飴乃寂


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かいつまんで言えば、町の見回りに行くヒバリさんのあとをつけるも、早々にバレ。


逃げ惑いながら不良の群れを見つけるが、囲まれる前に乱闘が始まって回想にひたる余裕もなく。


群れの制裁が終われば殺気は自ずとこちらへ向かってくるので、そのままもう数えるのも諦めた第n回町内リアル鬼ごっこに突入し。


不良に囲まれて過去を思い出してみよう作戦は、見事失敗に終わったのである。


なのになんでまだヒバリさんのあとをつけるか?


そんなの、美男子のマル秘ショットが欲しい以外の理由なんてない。


あとは……そうだな。ついでだし、周りからたまに聞かれる質問に答えようか。



「どうしてデジカメを使わずに、端末を使ってるかって?」


「………ん?」



ご存知の通り端末を半月足らずで粉砕したせいで、デジカメもすぐ壊すだろうからダメだとジンからお許しが降りないからだ。


でもその理由を差し引いても、端末ではできて、デジカメにはできないことがある。


だからボクは、端末を使う。



「端末なら、撮ったそばからネット配信できる!!町の美男美女ブログが書ける!!」


「ぶ、ブログ?品臣さん、起きてるの?」



だがブログを作る前に画像ごと端末を破壊されてるボクに、どれほどのフラストレーションが溜まってるか、お分かりいただけるだろうか?



「脱チェリー出来るか否かの、切羽詰まった時の比じゃないぞ!!?」


「一体どんな夢みてるのー!!?」


「ん?やあ、ツナ君」



声がした方を見てみると、ベットの隣の椅子に座るツナがいた。


自分はベットの中にいるし、起き上がって周りを見ると、保健室?


あれ?さっきまでヒバリさんと鬼ごっこをしていたような?



「あれから俺達、気絶してたんだよ。俺が気がついた時、まだ品臣さんは気絶してたから……」


「もしかして、ツナ君が運んでくれた?」


「うん、いつの間にか足も治ってたし」


「何故気絶してたんだボク!!」


「かっ、勝手に運んでごめん!!?」


「え、ちが。怒ってないよ!?むしろ運んでくれてありがとう!」


「な、なら良かった……」



ツナにおんぶだなんて、(だっこだったかもしれないけど)そんな美味しい状況を逃すだなんて!!


