飴乃寂


□10
4ページ/4ページ


《では急遽飛び入りで、お友達の多さはきっと街一番のイチノちゃんと、アシスタントのランボ君の発表を始めます!この出し物に得点はつかないので、どうぞごゆっくりご覧ください!》



ハルちゃんのアナウンスが入り、一度お辞儀をしてから、ラベル付きのペットボトルを目の高さまで上げる。



「じゃあ早速だけどランボ君、このペットボトルは開けられるかな?」


「ランボさんいつも、ツナに開けさせてやってるもんね!」


「なら今日もツナ君に開けてもらおっか!ってことでツナ君、おいで!」


「ええっ!?」


《ご指名ですよツナさん!どうぞ壇上へ!》


「ええ〜……ったく、ランボのやつ……」



ハルちゃんのアナウンスに促され、渋々壇上に上がってきたツナにペットボトルを手渡した。



「ツナ君。そのペットボトルの蓋が一度も開けられてないかどうか、確認してください」


「うん、えっと……確かに、開いてないよ!」


「じゃ、ランボ君に渡して」


「はいランボ」


《ツナさんも加わって、はてさて、これから一体何が起こるんでしょうか!?》



ツナから両手でペットボトルを受け取ったランボに、にっと笑う。



「ランボ君、コーラを振ったらどうなるか知ってる?」


「え゙っ、まさか」


「中からコーラが、びゃーって出てくる!あわあわぶくぶくで、面白いもんね!」


「よし!ならそのコーラを思いきり振って、ツナ君に渡してください!」


「ちょっ、ちょっと待って品臣さん!」


「ガハハハハッ!!ちねツナー!!」


「俺これ開けるの嫌だよ!?」



ツナの拒絶に構うことなく、ジャカジャカと遠慮なく振られたペットボトルは、ツナの手に渡った。



「まあまあ、君が思ってるような惨事にはならないから大丈夫だって!多分!」


「多分って言いきった!?」


「さあ一思いに開けちゃってください!」


「ツナ、泡まみれになるもんね!」


「ううっ……コーラってベタベタするから嫌なのに……」



ぽんと肩を叩くと、蓋に手を置いたまま躊躇った後、ツナは意を決したように蓋を捻った。



「………あ、あれ?出てこない……」


「ぐぴゃっ?」


「逆さまにしてみて?」


「えっ!?零れないよ!!?中身ちゃんと入ってるのに!!」


《はひー!不思議ですね!イッツ・ア・マジックです!!》


「おやまあ」


「不思議だねえ」


「中のジュース、出てこないねえ」



よしよし、いい感じだ。


中のコーラは振る時から固定させているが、そのお陰でランボの背に隠した右手は、ペットボトルを掴むように空を掴んだまま。



「では中が空じゃないことを証明する為に、中身を引っぱり出してみましょうか。ツナ君、ペットボトルを垂直にして、出きるだけ動かさないように持っててね!」


「こ、こう?」


「うん。一瞬だよ?一瞬ですよ?よーく見ててね?」


《皆さん、壇上に注目ですよ!ハルもとってもドキドキしてきましたー!!》



ランボを左手に抱き直して、右手をツナが持ってるペットボトルの口の上に出す。


そのまま勢いよく挙手するように腕を振り上げ、小さな打ち上げ花火が上がるところを想像した。



ひゅっ


パンッ



《はひー!!?》


「わっ!!」


「あっ、ほし!!」



すぐに手を握り、手首を使って拳を降り下ろす。


一瞬だけ頭上にあがった黒い星は、あっという間にペットボトルの中へ逆戻りした。



《す、凄いですー!!ひっくり返しても出てこなかったコーラが、なんとお星様になって打ち上げられました!!》


「ネタ被りですが、七夕にちなんで星をあげてみましたー!」



役目を終えて空いてる右手を振れば、会場はポカンとした後、おおおと拍手に包まれた。


初めてやったが、なんとか即興マジックは成功したようだ。



「ではこのコーラは、今回の出し物で優勝したツナ君にプレゼントしたいと思います!ありがとうございましたー!」


「えっ、いいの!?」


「うん、どうぞ」


《では、急遽飛び込みにも関わらず、見事にウォーターマジックをしてくれたイチノちゃんと、そのアシスタントをしてくれたランボ君とツナさんに、もう一度大きな拍手を!!》


「いいぞー!」


「良かったよ、イチノちゃん!」


「キレイだったねえ」



ペットボトルはツナに渡し、三人でお辞儀をする。


ランボが降りるー!と言ったので、壇上を降りてランボも床に降ろした。



「凄いね品臣さん!あんな手品もできたんだ!」


「ははっ、実は少しずつ仕込んでたんだ」



嘘は言ってない。少しずつ水を操る練習はしてたし。


ツナと一緒に壇上を降りると、山本がにっと笑った。隣には獄寺もいる。



「お疲れ!すげーのな品臣!あれどうやってんだ?」


「タネも仕掛けもございません!」



手品でのうたい文句を述べれば、山本は更に笑ってわしゃっとボクの頭を撫でた。



「わ!?」


「はははっ!そりゃそっか!」



お気に召したのかいつもより上機嫌な山本は、笑顔も五割増だ。



ピロリンッ♪



「おっ?」


「ごめん、思わず……」



こんな癒し系美少年、撮らずにはいられなかったんだもの!


