飴乃寂


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尊敬すべきご老人達とのお喋りが楽しすぎて、出し物に参加する暇がないのだが、みんなの出し物を正面から見れるのはラッキーだった。


今ボクが傍にいる小さな体で真ん丸い顔のお婆ちゃんは、三十年前は人妻でありながら、その美貌で十人の若者から愛人にしてくれと求愛されたとか。


さっきは十うん股して妻にマウントポジションを取られた伝説を持つ雷神のようなお爺ちゃんといたし、人に歴史ありとはいったものだ。



「ところで、あんさんは何もしないのかえ?」


「え?」


「そうじゃ、お姉ちゃんの出し物も見たいの〜」


「嬢ちゃんはなんか、やらんの?」


「えっ!?ボク出し物なんて、何も考えてないよ!?」



出し物は既に一通り済み、残りはツナ達の表彰式のみ。


何かやれって言われても、急にそんな思いつかない!



「審査員直々とあっちゃ、やらねーわけにはいかねーな」


「リボーン君まで!?ちょっと待ってよ!ただでさえツナ君達のが大盛況だったのに、この後にやるなんてハードル高すぎるよ!!」



しかも!



「ボクは短冊書いてないから、願い事は叶わない!!」



つまりやり損じゃないか。



「予備の短冊ならあるぞ。これが最後の一枚だ」


「ボンゴレの力で、ヒバリさんの花魁写真集を出してください」


「ヒバリの為に却下するぞ」



ビリッ



「ぎゃああああ!!!最後の一枚がああああっ!!!」


「何遊んでんだ、お前……」


「はははっ、品臣はおもしれーな!」


「でも俺も品臣さんの出し物、見てみたい……かも」


「ツナ君!?」


「なっ、なんて!ははっ」



リボーンに破かれた短冊の前で頭を抱えると、ツナが罰が悪そうにしながらも、邪気のない笑みを浮かべた。



「で、でも品臣さんって授業参観の時も凄かったし、また何か凄いものが見れるんじゃないかなって、思って……」



人から期待されるのは嬉しいが、大事件だ。


ツナが恥ずかしそうに頬を染めて、ボクの前にいる。


もう一度言う。


引っ込み思案で普段はドジばかりしている可愛い男の子が羞恥心に頬を染めてぼ



スパーンッ


「十代目を邪な目で見るんじゃねえ!!!!」


「今君、思いきり人の頭ひっぱたいたね!!?」



だって! だって!!!



「今ツナ君が犯罪級に可愛かったんだよ!?ほら端末握るの忘れるくらいに!!」


「犯罪級なのはお前の脳だ!!十代目がこう仰ってるんだから、是が非でも何かやりやがれ!!」


「公開プレイすんぞ」


「制限がかかるような物見せるつもりなら、その頭に風穴空けるぞ」


「冗談!ジョーク!!」



銃を構えるリボーンへ命乞いすると、膝下に何か小さなものがぶつかる衝撃がきた。



「ランボさんもー!だっこしろー!」


「おおう、ランボ君………出し物終わるまで、ボクに見向きもしなかったのに……」



笹を食べて腹痛に襲われていたらしいが、もう落ち着いたのかランボがボクの足元でジャンプしている。


イーピンは前の件があるので、相変わらず距離がある。今もハルちゃんの後ろからボクを見てるくらいだ。これからどうやってこの距離を詰めよう。


了平先輩が控え室から出てこないのを見ると、まだ腹痛で悶え苦しんでるのかな。あとで胃薬でも持って行こうか。


取り合えずランボを抱き上げる為に、差し入れで貰ったコーラが入ったペットボトルを床に置く。



「あ、そうか」



そこで一つ、ひらめいた。



「イチノー!だっこー!!」


「はいよ」



ランボを抱っこして、ペットボトルを掴む。


まだ口を開けてないし、ボクは水に限らず液体なら操れる。


まだまだ不慣れだけど、手品レベルなら見せられるかも。


ちらりと辺りを見回すと、今まで一緒にお喋りしていたお爺ちゃんお婆ちゃんが、何かを期待するように笑っていた。



「ランボ君、ボクのお手伝いしてくれる?」


「んー?いいよ!」



可愛いアシスタントもゲットできたし、やるしかないかな。



「じゃあ、ちょっとだけ!」


「よっ!待ってましたー!」



やんややんやと盛り上がる会場に背を押され、ランボを抱いたまま壇上に上がる。

と、壇上から一部始終を見ていたらしいハルちゃんが小走りで駆けてきた。



「イチノちゃん、お一人で大丈夫ですか?」


「ランボ君に手伝ってもらうから、大丈夫だよ!」


「分かりました!舞台袖で応援してますから、頑張ってください!ランボちゃんも!」


「うん!」


「ランボさんがいれば百人力だもんね!」


「短冊がねーから得点もなし。完全にボランティアって形だが、いいか?」


「最後の短冊、真っ二つにしたのは君だろ」



恨みを込めて壇上に飛び乗るリボーンを見下ろしたが、リボーンは両手を両の頬にあて、首を傾げてみせた。



「プリチーな俺がやったことだ。許せ」


「ゆるさっっ………うっ………………………ゆるっ……すよ、この小悪魔ぁーっ!!」



ちくしょう可愛い!!!


あざとい!!あざと可愛い!!


ギリッと歯を食いしばると、口の中が鉄臭くなった。唇が切れたかも。


いつかあの柔らかそうなほっぺをぷにぷにして、撫で回してやる。


そのリボーンは頑張れよと舞台袖にさっさと引っ込んだし、ハルちゃんも司会役に戻っていった。


壇上には今、ボクとランボだけ。



「よしランボ君、頑張ろうね!」


「ランボさんに〜、まっかせなさーい!」



まだ自分が何をするか分からないはずだけど、ノリノリだな。


万歳が可愛いなちくしょう。




 
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