室内に、ダンディシャマルの姿はない。


そういえば昨日の夕方、ナンパしに行くってすれ違ったような。


ならまだ学校には来てないのか。


羨ましいフリーダムっぷりだなちくしょう。



「そうだ端末はっ…………あったああああっ!!!」



スカートのポケットに入れていた端末は、無事にヒバリさんの魔の手から逃れられたようだ。


これがあるなら、ボクは生きていける。


ついでにコンビニでもらったお絞りも入ってたけど、これはさっきヒバリさんの隙を作る為に水分を飛ばしたから、袋の中の布は完全に干からびている。


もう使い物にならないから、捨て。どうしてお絞りがポケットに入ってたのかは覚えてないけど、お陰であの時は助かった。



「ツナ君、ツナくーん!」


「何?」



ピロリロリン♪



「あっ!」


「ふっふー!毎度ありー!」


「もう………そりゃあ少しなら撮影に協力するって言ったけど、」



新しくツナの写メも撮れたし、今回こそ上手くやってやる。



「京子ちゃんの写メも撮ったら、大きくプリントアウトしてあげるね!」


「余り多いとことわ……ゔっ」


「そういえば君、何か言いかけてなかったかい?」


「なっ、なんでもないよ!」



本当に分かりやすい反応だな、ツナ君よ。


可愛いな、唇奪ってやろうか。



キーンコーン



しかし行動に移る前に、チャイムに邪魔された。


内心で小さく舌打ちし、僅かにあげかけた腰を下ろして座り直す。



「あっ、しまった!!」


「あー授業始まっちゃったか……まあでも次の時間は一般教師のぶっちー先生だからいいや」



ちなみにこれが、根津の後任の加賀イケメン先生なら、ダッシュで理科室に向かう所存だ。


取り合えずベットから足を出して腰かけると、ツナがボクの腕を指差した。



「あ、待って品臣さん!右腕ケガしてるよ!」


「あ、本当だ」



場所は、肘の上。


痛みがないから気づかなかったけど、少し擦りむいてしまったようだ。



「えっと、確か消毒液が……ここら辺に……」


「いいよツナ君!これくらいほっといてもすぐ治るって!」


「ダメだよ!!」



思いの外大きな声だったので、面食らってしまった。


ツナもハッとしたらしく、棚から取り出した消毒液と絆創膏の箱を握りしめながらわたわたし始めた。



「びっ、ビアンキが、女の子のケガは心に一生残るから、絶対させるなって……言ってて……だから……」



ちょっと誇張してませんか、ビアンキさん。


でも一生懸命なツナが可愛くて、つい吹き出してしまった。



「ぷ、ははっ。ならお願いするね」


「う、うん……」



罰が悪そうに少し頬を赤くしたツナはめちゃくちゃ可愛くて頬が緩んだけど、



『ケガ、あんまりしないでよ』



またあの声が聞こえて、慌ててガバッとツナを見上げた。



「え………品臣、さん……?」


「あ、ご、ごめん……」



そこにいたのは、間違いなくツナだ。


辺りを見回しても、デジャヴの少年もいなければ、声もしない。


ボクの反応が不可解だったのだろう。


消毒して絆創膏を貼ったツナが、ふいに心配そうな顔をした。



「………あの、違ったら悪いんだけど、もしかして品臣さん、今悩みとか、ある?」


「そ、そういうわけじゃ……」


「獄寺君からも聞いたんだ。急に品臣さんの様子が、おかしくなることがあるって」



相談済かよ忠犬、何言ってんだよ獄寺このやろー。


心の中で八つ当たりにも等しい罵倒をしつつ、ツナを見上げて笑う。



「大したことないから、大丈夫だよ」



自分でもよく分かってない状況なのに、人に話せないし。


だけどいつもの弱気なツナはなりを潜めているらしく、肩を掴まれた。



「本当?」



じっと前を見据える、大きな瞳。


それはまるで心の底まで見透かしているようで、ぐっと唇を結んでから、ゆっくり口を開く。


今はやましいことをしてるわけでも、思ってるわけでもないのに、どうしてこんなに緊張するんだ。



「ほ、本当だよ?」


「もしかして品臣さんは、誰か…………会いたい人が、いるの?それで、探してるとか」



ツナといい早川さんといい、どうしてこう的確に鋭いんだ。流行り?


肩に力が入り、両手で拳を握る。



「………どっ、どうして?」



どうしてツナは、そう思ったの?



「品臣さん今、とても嬉しそうな顔をしてたんだ。一瞬だけど」



嬉しそう?


自分でも気づかなかったけど、もしかして獄寺といた時もそうだったんだろうか。



「俺で良ければ、話を聞くよ?」



へにゃ、と相手を安心させるように笑ったツナに、肩の力が抜けた。


ツナって、こんなに頼もしかったっけ。


息を吸い、ゆっくり口を開く。



「………あのね」


「うん」



言ってしまおうか。


言ってしまえば、もしかしたらボンゴレの力を借りられるかもしれない。


あともう一息なんだ。あと一歩。


あと一歩だけで、思い出せそうだから。



ズキンッ



「っつ!?」


「品臣さん!?」



が、唐突に襲った頭痛に両手で頭を抱え、上体を前に倒す。


ツナの手が、背中と肩に置かれたのが分かった。


大丈夫だと顔をあげたいのに、頭痛は心臓の鼓動に合わせるように、痛みを増していく。



「だいじょっ………うっ、ぐ、あぁっ」


「品臣さん!?しっかりして品臣さん!!どっ、どうしよう、誰か……こんな時にシャマルはどこに行ったんだよ!?」



ツナの手が離れ、少し離れて歩き回っている音が聞こえた。



「ならリボーン!おい、リボーン!!いないのか!?品臣さんが大変なんだ!!」



頭痛は治まらない。


息がつまって、頭の痛みで視界が滲む。


体中が熱くなり、チリッと焼けるような感覚までしてきた。



「………えっ!!?」


「………………え………?」



ツナの声に遅れて、異変に気付いた。


溜まった涙が頬を伝い、視界が鮮明になる。


目の前がカメラのフィルターがかかったように白いのは、何故だろう。


頭を抱えていた両手を目の前で広げれば、手の周りがぼんやりと白く光っていた。


これは、まさか。



「白いけど、それって………死ぬ気の、炎?」



ボクの台詞を代弁するように、ツナが呟いた。


次いでギシッと、頭の中が音を立てる。



「―――――っっ!!!!」


「品臣さん!ああシャマルもリボーンもいないんじゃ…………そっ、そうだ救急車!!電話どこだっけ!?」



激痛が堪らずに体を横に倒して、ベッドの上でうずくまった。


バタバタと室内を駆ける忙しない足音は聞こえるが、声は遠くてよく聞こえない。



ガラッ



「―――!!」



ドアが開く音、かな。


うっすらと目を開けると、保健室のドアが開いているのが見えた。


そこに立つ人影に、ツナが駆け寄っていく。


微かに声は聞こえるのだが、なんと言ってるかは不明。


おまけにドアに面している方は逆光でよく見えないから、訪問者が誰だか分からない。


その人影が足早にこちらに近づいてきて体が強張ったが、それが慣れ親しんだ気配だったので、安堵して小さく息を吐いた。


ボクの額に掌を乗せたその人に右手を伸ばし、服を掴む。


いけ好かないところもあるし、本人には絶対に言ってやらないが、最も信頼している存在だ。



「……ジ、ン………」



助かった。


頭痛が治まらない中でもそう思うのだから、ボクは自覚している以上に、こいつに頼りきっているのかもしれない。



 
 
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