山本を撮ったのは初めてだし、咎められるかと思ったが、山本は笑顔で快諾してくれた。



「写真くらいいいって!なんか良いモン撮れたら、俺にもくれな?」


「もちろん!」



天使か。中学生にして、この懐の深さよ。


フォルダに増えた画像を見返して和んでいると、山本は隣でだんまりだった獄寺に話をふった。



「獄寺も凄かったよな?品臣の手品!」


「特技が手品だなんて、お前はホントに食えないやつだな」



真顔だ。



「それで褒めてんのかよ?」


「肩つつくな!!」



獄寺の悪態には慣れてるが、こいつ今の台詞を真顔で言ったぞ。


面白くなくてジト、と獄寺を見たが、意外にも獄寺は更に言葉を続けた。



「だ、だが十代目も満足していたようだし、今回は褒めてやる」



数秒だけ、周りの時間が止まった気がした。



「…………………ん?」



ぱーどぅん?


聞き間違いかと思って、獄寺に耳を寄せる。



「二度も言わねーよ!」



ですよね!


だが、できればもう一度聞きたい。



「ごめん獄寺君、今ボク耳栓してたみたいだからもう一度」


「言わねえよバーカ!!」



分かってはいたが、デレは一瞬だったな。


チッと内心で舌打ちし、踵を返してどこかへ向かう獄寺の背中を見送る。



「獄寺、どこ行くんだ?」


「便所」


「戻ってきたら表彰式をやるからな」


「すぐに戻ります!」



山本には背を向けたまま気怠そうに答えたが、リボーンの台詞にダッと走り出した獄寺。


そんなに楽しみか。いや楽しみだろうな。


なんてったって、念願の右腕(ある意味物理的)になれるんだから。


端末の空き容量を確認する。


よし、これなら連写しても大丈夫そうだし、記念写真の準備はバッチリだ。



「獄寺っておもしれーよな」


「うん?うん、面白いよね」



それはもう、からかうのが楽しすぎるくらいに。



「最初はちょっと怖そうだったけど、花火持ち歩くほどの花火好きだったり、苦手なもんもあったりしてよ」


「うんうん」



急な話で思わず傍に立ってる山本を見上げたが、山本は相変わらずにこにこ笑ったまま前を向いている。


内容は共感できるものだったから、それはダイナマイトだというツッコミは置いといて、先を促した。



「外国人で成績いいし、すげー奴って思ってたけど、そういうところは俺らと変わらねーなって」


「そうそう。獄寺君よく怒鳴るけど、さっきみたいによく見ると、顔が少し赤くて照れ隠しだったりするし、喜怒哀楽がハッキリしてるんだよね」


「ははっ、獄寺って分かりやすいよな」


「うん、からかいがいがあるくらいね」



現に、これから見れるであろう寝袋ネタをどうやって調理してやろうかと思案中だ。


チビ寺にリベンジしてやる。今度こそ楽しく出掛けるんだ。



「好きなのか?」


「面白美少年だからね」


「ん?」


「うん?」



こそっと耳の近くで聞こえた声に瞬きすると、少し身を屈めた山本も、同じように瞬きしていた。


首を傾げれば、相手も同じ方向に首を傾げる。


何か、話が食い違っているようだ。


数秒を要して、手をポンと打った。



「あははっ。ボクはただ、からかうのが面白くてまとわりついてるだけだから、そんなんじゃないって!」


「なんだ、そうなのか?」


「美形はみんな平等に愛してるから」



恋でないから浮気もないのだ。


誰か一人を、だなんてとてもじゃないが選べない。


そんなの死刑宣告と同義語だ。


山本はふぅんと何か考えるように生返事をしたが、どうしたのと尋ねれば、何でもないぜと笑顔ではぐらかされてしまった。



「なら話は変わるけどよ、B組の飯沼って知ってるか?」


「うん、野球部の二番バッターの人でしょ?茶髪で少しタレ目な」


「そうそいつ!そいつがこの前な、―――――」



それから山本の野球部であった面白い話を聞いていたが、手洗いから獄寺が戻ってきて表彰式が始まったのを合図に、会話は打ち切られた。




* * *




「あっはははははっ!獄寺くーん!獄寺君こっち向いてー!!」


「………………なあ」


「うん?」



表彰式が終わり、ツナはリボーンと何か言い合っていて、ハルちゃんや山本もそちらで話している。


審査員のご老人達も、もうみんな帰ってしまった。


ボクは早速リボーンから貰った右腕の形をした寝袋に入った獄寺を連写していると、獄寺はおずおずといった体でこちらを見た。所謂カメラ目線だ。


というか怒鳴り声が聞こえないけど、どうしたのか。



「に、似合うか?」



早口な上にかなり耳を澄ましていないと聞こえないほどの小声で、我ながらよく聞こえたなとも思ったが、これはつまり?



「…………気に入ったの?」


「…………」



無言は肯定だろう。


そこで、からかう気満々で撮った画像達を見下ろす。


数秒考えた後、それらの画像を全て消して獄寺に近づいた。



「うん、とってもよく似合ってるよ」


「ばっ、頭撫でてんじゃねえ!!今すぐ止めろ!!」



邪な想いは、目の前の純粋な不良によって無に帰した。


今日は可愛い天使が沢山いる。


七夕パワー恐るべし。


素敵。もう大好き。



「イチノ、鼻押さえてどうした?」


「来年も是非呼んでください、リボーンさん」


「損得勘定抜きにして、お前にも町内交流会の大切さが伝わったみたいで良かったぞ」


「ええ、これはプライスレスです」



これからは、ボランティアでも何でもしましょうて。









君の知らない恋話

(やっぱり望み薄いと思うのな、飯沼)
(でっでも友達が多いってだけで、決まったヤツはいねーんだろ!?)
(ん〜、どうだろうな?)
(お前はどっちの味方だ山本ォォッ!!)
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