飴乃寂


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老人向けの町内交流会なんて、外見第一のやつから見たら却下しそうなんだが。



「このお方をどなたと心得る!?何を隠そう、彼は三十年前のミスターポリ高ですよ!街の貴公子様と持て囃されてたんですよ!?最高二〇一股を成し遂げた風神ですよ!!?」


「むか……むかあしの、話じゃ………」


「そんなそんなあ、謙遜しなくとも!若かりし頃の武勇伝、もっとお聞きしたいです!」



うふふふふ、と見るからに上機嫌だし。



「分かってないな獄寺君!醜い原石は磨けば輝いて宝石になるけど、宝石は何十年経っても宝石だよ!?美しさは衰えないんだよ!?素晴らしいと思わない!!?」


「お前の常識なんて知るか!!」



こいつの性癖には、もはや呆れるばかりだ。



「ああああなたはもしや、初代ミス並盛のお妙お婆ちゃんー!!」


「二十年前のお写真見てビックリしましたよー!だって娘さんと瓜二つの大和撫子!!相変わらず着物がよくお似合いで!」


「あああ五十年前の面影があります、いぶし銀ですねおじ様……」


「超美肌ですね!そんなに若々しい秘訣は、何でしょうか……?」



俺の一蹴も何のその。


出し物が始まる前から会場内を歩き回って褒めちぎってる品臣は、耳の遠い老人に向かっていつもより声高に喋って盛り上がっている。



「あいつストライクゾーン狭そうに見えて、バリ広っすね……」


「そうか?俺は予想通りだったぞ」


「本当ですか!?流石リボーンさん!」



横にいらっしゃるリボーンさんほどの殺し屋になると、あんな不可解なやつでも人の本能というか、中身を見る目に長けているのか。流石だ。



「あいつには出し物より、老人達のサポートに回ってもらうぞ」


「リボーン君!お手洗いどっちだったっけ?」


「そこを出て左だ。一人で大丈夫か?」


「大丈夫!じゃあちょっとシマお婆ちゃんと行ってくるねー!」


「頼んだぞ」



リボーンさんの言う通り、品臣は腰の曲がった婆さんの手を引きながら、部屋を出て行く。


どうしてあいつは、あんなに別け隔てなく人と関われるのだろうか。


二人で手洗いから戻ってきたら、何故かあいつの手には見慣れないビニール袋があった。


婆さんを席に座らせてから、その袋を持ってこちらへ近づいてくる。



「リボーン君、獄寺君。館さんから差し入れ貰ったよ。コーラ」


「サンキュー」


「やかたって誰だ?」


「この公民館の管理人さんだよ。年齢四十三、一人娘は二十歳の美女で、なんと最近モデルデビューを……!!」


「その情報はいらねえ」


「チッ、相変わらずのノリだね獄寺君。悪いけど残りのコーラ、皆に配ってあげて?」


「配るのは構わんが、てめえ今舌打ちしたか?」



品臣を睨みながら袋を受け取ると、相手はうふふと上機嫌に笑った。


なんでだ。いや、もういい。こいつはこういうやつなんだ。


いくら俺が突っぱねてガンつけたって、へらっと愉快に笑ってるバカだ。


そう思ったらなんだか毒気が削いで、またこの話の流れで「楽しいね!」とかなんとか唐突に始まるんだろうと、こっそり息をついた。



「いやあ、楽しいね獄寺君!」



ほらな。やっぱりな。



「会はまだ始まってすらいねーけどな」


「獄寺君達は出し物するんだっけ?頑張ってね!」



そういえば、俺達はその為にリボーンさんに呼ばれてたんだった。


決して、こいつの為に老人町内会に遊びに来たのではない。



「ふっ、必ず十代目と共に夢を叶えてみせるぜ!」



その為の準備も抜かりないし、必ず、必ず十代目と一位に!



「どうせなら、もっと面白味のある願い事にしてよ」



この上なくつまらなそうな顔だった。



「ボンゴレの伝統行事を、なんだと思ってるんだお前!!」



面白味を求めてどうするんだ!!


俺の願い事を言ったわけではないのに白けた顔をしている相手に怒鳴ると、品臣はやれやれと首を横に振った。



「君みたいな人が誰かと恋人になりたいとか、結婚したいとか言ったら、暫く話のネタにできるのに」


「ただからかいたいだけか、てめえ……」



浮わついた話は、硬派なマフィアを目指す俺には必要ない。そして心から、女は面倒臭いと思う。


だから、面倒臭いからいらねーよとだけ言うと、品臣は瞬きしたのち、意味深に笑った。



「ふぅーん?そっか、やっぱり獄寺君ならそう言うか」


「……ああ?なんだ?」



何となく、不吉だ。



「何でもないよ、ごっくん」


「ごっ……!?ざけんなその呼び方止めろ!!」



先日もロンシャンの真似をして獄ちゃんと呼ぶし、本当にふざけたやつ。


なのに品臣は返事をスルーし、会場の方へ踵を返した。



「じゃあボクは貴公子と大和撫子達の所に戻るから、また後でね獄寺君!」


「……………チッ、のらりくらりと………」



何が貴公子と大和撫子だ。


品臣の背を目で追っていたが、俺の呟きが聞こえたのか、表情から何かを察したのか、今日一番大真面目な顔をして、目の前まで戻ってきた。



「まだ信じてないね獄寺君!?花は枯れるだなんて迷信だよ!?たとえ枯れてても、美しければ愛でる価値はあると思わない!!?」


「だあああうるせーな!!分かったからさっさと行け!!」



同じふざけたやつでも、能天気な山本と比べると、変人で変態なこいつの方が重症だ。



「やっと来たね、ツナ君!ようこそ美しきシルバー天国へ!!」


「ネーミングが縁起でもない!!」


「てめえ退け変態女!お待ちしてました十代目。あっ、これ差し入れのコーラです!」


「わっ、ありがとう獄寺君!」


「君いつ瞬間移動なんて身につけたの!?」



到着したらしい十代目の傍に行って品臣との間に割り込み、耳うつ。



「十代目、この女には近づかない方がいいっスよ。変態がうつります」


「うつるの!?」


「風邪みたいにうつったら、みんなとこの価値観を共有できて良いのに」


「むしろ願望!?」



ともかくこれでメンバーは揃ったし、ボンゴレ的町内交流七夕大会は始まった。




 
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