飴乃寂
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「やっときたあああぁっ!!」
「今度は大事に使えよ。壊すなよ」
「ええ、二度と離さない!!」
今日から七月になり、約束通り念願だった端末を買い直してもらった。
さっそく電話帳に、暗記したお姐様達やお友達のアドレスを入れ、各々に端末ゲットしましたメールを送る。
デーダフォルダはもちろんまっさらだから、これから美男美女の画像を集めてニヤニヤするのだ。
そう思いつつふと顔をあげると、ジンが不思議そうに首を傾げた。
忘れがちだが、こいつも見目麗しい部類に入る男だ。
真っ白な狭間の世界にいた時は、あの空間の雰囲気のせいか人間らしからぬ印象があったが、今は足元に影もあるし、ごく普通の人間に見える。
が、見えるだけだ。本物の人間なら、食事も睡眠もとることなく生きられはしない。
しかし顔さえよければ、人外だろうと人間だろうと関係ない。
サッとジンの前に端末を構えると、ジンもすぐに気がついてこちらを向いた。
「んっ?」
ピロリロリン♪
「………顔は良いのにな」
「しみじみ言うなよ!!万能家政夫様だろうが!!」
撮ったジンの画像を保存し、
ピリリリリ
「はいっイチノでーす!」
鳴り響いた端末に、ワンコールで出る。
この音も一ヶ月ぶりで、なんだか懐かしい。
《おはようイチノちゃん!端末買い直して貰えて良かったわね!》
「おはよう早川さん!もう一ヶ月長かったよ〜、ところで急にどうしたの?」
通話相手は、隣の席の腐女子仲間である早川さんだった。
《今ね、鉛筆と鉛筆削りと消しゴムの擬人化三角関係についてチャットが盛り上がってるんだけど、私は切ない恋が王道だと思うの。でもみんなは切ないからこそ甘い一時の方に視点をうんぬん――――》
「早川さん、今日学校だよ!!?」
とても交ざりたい話題だが、ボクはあと数十分で登校しなければならない時間だ。
また徹夜でチャットして、授業中に居眠るのかこの人。
《あと一時間は平気よ。走らずとも学校には五分で着くもの》
「家、学校の隣だもんね……」
体育祭とか行事があると煩くて敵わないと不便もあるようだが、それでも三年間は楽に登下校できるのだから、羨ましい。
《そういうイチノちゃんは、委員会の仕事はいいの?》
「日曜日の昨日も駆り出されたからいいの」
どうして毎日毎日あれだけ書類を処理してるのに、減るどころか増えるのだろうか。
書類を届ける以外にも、署名にサインしたり見積書を作ったり、だんだん仕事の難易度が上がっていっている。
あれだけ減らしたのだから、朝やらずとも良いだろう。ヒバリさんだって今朝はゆっくり……
《そう?二時間くらい前に、ヒバリさんらしき影が誰かを引きずりながら校舎に入ってったのが、窓から見えたけど》
「できれば二時間前に言ってほしかった!!」
並中でそんなことができるのは、彼しかいない。
同時にベッドに放置していた鞄を掴み、階段を下りて玄関に向かう。
一体何時から学校にいるんだあの人は!
「ジン君!行ってくるよ!」
「おー、行ってこい」
玄関からリビングの方へ声をかけ、ペニー片手にマンションを飛び出る。
学校につくまで早川さんと文房具擬人化について議論していたが、やはり彼女は時間ギリギリまでチャットに勤しむようで、遅刻しないでねとだけ念を押して通話を終えた。