飴乃寂


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「俺は例のガキの希望に添って四年後にこいつを連れてきたんだが」


「どうしてかその男の子のことだけ思い出せなくてね。最近あと一歩で思い出せそうだったんだけど、その時に炎に包まれたんだ」


「やっとの思いでこの世界に捕まえて連れてきたのに、また行方知れずになってたまるかよ」



凄腕の術士と、パラレルワールドの知識であらゆることを知ってる女の子。



「ボクはこの力を自制できないから正直扱いに困ってるんだけど、どうやら例の男の子に触れると、発動しやすいみたいなんだ」


「最初は再会させる前にイチノの記憶を叩き起こすつもりだったが、そう簡単にいく問題でもなさそうでな」



彼女がやけに物知りな理由や、あの白い死ぬ気の炎がパラレルワールドにトリップしようとしたものだったこと、それをジンさんが止めようとした理由を知って驚いたけど。



「そうか?その男のことを、ジンは知ってんだろ?さっさと会いに行きゃあ良いだろうが」


「まあ最後まで聞け。お前達を今日呼んだ理由もここにあるんだ」


「理由?」



理由って、なんだろう。



「ガキが指定した待ち合わせ場所が、ボンゴレ十代目が通う並盛中ってことだったんだ。だからあとは向こうから来るのを待つだけだ」



その瞬間、俺の背中に悪寒が走った。


急にマのつく危ない話になったぞ、と。


こっそり回れ右して退室しようとした俺にいち早く気づいたリボーンが、無言で銃口を構えた。


やっぱり逃げるのは不可能だ。


隅で縮こまる俺を余所に、話は進んでいく。



「……おい待て。その約束が四年前にされてたんなら、それはおかしい話だろうが」


「そうだな。ツナが並中に入学したのは一昨年の話だし、その時はまだツナよりも遥かに有望な十代目候補達が生存していて、ボンゴレはツナに見向きもしてない時期だしな」


「ボンゴレごっこの話か?」


「やっややや山本は聞かなくていいよ!!俺とは関係ない話だから!!」


「ガキがどうしてそう指定したのか、指定できたのかは俺も分からないが、そういう経緯があってイチノを並中に入学させたんだ」


「ボクもここら辺で並中が一番美形が多いと思ったから喜んで入学したしね!」


「お前の美形好きは元からだったんだな」


「君も将来有望株でマークしまくってるからねリボーン君」


「おう、俺は必ずいい男になるぞ」


銃をしまって品臣さんと話始めたリボーンに、ほっと息をついた。


リボーンのすぐに銃を出す癖は、どうにかならないものか。



「というワケでガキがお前達に先に会うかもしれないから、協力してほしいんだ」


「協力っつっても、例の男がもう並中にいる可能性はねーのか?お互い気がついてないだけでもう会ってるんじゃ……」


「それはないな。授業参観でも校内を見回ってみたが、俺が会ったガキらしいやつはいなかった」


「ボクも現並中生はほぼ網羅して友達になったけど、ボクのことを知ってそうな人はいなかったし」


「そういや俺も、例の男の名前を聞いてなかったな。名前も分からないのか?」


「リボーンお前、今までの品臣さん達の話知ってたのか!?」


「もちろんだぞ。少しややこしい話もあるから、お前達には後々話してやる」


「ちぇ」



なんだ、リボーンは今までの話を全部知ってたのか。


リボーンらしいと言えばリボーンらしいけど、なんとなく仲間外れにされた気がして唇を尖らせる。


傍にあるコップからコーラを飲もうとして、もう中身が残っていないことに気づいた。


劇を見ながら、いつの間にか飲み干してしまったらしい。



「ボク、冷蔵庫からペットボトル持ってくるね。コーラでいい?」


「あ、うん。ありがとう品臣さん」


「山本と獄寺君は?」


「俺もコーラ!」


「俺も」


「俺はエスプレッソおかわり」


「リボーン君のはちょっと待っててね」


「おう」



ヒラヒラと手を振りながら退室した品臣さんを見送ると、獄寺君が、で?とジンさんをせかした。


並べたビニールプールを両脇に退かし、ジンさんは開けたスペースに胡座をかいて座る。



「ろくどうむくろ、だ」



獄寺君とリボーンの動きが同時に止まったのは、見間違いだと思いたい。


が、世の中そんなに甘くないのは既に知っている。



「ご、獄寺君、知ってるの?」


「知ってる………というか………」



獄寺君が目を合わせてくれないことが、不吉でならない。


思わずごくりと唾を飲んで言葉の続きを待っていると、横からさらっとリボーンが言った。



「マフィアでも有名な凶悪人も同じ名前だが、そいつには死刑判決がくだって、今頃檻の中だぞ」


「え゙え゙ぇ゙!!?」



絶対に同姓同名の人違いだ。


だってそうではなかったら、彼女はその凶悪人と家族関係ってことだけでなく。


再会は、不可能に近いということだ。



「名前のこと、イチノは知ってんのか?」


「ああ。知らない名前だって言ってたけどな」



リボーン達の話を半分上の空で聞きながら、彼女が出ていったドアを見た。


いつも奔放で楽しそうに学校で生活している彼女にそんな複雑な事情があっただなんて驚きだが、その下で、彼女は何を思っていたのか、自分の頭では想像することができない。


帰る場所はない。在るのは別の世界の知識と突然現れた神様だけ。


急に、彼女がいつも友達に囲まれているのは、一時でもその孤独感を忘れる為なのかなと。


誰にも話せない寂しさを、隠す為なのかなと、そう思った。




 
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