飴乃寂


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£夏休み白蘭編£




「やあイチノチャン、遊びに来てくれたんだね!」


「来てくれたんだねって、君が来てくれって誘ったんでしょ?」


「そうだったね、まああがってよ」


「お邪魔しまーす!」



今日は在日中の拠点らしい、並盛から駅一つ離れた町にある白蘭の家へ遊びに来ていた。


借家らしいがそこそこ大きくて、中も小綺麗な装飾品で室内の雰囲気が明るくされていて、やはり白蘭は経済的に裕福な家らしい。



「ジン君はどうしてるの?まだお面のまま?」


「いや、人に戻って今まで通り生活してるよ。お面は後頭部につけてるけど」


「そっか。ジン君は君ととある男の子の相瀬の仲介者なんだっけ?あれで別れ話にはならないか」


「うん。ジン君から見れば、その仲介者の役を終えてもボクが自立するまで世話をするって仕事が残ってるから、まだ暫くは一緒だよ」


「そういえばイチノチャンの家族って、今はどうしてるんだい?」


「もういないよ。だから今はジン君が親代わり。もちろん血なんて繋がってないけど」


「やっぱりそうなんだね。僕も同じだよ」


「白蘭も?」



喋りながら長い廊下を歩いてリビングらしき部屋に入ると、白蘭は笑いながら続けた。



「両親が事故死して、残った僕は比較的裕福だったおじさん夫婦の家に引き取られたんだよ。二人とも昔から僕に関心が薄いから、単位を落とさなければこうしてぶらぶらしてても咎められないってわけ」


