飴乃寂
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£修業の一歩目£
帰り際、γと共に空港まで見送ってくれたアリアさんはこう言った。
「あなたの水の力は、誰かの渇きを潤す為に与えられたものなのかもしれないわね」
どうしてボクが操れるのが水なのか、なんて考えたことはなかったけど。
「そうですね。ボクも誰とも争わずに仲良くしていきたいと思っているので、この力もそうで在りたいと思います」
笑いながら冗談混じりで言ったこれが、自分でも思ってる以上にストンと腹の底に落ちてきて。
これを、これからのボクの抱負にしようと決めた。
* * * *
「ただいまー」
空港からタクシーで並盛の自宅に帰り、キャリーケースやらお土産の袋やらの大荷物を半ば引きずりながらリビングに入ると、ソファーで何やらチラシを見ていたジンが振り返った。
「おう、おかえり。収穫はあったか?」
「色々とね。君にも話すことがあるんだけど、暇なら荷ほどき手伝ってよ」
「やなこった。それくらい自分でやれ」
つれないやつめ。
「というかジン!?君もしかしてボクがずっと死ぬ気の炎を出してることに気づいてたんじゃないの!?触らないと水を操れないことに気づいたの君だったよね!?」
「あれは勘だ!渡伊する前にも言ったが、全身から死ぬ気の炎を出せるのはアルコバレーノだけのハズだってリボーンが言ってたから、自分より何か知ってそうなやつに連絡しておくって言われて……」
「ああアルコバレーノの麗しいボスに会ってきましたよ!ほら証拠写真!!」
「この女、先が長くなさそうだな。死相が見える」
グシャッ
「ぐっふぅっ!!」
「アリアさんの為ならどんな願いだって叶えてみせます!あなたは世界一の美人巫女………!!!」
アリアさんを信じてみよう。
その一心で受け取った小箱を胸に抱き、正直自分の身には余るほどの力を感じる指輪を頭に思い浮かべる。
この先に起こることを考えればどこかに隠れてしまいたいが、これが自分の手掛かりにもなるというなら、逃げずに挑んでやろう。
その為にはまず。
「ジン、これからリボーン達を呼ぶからご飯用意してよ!今日は積もる話が一杯あるよ!!」
「なら後頭部から足を退けろお前……!!」
床に俯せに倒れているジンはズリズリと這ってボクから離れ、服についた埃を払いながら立ち上がった。
「ったく、どうしてお前と話すと調子が狂うんだか………まぁ俺からお前に話すことは一つだ」
「うん?」
なんだ、真面目な話か。
「もうお前に元の世界のことを思い出せとは言わねぇ。でもな、お前には大事な家族がいた。それだけは忘れんな」
……………大事な家族、か。
『無理に思い出さなくてもよい』
『だって一緒に生まれてきたんだよ?だったら――――………』
もうなんとなく、男の子の正体の見当はついている。
でもきっと今は、思い出す時期ではないのだろう。
どこかの世界のボクも言ってたじゃないか。
記憶を失ったままでも、幸せになった人は大勢いるって。
ならもしかしたら、一生思い出さずにいても良いのかもしれない。
どちらを選べばいいのか、まだボクには分からないけれど。
「うん、忘れないよ」
ジンの言う通り、ボクには大事な家族がいたという事実だけを忘れなければ、良いのかなって。