飴乃寂


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「えー紳士淑女の皆様、わざわざご足労いただき、まことにありがとうございます」


「これからお見せしますのはー、世にも珍しいー水人形による劇でございまーす」



家の電話に出たリボーンが急に、出掛けるからついてこいと半ば家から追い出され、目的地であるマンションにつく頃には何故か山本と獄寺君も待っていて。


獄寺君はこのマンションに住んでるから俺達が来るのを玄関で待っててくれたみたいだけど、リボーンから品臣さんの家に行くと聞くと盛大に顔をしかめていた。


そんな獄寺君を宥めつつ、リボーンに案内されるがままとある部屋のインターホンを押し。


ジンさんに通された一室は、どうやら品臣さんの部屋らしかった。


そこで配られたのは、土日を利用してイタリアへ行っていたらしいお菓子のお土産で、獄寺君は懐かしいなとこぼしていた。どうやら向こうではよく食べていたものらしい。


各々にお菓子とジュースが配られて、山本は既に映画館で映画を観るようなノリで、これから何が始まるんだろうなと笑っている。


でも獄寺君はと言うと、



「何なんだこの茶番は」



俺達の正面に立つ品臣さんとジンさん、それと二人と俺達の間を区切るように一直線に並べられた、水を張った色とりどりなビニールプールに、突っ込まずにはいれなかった。



「あ、あの品臣さん………俺達リボーンに着いてきただけで、なんで呼ばれたのかも分からないんだけど……」



獄寺君に続いて俺も遠慮がちに手を挙げると、品臣さんは普段かけていない眼鏡をあげてみせた。



「何って、これからボクのことをみんなに知ってもらおうと思って、分かりやすく人形劇にしてみたんだよ?」


「そんなの普通に喋ればいいだけだろ!?」


「まあまあ獄寺、まずは観てみようぜ?」


「お前は引っ込んでろ野球バカ!!」


「リボーン君、君話してないの?」


「俺は話したぞ」


「えっ、いつ!?」



横にいるリボーンを見下ろすと、リボーンは飲んでいたカップをソーサーに戻す。



「お前らには先日保健室で起こったことをツナから聞いただろ?」


「あ、あああの時のことか!」


「こいつの全身から死ぬ気の炎が出たって話ですか?リボーンさん達を疑うわけじゃねぇっすけど、さすがに信じられません!」


「俺もその手品見てみたかったけど、もしかして今日また見せてくれんのか!?」



山本はまあ、置いといて。



「知ってるなら話は早い。これからボクのノウハウを披露するから、それが事実だって覚えててほしいんだ」


「披露するって、水人形劇………で?」


「そうだよ!時間がない中、さっきまでジン君と何度も打合せして練習したんだ!」


「ジンさんもやるの!?」



ただの人形劇ならよく知っているが、水人形という聞き慣れない単語に首を傾げる。


七夕の時のウォーターマジックといい、彼女は水を使うのが好きらしい。


しかも、今回は凄腕の術士だということが分かったジンさんと。


これから一体何が起こるのか、期待半分恐怖半分である。



「それでは、始まり始まり〜!」



パチパチと拍手しながら一番近いビニールプールの隣に膝をついた品臣さんのやや後ろで、ジンさんが台本らしきものを片手にオホンと咳払いして語り始めた。



「あるところに、不眠症で悩む男の子がおりました」


(不眠症!?)



