飴乃寂
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まだまだ明るい午後四時すぎ。浴衣姿のジンを拝む前に、体力の尽きたボクは俯せに倒れていた。
「すぐ手に入るって豪語してから何時間経ったと思ってる?」
「だって今日に限ってヒバリさんがめちゃくちゃしつこくて撒けなかったんだよ!!結局あの人が資金集めに行くまでの暇潰しになっただけだったしね!!」
「見ろよこれ!余りにも暇だから飴細工作ってたら、ご近所中に配れるくらいできたぞ!!」
「お前こそたすき掛けとねじりハチマキで何やってたんだよ!!」
テーブルいっぱいに並んだ割り箸の先には、ウサギやイヌといった動物から車、花、果物、あとは飴を適当に丸めただけのよく分からない形をしたものがずらりと並んでいた。
浴衣姿といい、完全にお祭りモードだなこいつ。
「ほら買ってきてやったからお前も早く着替えろ」
「それ甚平なの?もう着替えるの面倒臭いんだけど」
「俺を褒め称えろ。甚平だ」
「流石おかん!」
「誰がおかんだ!!」
分かってるね!
自室に行き、ベッドの上にあった新品の甚平に着替えてリビングに戻ると、ジンが作った飴細工を一つの袋にまとめていた。
「それ持ってくの?」
「ああ。知り合いに会ったら配ろうかと思ってな」
「どうせなら一本百円で売り歩くとかは?」
「というかこれはお前が配るんだ。お前に任せる、好きにしろ」
「やっぱり。そうなると思った」
美男美女達に喜んで配り歩くけど。
ついでにちょっと小遣い稼ぎもしちゃおうか。金銭に関してジンはめちゃくちゃ厳しくてケチだし。
「それより肝心の情報は得たのか?」
「もっちろん!ボクは面識ない人だけど、お面の屋台は一つだけだから、行けばすぐ分かるよ」
「そうか」
マンションを出て徒歩で祭りの会場である神社を目指していくと、ボク達以外にも浴衣姿で同じ方向に向かっている人達がいた。
時々会場から歩いてきたグループとすれ違ったり、知り合いを見つけて端末で浴衣の記念写真を撮ったり、ジンの飴細工を売りつけたり楽しみながら進んでいくと、笛の音や太鼓の音が聞こえてきた。
今頃ツナ達は店番をしているのだろうか、ヒバリさんはせっせと時揚屋のような資金集めの最中だろうか。
「あっ、イチノちゃんとお兄さん!」
「こんばんはー並盛スーパーのスタッフの皆さん!!早速ですが焼きそばください!」
「はい、毎度!」
「ナミーダッツ夏祭り限定クレープはいかがですか〜」
「きゃああああダッツさあああん!!儲かってますか売上に貢献しに来ましたよーっ!!」
「ありがとう、またお店に来てね?」
「あれ、ジンさーん!」
「なんだ、おっさんもお好み焼きの屋台出してたのか」
「はははっ、今年が初めてだけどね!」
「ハッ、あの金魚すくいにいるのは美しいライフセーバーの牧谷さーん!!」
「おっ、イチノ。やってく?」
「う〜ん、正直とっても飼うのに困るんだよな〜」
「お願い、やってって?」
「そのイケボで言われたら断れるわけないじゃないですか畜生やりますよ!!」
祭りに足を一歩踏み込めば、あっちにもこっちにも魅力的な顔と美味しそうな匂いの誘惑が。
いかん、夏祭りが想像以上に楽しすぎるぞ。
「あああああいつもは大人しい紳士がタンクトップとねじりハチマキで、お客も浴衣に甚平にハッピでいつもと違う雰囲気が堪らない……!!!」
あ、好みの顔の集団発見。
「こんばんはー!!夏祭り楽しんぐぇっ!」
「お前、ここに来た目的忘れてナンパし始めてんじゃねぇよ!!」
「ああそうだった!!」
お面屋を目指して行かなくちゃいけないんだった。
甚平の襟首を掴むジンを見上げ、親指を立てる。
「君は君の任務を遂げたまえ。ボクはボクの任務を遂行する!」
「このバカッ!!!」
「痛いチョップ止めろ!!」
襟首が離されたので頭を押さえつつ、ジンに向き直る。
「だってすぐそこに美味しそうな集団が!!声かけなきゃ損だよ!!」
「今時のオヤジでもしねーことすんな!!今日は俺に付き合う約束だろうが!!」
「ああもう、ほらヒバリさんからクスねてきた祭りの地図あげるから勝手に行ってきてよ。ボクは忙しいんだ」
「てんめえぇ………」
早くしないと、集団がどこかに行ってしまう。その前になんとしてもひき止めねば!!
「浮気性な彼女を憎みつつも嫌いになれずに同じ時を過ごしたい健気な彼氏の図みてぇだな」
「やあリボーン君、決まってるね」
「誰が彼氏だ、誰が」
「あ、というか君達ここにいたのね」
「あ、ははは……うん、ずっとここにいたんだけど……」
「二人を見てるのが面白くて、いつ声かけっかなーって思ってたのな!」
「ふしだら……」
「そんなにこの甚平が性的に似合ってるかい?獄寺君もマニアックだね!」
「言ってねーよ!!近寄るんじゃねぇ変態が移る!!」
ハッピに鉢巻きとお祭りスタイルなリボーンが立っている屋台番には、並中のトリオが揃っている。
「そうだ、君達に差し入れだよ」
「飴細工?」
「ジン君が作ったんだ」
「いらねぇ」
「でももう君ん家のポストに十本くらい入れてきたよ」
「てんめぇ人ん家のポストに何してやがる!!」
「へぇ!この野球のミットとボール、よく出来てんのな!」
「昔からこういうのは得意でな。ユニフォームと帽子もあるぜ」
「ははっ、すげぇ!!」
「リボーンのは………レオン?」
「ああ、レオンも喜んでるぞ。お前のそれは猫か?」
「それは失敗したライオンだ」
「君、失敗したのまで混ぜとかないでよ!!ほらツナ君、こっから好きなの選んで交換しなよ!」
「い、いや!俺はこれで良いよ、ライオンに見えなくもないし……」
ピロリン♪
「え゙えっ!?」
「ごめん、飴細工と今の君が個人的ベストショットだったもんで……」
やばい、鼻血出そう。
鼻を押さえつつ顔を逸らすと、見慣れた美顔がふてぶてしく命令した。
「邪魔だよ、君」
「はい、ヒバリさんにはこの愛らしい黄色いヒヨコをあげるよ」
「…………」
無視かよ。
「じ、じゃあこのハムスター付きで!」
「…………」
無言で懐に入れた!!!!!!
二本とも貰ってくれたよヒバリさんが!!
「ひっ、ヒバリさん――――!!??」
「まさかショバ代って……」
「風紀委員に払うのかよ!?」
「活動費だよ」
じっと飴細工を見ていたかと思えば、すれ違い様にボクの手から抜き取っていったヒバリさん。
ハムスターがダメ押し?それとも二本とも欲しかったんだ??
ヤバい超萌える。
「おい」
「わーったよ、お面屋に行くよ」
一先ずジンが急かすので、ヒバリさんの背後からツナ達に手を振ってその場を後にしよう。
(品臣さんは…………よし、着いてきてねぇな?あいつの代わりに、あの時のことはお前達をボコすので我慢してやるよ)(つまり完全にとばっちり―――!!??)