飴乃寂
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£夏祭り£
「なあイチノ、お前ここにどんな屋台が並ぶか知らないか?」
「え?屋台?」
珍しく外出せずにソファーでのんびりモデル雑誌を眺めていたら、ジンがチラシを一枚片手にひらひら揺らした。
手を伸ばしてそのチラシを受け取ると、大きな文字で並盛町内夏祭りとある。
「なんか最近よくチラシ見てると思えば………夏祭りか。町の人には聞いてないけど、祭りの屋台なんて定番のものばかりで余り異色なものはない気もするしなぁ」
焼きそばにたこ焼き、かき氷に綿あめといった食べ物や、金魚すくいに水ヨーヨーなどなどお祭りといえば思い浮かぶものを述べながら、ふとジンを見上げた。
何か考えるように目をふせる碧色の瞳は宝石のように綺麗だが、ジンの顔を見ていて思いついたものがあった。
首を伸ばして傾げ、ジンに顔を近づける。
「もしかしてお面の屋台が気になるの?」
「…………まあな」
気恥ずかしいのか顔を逸らして頷くジンは、早川さんが見たらきゃあきゃあ騒ぎそうなくらい今日も美形だ。
しかしこの美形も実は二百年以上前にいた相棒のお面職人を探している健気なやつで。
今回はいつも主夫として頑張っているジンへ孝行してやろうと、ニッと口端を吊り上げた。
「夏祭りの情報ならすぐ手に入るから、お前は今夜着る浴衣を買ってこい」
「そんなに俺の浴衣姿が見たいのかお前」
「西洋人と浴衣のロマンは外せないだろ!?」
* * * *
「ふぅん。呼んでもいないのにここに来た理由はそれかい?」
「もちろんですとも!今日も今日とて応接室で仕事中だって信じてましたよヒバリさん!!」
「今夜のショバ代回収には人手が足りてるし、君がいたら余計な草食動物達がついてきそうだから呼ばなかったのに」
「心配しないでください。今夜はお兄様と二人で回る予定ですから」
ツナ達はチョコバナナの店番、早川さんは家族で実家に帰省中。
今日ばかりは他の美男美女達も想い人や親友と過ごしたり、神輿や屋台に参加したりするので、今夜のボクは完璧にフリーだ。
ヒバリさんをつけ回し放題である。
ブンッゴッ
「いだっ!!」
「君ってよく見るといじめがいのある顔をしてるよね」
「誰がドMだ集団作って本当につけ回すぞイケメン社蓄!!」
「臨むところだよ。咬み殺す愚かな群れが一つ増えるだけだ」
頭にヒットして床に落ちた消ゴムを拾い上げ、書類にペンを走らせるヒバリさんへ投げ返す。
思いきり投げたそれはいとも簡単にヒバリさんの掌に収まり、ギリッと歯を食い縛る。
しれっと仕事をし続けるクールな姿が様になっていて憎いやら愛いやら憎いやら。憎い。イケメンだちくしょう。
でも今日はヒバリさんに会いに来たんじゃなくてジンの為にここに来たんだった。
接待用のローテーブルに広げた夏祭り企画書から地図の載った書類を取り上げ、上から読んでいく。
「え〜っと、夏祭りの地図はこれか。どれどれ…………やっだ御子柴さんと梅さんちの屋台が隣同士だ絶対に行こう!」
「ああもしもし草壁。御子柴と梅って住民が出す屋台を先に潰しておいてくれる?」
「ヒバリさんボクのことそんなに嫌いなの!?待って止めたげて!!」
夏祭りにソフトドリンクもビールもないだなんて、大人も子供もガッカリするから!!
それ以上に屋台で店番する美形が一人でも減ることが嫌だ!!
「はあ……君の仕事ぶりには一目置くに値するけど、そのかしましい性格で全てが破綻しているね」
「ヒバリさんが一日に一瞬でもデレれば、ボクもこんなに構ってちゃんする必要ないんですけどね」
獄寺にも同じことが言えるが、やつはその反応がまた面白いからやめられない止まらない。
「…………」
「うわっ、ヒバリさんが無言で苦虫潰したような顔してる!」
念のために言うがただの冗談ですよ!!
でもレアには違いないので撮っちまおう。
しかし端末をポケットから出す前にトンファーが飛んできて、必要な書類だけひっ掴んで応接室を飛び出した。
バンバタンッ
バンッ
「君ほどケンカを売るのが得意な動物もいないね」
「ヒバリさんがボクに優しくないのがいけない!!横暴上司!制服マニア!ツンツン!デレはどこ!?」
すぐ後ろから殺気が迫ってくるのを感じつつ、ふと思い当たって肩越しに後ろを振り返る。
「ツンキル!?もしかしてツンとKILLなんですかヒバリさん!!?」
デレの代わりに相手を狩っちゃうだなんて、まさに肉食系!!
ライオンは獲物を可愛い可愛いといたぶって遊んでいるうちに殺しちゃうからそのまま食料として食べてしまうらしいが、まさかそんなヤンデレみたいな属性だったのヒバリさん!?
「ハッ、そうか!デレは相手を咬み殺した後に来るんだね!?」
これで全ての謎は解けた!!!
ヒュヒュンッ
「僕は僕だよ」
「それでこそヒバリさん!!」
トンファーで華麗に流された冗談を捨て、昇降口に置いていたペニーに飛び乗って地面を蹴る。
そしてこのまま夏祭り開始までまた町内鬼ごっこをすることになるのだが、いつものことなので割愛しよう。