯いてる相手の顔は見えないが、ガラス張りになっている目の前の店を見、もう一度イチノを見下ろす。



「では、ここで少し待っていてください」



返事は聞かずに入口のドアを開け、昨日と同じ店員に、飲み物を二つ注文する。


それを持って外に出ると、イチノは最初にいた場所で立ち上がって待っていた。


どうぞと蓋付きの紙コップを渡すと、特に断られることなく、相手の手に渡る。



「……ありがとう」


「いいえ」



昨日とは売って変わって大人しいイチノは、両手で紙コップを包むように持って息をついた。


僕も掌から伝わる熱を傾けて、喉の奥にチョコレートを流し込む。


どちらからともなく、足並みを揃えて歩き出した。



「………学校はどうしたの?」



沈黙を先に破ったのは、イチノ。


お互い平日の午前中に制服を着て街を歩いているが、もちろん学校に向かうはずはない。



「サボりましたよ。大人しく授業を受ける気分ではなかったので」


「……そう。ボクもだ」


「それは奇遇ですね」



微笑めば、横から恨みがましいような視線を貰った。


暫く見つめあっていたが、イチノは息をついて正面を向く。


それが、僕達の核心へ迫る合図だった。



「…………覚えて、ないの?」



相手の足が止まったのに倣い足を止め、真っ直ぐこちらを見上げてくるイチノの双眸を見つめ返す。


黒い瞳に既視感を覚えたのは、来日して日本人特有のそれを周りで見ていたせいだろうか。



「ボクの………臨のこと、陸のこと、覚えてないの?」



それを伝える為には、ゆうべジンと話したことを、話さなくてはならない。


ふと彼女の後ろを見ると、横断歩道を挟んだ向こう側に、人気のない公園があった。


もうとっくに商店街から外れていたから、周りはとても静かだ。



「何から話せば良いのやら……取り合えず、座りましょうか」




 
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