飴乃寂


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£海水浴£




朝。ペニーという小さなスケボーに乗って登校し、朝と昼休み、放課後に風紀の仕事をしつつたまに委員長と命懸けの校内鬼ごっこに興じ。


授業中は隣の席の早川とこっそり小説を読んでいるか寝ているかだが、学年テストとなれば、多すぎて困る程の知識はあるので学年上位に食い込む成績であり。


最近ではヒバリと足で競えるのはもちろん、運動神経も悪くないので護身術を身につける為に適当な道場に放り込めば、そこそこ上達し。


交友関係については言うまでもなく、今も毎日友達百人作れる勢いで広がっている最中である。



「っつーわけで試しに色々やらせてみたが、元々そこそここなせるタイプだしな。しごきがいがないから飽きちまった」


「ふははははは!!常時死ぬ気女に不可能はないのだよリボーン君!!」


「常時死ぬ気女って………ずっと体から死ぬ気の炎が出てるから?」


「確かに品臣はいつも全力だしな!」


「笹川並のバカってことだろ」


「何か言ったかな獄寺君」


「寄るな変態!!」



昼休みの屋上でみんな各自のお昼を食べているが、もう早弁して昼食を済ませたボクはフェンスの側で両手を広げて風を浴びている。


屋上の風って、どうしてこんなに気持ちいいのだろうか。



「お?あれはまさか………」



ふと校舎の窓から見えた人影を確認するべく、ポケットから双眼鏡を取り出して覗く。


すると三秒と経たないうちに影も歩みを止め、こちらを見てからにやりと笑った。



嗚呼、今日も麗しいです委員長。



再びヒバリさんが歩き出すのを見る間もなく、端末の通話ボタンを押して耳にあてる。



「あっ、もしもし持田先輩!?教室にいるなら至急グラウンド側の窓を開けて離れててほしいんですけど!!」


「あん?」


「品臣さん?」


「どうしたんだ?」


《え?ああ……………開けたぞ?》



フェンスを少し乗り越えて、階下の窓が一つ開いたのを確認する。


ヒバリさんはどこだと目を走らせると、悠々と歩いてはいるが確実にこちらに近づいてきているのが見えた。


よっとフェンスに登って片足をかけ、後ろにいる三人を見る。



「じゃっ、ボクやることできたから行くね!」


「えっ、行くってどこに!?」


「おいまさか……」


「またね!!」


「飛んだああああああ!!?」


「品臣!?」



フェンスから降りて窓から教室に入り、持田先輩の横に着地する。



「うぉ!?今どこから入ってきたお前!?」


「屋上からです。急いでるのでアディオス!」


「極限だな品臣!」


「了平先輩も極限にいい男ですね!」


「ぬっ、よく分かっているではないか!」


「あっ、イチノちゃん。今日って……」


「四時に喫茶ですよね!必ず風紀委員会終えて行きますお姉様!!」


「うん、頑張ってね〜!」


「ヒバリさん見えたよ〜」


「いやあああああ皆さんまた後で!!」


「ばいばーい!」



声援なのか何なのかかけられる声に答えながら、三年教室を出て廊下を走る。


後ろを見ればあら不思議。屋上にいた時はまだまだ遠かったヒバリさんが、今は後方二百メートルに見えた。


シャキンとトンファーを構えて戦闘モードに入ったのが、遠目からでも分かる。


それからもう後ろは見ない。前だけ向いて全速力だ。



「ちょうど腹ごなしに暴れたいと思ってたんだ」


「いつも思ってたけど、ヒバリさん歩くの速すぎないですか!!?」


「君がノロマなんだよ」



足か!足が長いからかちくしょう!!




****




ああああああああ


ぎゃあああああああああ



「あー……ヒバリさんか……」


「ったく、あいつらもよく飽きないっスよね」


「ははっ、本当に仲良いよなあいつら!」



屋上にいても微かに聞こえる悲鳴を聞きながら、各自昼食の続きを取る。


フェンスを飛び越えた時は驚いたが、彼女は転校時からまるでアスレチックで遊ぶように、軽く校内の窓という窓から移動する。


それは段々難易度が増していってるような気もするが、自分達まで巻き込まれることはほとんど無くなったので、毎回苦く笑って済ますのである。



バンッ



「忘れてたツナ君伝言だよ!!」


「うわあ!?びっ、びっくりした………」


「ったく、お前は昼飯時くらい大人しくできねぇのか!?」


「伝言?」


「了平先輩が、明日の修了式が終わったら教室で待て!だってさ!じゃあ伝えたよ!」


「えっ、お兄さんが!?」


「明後日から夏休みだし、海にでも行くんじゃない!?リボーン君、立体機動装置ない!?」


「それはないが、登山用ロープならあるぞ。ほら」


「ありがとう!!」



慌ただしくドアを開け、リボーンからロープを受け取ったイチノはそれを腰に巻いて先端をフェンスにかけると、消防士さながらのスピードで下へ降りて行った。


数秒後、階下からまた悲鳴が行ったり来たりし始める。


彼女も彼女だが、それを追う彼もどうして毎回撒かれることなく、彼女の先回りができるのだろうか。


残されたロープを回収したリボーンを視界の端にとらえながら、ツナは今日も平和だなと息をついた。



早いもので、中学二年目の夏休みが始まる。




 
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