飴乃寂
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£七夕大会£
次元を越えた第一トリップのせいか、その後にパラレルワールドに転々としていた第二トリップのせいか、ボクは触れた水を操れるようになった。
指先が触れた液体なら何でも良いようで、絵の具を混ぜた色水でもジュースでも、水に限らず使える幅は広い。
ならこの能力は、どう使用するのが最も効果的だろうか。
「………やっぱり細工が細かくなると、イメージとズレるなあ……」
「お前が能力の練習するのは構わんが、それがどうして俺がモデルになってポーズ取ることになるんだ?」
「差異を見比べる為だ。つる筋肉ないんだから良いでしょ?」
「感覚としてはある!!俺だって筋肉がつったら痛い!!」
ところで今ボクの目の前には、床に使用済みのパレットと水の入ったバケツ、片足立ってヨガのポーズをとるジン。
そしてその隣に、ジンと同じポーズをとった水の像がある。
絵筆で水像に部分的に色をつけながらジンそっくりの人形を作っているのだが、やはり人の形になると複雑で、どうしても不格好になってしまう。
そもそも一度像を作ると、意識を集中させてその形を維持していなければならないので、気が抜けない。
何度か集中力が切れて床一面を水浸しにし、その度に水溜まりに触れて足元のバケツに水が吸い込まれる所をイメージして入れ直している。
水だから柔軟すぎて脆いのだ。
だが集中力さえ切らさなければ、像なのに絵筆や腕を貫通させられる。
まず像を作って絵筆に絵の具を載せ、筆を像に差して少しずつ絵の具を溶かしつける。
色がついて視覚化されるから、今度は像の中の水を動かして、色が混ざらないよう部分的に固定しなければならない。
像本体。その中の肌色、銀色、エトセトラ。
はっきり言おう。
あちこちに気を張って気力の消耗がハンパないから、止めていいかな。
十本しかない指で次々と飛んでくる十個以上のボタンを押さえるなんて、理論的に無理なのだ。
調理時間が違う複数の料理を、最終的に同時に仕上げることの比ではない。同時進行にも限界がある。
像の上から色をつけても結局絵の具は中の水に溶けてしまうので、同じこと。
「お前が能力の練習したいから、何かいい方法はないかって聞いてきたんだろ!?」
「もう少しレベルが低いのはないの?これじゃいきなり左手で箸を使って豆を掴もうとするのと一緒だよ」
ボクは右利きだから、箸も右手で持つ。
とにかくこの水の能力はまだまだ慣れないので、特に何の役にも立たない。
人に見せることもできないから、プールでも出さずにいたのに。
ジンは律儀にポーズを取ったまま、うーんと唸って眉間に眉を寄せた。
「思ったより集中力が鍵になる能力だな。今日はもう切り上げて、少しずつ慣れてくしかねーだろ」
「……やっぱり慣れ、だよなあ……」
初めて能力を使った時と同じように、ペットボトルに水を入れて練習しようか。
ピリリリリッ
「うわあっ!?」
バシャッ
「ぎゃーっ!!床と俺のジーンズが!!」
着信に驚いて色づいた水像を床にぶちまけてしまったが、動揺しながらポケットに入れていた端末を取り出す。
ジンがカラフルになった床とジーンズを見て悲鳴をあげているが、水が乾く前なら一滴残らずキレイにバケツに戻せるから許してほしい。
番号は、リボーン?なんだろう?
片手で端末を耳にあて、もう片手で濡れた床に触る。更に手を振れば、水はバケツに吸い込まれていった。
これくらいなら、わりと楽にできるんだけどな。
《ちゃおっす、俺だ》
「こんにちはリボーン君!どうしたの?」
《突然だが今から、公民館でボンゴレ的町内交流七夕大会をするぞ》
七夕大会?ということは、まさか。
《各々が七夕にちなんだ出し物を審査員にジャッチしてもらうんだが、審査員は老人》
「十分で会いに行くよ!!三十年前の貴公子と大和撫子おおおっ!!」
《待ってるぞ》
「おい!どっかに行くなら、俺のジーンズを乾かしてから行ってくれ!!」
ジンのジーンズを乾かして道具を片付けて家を出るまで、二分とかからなかった。