飴乃寂
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ジンはキッチンに向かって食事の用意をし始めたので、ボクも旅荷物を片付けようと階段を上って自室のドアを開けた。
ガチャッ
すると薄暗い部屋の中心に、黒い人影が二つ。
ゆっくり、ゆらりと動いてこちらを向いた。
「ぎゃああああああああっ!!?」
「お待ちしておりました、品臣イチノ様」
「…………って、ん?人??」
思わず後ずさってしまったが、静かな人の声に恐る恐る手を伸ばして照明のスイッチを押した。
もちろん、ドアにしがみついたまま中には足を入れていない。
明るくなった部屋に見えたのは、長い桃色の髪と黒いマスクといった特徴的な容姿の女性。
彼女達が現れることに何の疑問を持たぬまま、ボクはああそういうことかと納得していた。
マーレリングがボクの手にあるのだから、彼女達が現れるのもまた必然。
それは決まり事のようで、そこに他の何かの意思など存在していないのだ。
「は、はじめまして………チェルベッロ……」
「お初にお目にかかります。あなたにようやくお会いできました」
「ようやく?あ、トリップを繰り返してたせい?」
「それもありますが、あなたは無意識にトリップした後、何の能力も持たない完全な凡人となっていました。なのであなたが自分の能力を自覚しつつ留まっている世界は、ここが初めてなのです」
「あー、そうなんだ……」
トリップした後の残された自分がどうなったのか、何となく感覚的には分かってたので驚きはしないが、その、なんというか。
「この世界は、本当にボクにとってかなり異例な世界なんだな……」
それは前代未聞なことばかり起こって頭が痛いと嘆いていたジンにも言えることかもしれないが。
「はい。あなたの傍にジン氏がいること自体、異例中の異例と言えます」
「そりゃあジンはああ見えて人間じゃないし」
「それは心得ています」
「うわあ、本当に何でも知ってるのね」
言ってしまえば、事の発端はあいつだし。
あれ、さっきいい感じで別れたのにまた腹立ってきた。
ドアの端を八つ当たり気味に掴むと、セミロングヘアーと長ロングヘアーのチェルベッロ達が顔を見合わせて頷き、長ロングの方が口を開いた。
「マーレリングはアリア氏からあなたへ譲渡されたことは確認しました」
「その指輪をどう使うかは、あなた次第です」
「いや、使う予定はないから監視しなくていいからね」
「そうはいきません」
「何かあれば我々も協力いたします」
「いつでも呼んでください」
「協力……?」
交互に口を開いて会話する二人の顔をじっと見つめる。
マスクからのぞく高い鼻。小さな顔に、分かりやすいくらいのナイスバディ。
片手に端末を握りしめ、たった一つの願いを告げる。
「マスクごしにも美顔と分かる、あなた達の素顔を見せてください!!!」
「それはできません」
「規則ですので」
「じゃあ今すぐチェルベッロ機関の規則を書き替えろ!!というか規則なんてあったのかよ!!」
「「できかねます」」
予想のうちだったけど、やっぱり却下か。
「ってこんなことしてる場合じゃない!!これからうちにツナ君達が来るんだよー!!」
荷ほどきに部屋の片付けとホモ本の隠蔽など、やることは沢山あるのだ。
「あっそうだ!このあと時間あるなら君達も手伝ってよ!!」
「分かりました」
「このカーテン付きの本棚を移動させればいいのですか?」
「その本棚には絶対に触るな!!」