「それで世界旅行しまくれるんだから、かなり寛大なおじさん達だね」


「ふふっ、事業に成功してお金だけはいくらでも持ってるんだよ」


「そういえばジン君も金持ちだな………でもあれは百年自分で稼いだやつだし……小遣いにはケチだしな……」



むむむと少し考えて、やれやれと息をついた。



「やっぱり白蘭のが羨ましいよ、口出しされないしお金はあるし。ボクなんて端末壊した罰で小遣い半分カットだよ。買いたい(ホモ)本も半分我慢するはめになったよ」


「ジン君って意外と厳しいんだね〜」



似ている境遇にももうツッコむ気は起きないが、白蘭が気にしていないなら野暮なことは言うまい。


ついでにジンのおかんぶりを愚痴りながら、リビングのソファに座った。


で、イケメンと一つ屋根の下で何をするのかと言うと。



「じゃあ僕が集めてきたマシマロ達を披露するよ!」


「ボクもここに来るまで頑張って集めてきたよ!」



二人だけのマシマロの品評会、もとい食べ比べである。


鞄に入れた菓子袋をテーブルに並べると、白蘭もキッチンの奥から両腕いっぱいのマシマロを持ってきて同じようにテーブルに積み上げた。


が、ただでさえかさのある袋のせいでテーブルに乗り切らなかったので、適当に床やソファに置いて、よし準備万端。



「マシュマロって意外と味のバリエーションがあったんだね」


「うん、食べ飽きなくていいよ」


「さて。じゃあどれから食べる?」


「やっぱりプレーンからかな。味つきだと前に食べた味を引きずりやすいから」


「なるほど〜。じゃあこのハート型が入ってたらラッキーって書いてある袋から……」


「僕その銘柄一箱買ってきたよ、ほら」


「は!?なんで!?」


「絶対にハート型のマシマロを手に入れる為だよ!イチノちゃんも手伝ってね!」


「待って、待って白蘭!ボク既に先が思いやられてるんだけど!悪いけど君みたいに大して好きじゃないマシマロを食べ尽くす自信が全くないんだけど!!」


「大丈夫、これだけ食べればイチノチャンもきっとマシマロの魅力に気づけるから♪」


「だからこれだけ食べれないって話をしてるんだよ!!」


「僕、イチノチャンならきっとできるって信じてるよ」


「その自信はどこから来るんだよ!?」


「まあまあ。案ずるより産むが安しって言うでしょ?食べてみようよ!」


「まさかボクはハート型のマシマロの為だけに呼ばれたんじゃないだろうな……?」


「ふぁんのふぉほ?」


「しらばっくれんなよお前……!!」



しかし白蘭は我関せずとボクにありったけのマシマロを突きつけて、自分は食べ始めてしまっている。


どうしてイケメンって皆マイペースオブマイペースなんだ。


ヒバリさんやリボーンに慣れてきてしまっていたけど、町の美男美女達は顔も心も美しい良い子達ばかりだったから忘れかけていた。


マフィアなイケメンはマイペース。と脳内に上書きメモして目の前のマシマロの山に向き直る。


一種類に飽きたら今度は味つきのマシマロを食べて、あとは時々持参した飲み物を飲めばなんとかなるだろうか。


よし、来たからには限界に挑戦してやろう。



「よっしゃかかってこいやー!!」






* * *






部屋に散らかるゴミ、ゴミ、ゴミ。


空の菓子袋に飲みかけのペットボトル、可愛い包装紙だった紙屑とコンビニのビニール袋がどれだけ周りに散乱していようと、片付ける気力はなかった。


というかもう、指一つも動かしたくない。


マシマロの食べすぎで爪先から喉元までマシマロがつまってるんじゃないかってくらい、マシマロに侵食されている気がする。


あのふわっふわな腹の足しにもならないような洋菓子も塵も積もればなんとやらで、本来心地好いはずの満腹感も快感を通り越して不快で口も甘ったるすぎて気持ち悪い。嗚咽を堪えるので精一杯だ。


だというのにこのマシマロ星人は、ボクの二倍は食べているはずなのに今も涼しい顔をしてまた新たなマシマロの袋を開けた。


こいつの胃袋はブラックホールか。同じ人間とは思えない。



「こんなに食べてるのに出ないもんだねー、ハート型のマシマロ」


「ふざけんなよ一箱で出なかったから、わざわざ在庫があるかどうか店に連絡しながら十箱買ってきたのに出ないって……これは詐欺だ…………クレーム入れて訴えよう、白蘭」


「まあまあ。まだこの一袋残ってるし、とりあえず食べてみようよ!」


「ボクを揺らすな!!すぐにでもマシマロが喉からリバースしそうなんだから動かさないで!!」


「え〜全く根性ないなぁ」



テーブルに突っ伏した体勢を維持したまま、とにかく少しでも早くマシマロを消化したい。


あとなんか苦いもの、渋いものでも辛いのでも甘くないなら何でもいいからマシマロ以外のものを食べたい。


どうしてオレンジジュースなんて中途半端なものを買ってきてしまったのだろうか。


濃いお茶とかコーヒーとか、もっと必要なものがあっただろうに。買い出しに出た数時間前の自分を呪う。


いや、でもここは白蘭の家だからお茶かコーヒーくらい置いてあるはず。



「白蘭、お茶かコーヒーないかい?」


「あ、そういえば切らしたまま買い忘れてたや。僕のサイダーじゃだめ?」



白蘭に救いを求めたボクがバカだった。



「じゃあこの家にマシマロ以外の食べ物はない!?」


「もちろんあるよ!羊羮でしょー、饅頭でしょー、ふ菓子にカステラに、御手洗団子!………うーんどれにするか迷っちゃうなぁ」


「君、普段の食事どうしてるの」


「基本外食だけど、面倒臭い時はここにある甘味で済ませてるよ!」



聞いてるだけて胸焼けしてきた。


というか吐き気が増した。



「糖尿病になってイケメンデブになれ」


「僕は遺伝的に糖尿病になっても痩せたままかな」


「もうやだ、お前の顔までマシマロに見えてきた……なんの拷問だよこれ……」


「えー?天国の間違いじゃない?」



不毛だ。


白蘭に誘いにのったはいいが待っていたのはマシマロ地獄と吐き気だけだし、こちらが愚痴ってものらりくらりとかわされて全く意に介さないし。


まあ相手がそんなやつだと分かっている上で来たのだが。


端末のディスプレイを見れば午後七時。昼食も夕食もマシマロのみで済まし、そして続いている。


終わりが見えないだけでも絶望的だというのに、家にあるのは甘味のみだと知ってしまったせいで、精神的に余計に追い詰められた気がする。


もうダメだ。一人でこいつの相手は骨が折れる。


端末を耳にあて、ワンコールで出た相手に助けを求めた。



「聞いてお母さん。白蘭って外食に行くの面倒臭い時は、買い置きの甘味で済ますんだって」


《夏休みだからって未だ帰らぬお前への説教もしたいが、まず野菜を持っていくから場所を教えろ》


「並盛駅から白沼線でひと駅。なんか真っ白い借家にいます助けて」


「あ、ついでに栗きんとん買ってきてくれない?」


「ブラックコーヒーとイカスミパスタでいいから、なんか真っ黒くて苦いものもお願い」



えーという白蘭の批難を一蹴し、再びテーブルに沈む。


これで応急措置はできたが、ここまでして本当にハート型のマシマロが出てこなかったら本気で訴える。


いや絶対に、訴えよう。


絶対に絶対に、



「あ、あった!あったよイチノちゃん!!ほら見てごらんよ!!ハートだよ!!」


「……………………良かったね……」


「よし、じゃあ次のマシマロにいってみよう♪」


「もうお前やだ…………なんでそんなに元気なの……」


「イチノちゃんってば若いのに情けないね〜」



絶対にもう、軽い気持ちで白蘭とマシマロの食べ比べはしない。




 
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