飴乃寂


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なんだかごく最近もこんなことがあったなあと、部屋を見下ろす。


カップラやコンビニ弁当の空ばかりが入ったごみ袋が散乱した部屋に、テレビにかじりつくゲーム初心者。


結局帰るまで奈々さんとは遠目に挨拶をするだけだったが、今回のゲームに意地になってしまった獄寺は、家で特訓してくると言って、ボクを引きずり回して店でハードから攻略本まで一式買ってしまったのだ。



「ほら違うよ、そこは右に行って……」


「うるっせぇな!つかお前なんでまだいるんだよ!?もう買い物は終わったから帰れって言っただろ!?」


「あんなんで帰れるわけないでしょ?君一人だったら何年かかってもクリアできないよ」


「あ、あれは攻略本がなかったからだ!もう攻略ルートも必殺コマンドも頭に入ってるし、早々ヘマはしねーよ!」


「あ」


「あ?ってだああ奇襲かよ!!くそっこんにゃろっ!!」


「ほらほらコマンド」


「わあってるよ!!」



ぶっちゃけどさくさに紛れて家に上がり込んだだけなのだが、家主はこうだし部屋は白蘭並に散らかってるし、今は獄寺の家にいるとメールしたジン君が差し入れ持って来て発狂しても、後が面倒だ。


ゴミの分別してまとめるくらいはしておこうか。それとお腹が空いた。



「ねえ君ん家に何か食べ物ない?」


「冷蔵庫にあるの勝手に食え!」


「うわっ、健康食品しかない!健康なんだか不健康なんだか分からない食生活だな!!」


「ほっとけ!それよりついでにコーラ取ってくれ」


「はいはーい」



ウィダーとコーラを持って獄寺の元に戻り、リビングにあったコンビニの袋からポテチを取り出す。


行動に移すのは腹ごなししてからにしよう。


なんて言ってる傍から既に腰を落ち着ける空気しかないが、案の定一度座ってしまえばもう立つ気力はなくなり、しばらくは獄寺の苦戦っぷりを肴にポテチを食べることにした。






* * *






「にしても、凄い集中力だなぁ」



それは獄寺を冷やかすのはもちろん、攻略本や月刊世界の不思議を眺めるのにも飽きてしまったボクが、他の部屋を物色していた事にも気づかないほどに。


しかし獄寺の寝室にはピアノやアクセサリーがあるくらいで、エロ本や隠れた趣味のような、何かネタにできそうなものは何もなかった。


本当に男なのかあいつ。山本ですら好きなアイドルの雑誌くらい持ってたぞ。


要は獄寺の部屋には必要最低限のものしかなくスムーズに見回りも終わってしまったので、仕方なくリビングに戻って獄寺の観戦をしているのである。


現在の時刻、夜十一時。


かれこれ十時間やったかいあって、難関だった中ボスを倒して少しずつストーリーが進んできている。


ああ、獄寺がこう真面目な顔して黙っているのも珍しい。この顔だけは見飽きることなくずっと見ていられる。


獄寺の斜め後ろのローテーブルの上に腕を組んで頭を乗せ、半分突っ伏しながら美男子を眺める。



「ねぇ、獄寺君。そういえば夏休みに入る前、君にコクった子がいたよね?」


「あ?なんの話だ?」


「手紙か何か渡されなかった?」


「ああ、あれか。受け取ってねーよ」


「夏休みを期に浮かれる人達が多いけど、君は年中真顔でバッサリ切るのね。フッたの何人目だい」


「面倒くせぇだけだろ、女なんて」


「君、どんな美女なら目覚めるの?好みないの?まさか僧なの?」



それならエロ本もないことに納得だけど。


コントローラーを操作しながら画面を見ている獄寺は、一度だけボクの方を見てまた前を向いた。



「ならお前はどうなんだよ。町で見かける度に違うやつを連れて歩いてんじゃねーか」



答えるのが面倒で話題変えやがった。まあいいか。



「予想通りこの並盛には美男美女が多かったけど、お陰で彼等と満遍なく接するには一日に何十人と会わないといけないんだよ。嬉しい苦労だけど、夏休みに入ってからずっと寝不足なんだ」


「よくそこまで八方美人みたいに生きられるな。懸想してるヤツが理解できねーぜ」


「え?でもボク、コクられたことないよ?」


「俺が知るかよ。そういう噂を聞いただけだ」


「へぇ、噂でもなんかそういうの嬉しいね」


「そうかよ」


「君って本当に人が嫌いだね」


「お前は本当に他人が好きだな」


「ボクの事だって嫌いでしょ?」


「ああ、大嫌いだ」


「でもボクは君の顔好きだよ」


「気持ち悪いから止めろ」


「どうしてうちの学校の美男子共はツンツンなんだよたまにはデレろって日頃あれほど言ってるのに。ヒバリさんですらたまに笑みを見せてくれるというのに君ときたら。そのうち眉間のシワ消えなくなるよ」


「へーへーご忠告どうも」



どうして獄寺ってこんなにとりつく島がないんだか。


だんだん苛々してきたんだが、何故だろう。


端末の振動を感じて画面を見ると、ジンからメールが来ていた。


どうせエレベーダーを使ってすぐの距離なのだから、お腹が空いたら家まで来いとのこと。


なんだ来ないのかと思いながら端末をしまい、腕に顔を伏せる。



「ったく夏祭り以来久しぶりに会ったと思えば、てめぇ相変わらずにも程があんだろ。周りは情報屋として囃し立ててるみたいだがボンゴレに役立たない限り俺は認めないからな。あと――――」



獄寺のやるゲームの効果音と獄寺の声が遠くなっていくのを聞きながら、適当に返事をして目を閉じる。


分かりきっていることだが、獄寺も相変わらず饒舌になるのはボンゴレと十代目のみだ。


ここまでブレずに硬派なのだから、中学生ながら天晴れなのだが。



「ボクがここまでしてるのに、マジあり得ない……」


「あ?なんか言ったか?」



それはゲームに例えるなら、つい本音が零れるくらいの難攻不落のラスボスだ。


このままではボクの当初の目標だった、みんなで仲良くお友達のハッピーエンドを迎えられないじゃまいか。




 
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