ダメだ。早くももうツッコミたい。どんな話なのか全く見当がつかない。


目の前の水色のビニールプールの中心には、人形のように丸みを帯びた小さな水の男の子が立っている。



「珍しく眠れた夜のことです。男の子は神様が出てくる夢を見ました」



水色のビニールプールにいた男の子は消え、今度は黄色いビニールプールにさっきの男の子と、フードで顔を隠して杖を持った、神様らしき人形が出てきた。



「どんな願いでも一つだけ叶えてやろうと言った神様に、男の子は迷う素振りを見せながらこう言いました。


「僕が大人になったら、ある女の子に会いたいんだ」



男の子は手をもじもじさせながら、何もない空間に向かって指を指す。


すると黄色いビニールプールから伸びた水が、そこに透明なビニールプールと、その中心に髪をおさげにした水人形を作り上げた。女の子、ということらしい。



「神様は男の子の願い通り、男の子が大人になった頃に女の子を迎えに行きました」



今度は女の子の傍に、あの神様が現れる。



「神様は女の子を男の子の元へ連れていこうとしましたが、その時大変なことが起こりました。なんと、女の子がいた世界が消えてしまったのです!」



パァンと弾けるように透明なビニールプールと二人が消え、残った水が黄色いビニールプールへ戻る。


と、次は赤いビニールプールに神様が現れて辺りを見回す素振りを見せた。



「気がついた神様は慌てて女の子を探しましたが、何故か女の子は色々な世界へ現れては消えてしまうので、中々捕まえられません」



青いビニールプールや緑色のビニールプールなど、転々と現れる女の子を神様は追っていたが、神様がそこにつく頃には、女の子は別の世界へ行ってしまう。


どうどう巡りのような追いかけっこが暫く続いた後、漸く女の子の手を握って捕まえた神様。


今度は二人が同時に消え、橙色のビニールプールから手を繋いだままの二人が現れた。


どうやら、ここで初めて二人の会話が始まるらしい。



「ああやっと捕まえた。よし女、これからお前に会いたいという男に会いに行くぞ」


「待って神様、その男とは誰のことかしら?」


「何を言っているんだ?男はお前の家族だろう?」


「おかしなことを言う神様ね。そんな人は知らないわ」



すると神様が慌てたように、両腕を上下に振りだした。



「女の言葉に驚いた神様は、女の話をよく聞くことにしました。するとどうやら女は、いくつもの世界を巡って人間には多すぎる知識を得たせいで、男のことを忘れてしまっているようでした」


「神様が言うなら、その人は私の家族に間違いないわ。私も彼を思い出せるように、努力をしましょう」


「お前が男を忘れてしまったのは、俺がお前の世界からお前を引っ張ってきてしまったせいだ。お前の世界は消えてしまって、もう帰る場所もない。俺も責任をとって、お前が男を思い出せるように協力しよう」



お互いの方を見て話していた二人が、おもむろに正面を向いた。



「こうして、二人の不思議な共同生活が始まりました」


「二人は今も、自分達を待っている男のことを思いながら、男の記憶を探しているのです」


「「めでたしめでたし」」



人形達とぺこりとお辞儀をした品臣さんとジンさんがそう声を揃えると、山本が一番に拍手をし、それに続いて俺も慌てて拍手した。


劇は終わりのようだけど、なんだか、その。



(めでたしなの………か?)



めでたしということはハッピーエンドということだけど、この劇の結末はハッピーエンドとは言い難い。



「面白かったぜ!水の人形もまるで生きてるみてーに動いてすげぇのな!」


「てめぇはお気楽でいいよな」


「なんだよ獄寺?面白くなかったか?」


「話自体面白味もねーが、これは男が家族の女に会いたいと言って始まった話だろ?なのに二人が無事に再会するまでもなく話が終わるだなんて、おかしいだろうが」


「じ、実は、俺も……そう思った」


「なんだツナもか?」



この劇はハッピーエンドというかバットエンドというか、



「話が中途半端なのは、これはボクとジン君が一緒に暮らし始めた理由だからだよ」


「実話だしな」


「えぇっ!?」


「前置きしたでしょ?これは事実だから覚えておいてって」


「そっそうだけど………」



これが本当に事実で、彼女とジンさんの話だということは。



女の子が品臣さんで、神様がジンさんってことで。



「まさか二人って、本当は従兄弟でも何でもないのーー!!?」



俺は友達のことを何も知らないのだと痛感したのは、多分この日が生まれて初めてだ。




 
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