飴乃寂


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£敵は不良£




明日のプール開きで十五メートル泳げないやつは、女子に混ざってバタ足の練習だと言うから、



「いいかツナ!ぐっと潜ってんーぱっんーぱっぐっぐって、そーすりゃすいーっといくから!」



クロールの特訓をしに来たら、



「さあヘルプミー!!」



何故か周りから変態呼ばわりされてるし、



「十代目―――!!ご病気ですかっ!?」



勘違いしてる人もいるし、



「ヘコたれるんじゃねえ。お前に足りないものを教えてやるぞ、自信だ」


ババババッ


「ひぎゃあああ!!」



どうして俺は、ナマズで感電してるんだろう。



「こんなこともあろうかと、スケットを呼んでおいたんだぞ」


「お前のスケットって……凄くあてにしたくないんだけど……」



ナマズのコスプレをして俺の横に浮いてるリボーンに返すも、リボーンは我関せずと話を進める。



「まあ聞け。元水泳部で運動神経もそこそこいい。聞いた話だと、メドレーリレーで何度も大会新記録を叩き出したとか」


「へえ!メドレーリレーって、バタフライと背泳ぎと、平泳ぎとクロールを休まず泳ぐやつだろ?そんなに心強いスケットが本当に来てんのか!?」



元水泳部だと言っても、ベテランじゃないか!


知り合いにそんな人は心当たりなかったので、どんな人だろうかと期待を膨らませ、リボーンを見下ろす。


するとリボーンは、ある一点を指差した。



「ただそいつにも欠点があってな」



それを目で追って見えたのは、プールサイドで一際賑わう人だかり。



「ダイエット成功祝いですー!!やっぱり東さん超美女!更に美女になりましたね!!あっ、シグさーん!!相変わらずいいガタイしてますね!体育会系お兄さん!!横はお友達の方ですか?はじめましてー!!やだ娘さんシグパパそっくり!!」



人が壁になっていて声しか聞こえないけど、そういえば、彼女も元水泳部だという話というか噂を聞いたことがあるような。



「少し様子見すると言って、最初の方はあいつも双眼鏡でお前達を見てたんだがな?」


「………双眼鏡?」



そんなものが必要なくらい、彼女は離れた場所から練習風景を見ていたのだろうか。



『おかしい』


『何がだ?』


『眼福には変わりない。水着ってもっとこう……たぎるものがあると思ってたんだが、きっちり制服を着ている時の方が良かったと思うのはどうしてだろう』


『どうしてだ?』




そこから先は聞かずとも、何という台詞が続いたのか分からずとも、なんとなくオチは読めたからリボーンに背を向けた。


だって彼女は、ハルの勢いとはまた違うベクトルで迫ってくる危険人物だ。


何故だか嫌な予感がする。急に海パン一枚という今の自分の格好が心もとない気がしてきた。


プールから上がろうとプールサイドに手をつくと、その前に誰かが立って影を作る。自然と、顔をあげた。



「露出面積は関係ない。やっぱ乱れた着衣じゃないとイマイチ燃えない。露出が多いってことは、脱がせる布が少ないってこととほぼ同義語だ。よって今回はパス」


「登場早々、何言ってるんですか品臣さん!!」


「こいつの一番の欠点は、救いようのない変態だってことだ」


「だから肩から下を隠す全裸にバスタオル一枚ってのは、ロマンだ!!」


「ばっ…」


「発想がシャマルと同じだな」


「ボクはおっさんレベルってこと?」



そこにいたのは、半袖ティーシャツにハーフパンツ姿で、首から双眼鏡を提げた品臣さん。


その後ろには、多分彼女のお知り合いであろう美男美女やらお子様達。



「おー!品臣も来てたのか!」


「イチノちゃん、また会いましたね!」


「あ?お前ら知り合いか?」


「先日ナミモリーヌで会って、意気投合したんです!」


「やあ山本君!ハルちゃん、水着カワイイ!!獄寺君なんで服?」


「てめえの格好とどう違うんだよ?」


「ボクのは監視員さんの制服だ。知り合いのよしみで借りた」


「イチノちゃんも制服似合ってますよ!」



どうやら彼女には、他校の壁なんて存在しないらしい。


俺達と違って緑中に通うハルとも、いつの間にか仲が良さげだ。


他校というか、もはや年齢も性別も職業も、お眼鏡に敵うなら関係ないらしいけど。



「おねーちゃん、あそんでー!」


「あそんでー!」


「お?よぉっし!おねーちゃんが背中押すから、みんな仲良く滑り台に並んでねー!」



挨拶もそこそこに、わいのわいのと周りに群がってきた子供達に満面の笑みを浮かべた品臣さんは、次いで俺を見下ろした。


ん?と首を傾げると、ニッとした歯が見えた。



「ツナ君、今からでも平泳ぎを練習するのを勧めるよ。ボクは忙しいからまたね!」


「え、平泳ぎ?」



聞き返す間もなく、品臣さんは子供達に手を引かれながら子供用プールがある方向へ歩き始め、その周りにまた人が群がること山の如し。


ってそんな大袈裟なものじゃないけど、品臣さんはあっという間に人ごみの中に消えてしまった。


そういえば、彼女は知り合いに会いにプールにいたのだっけ?否。



「…………って、これって指導放棄!!?」


「放任的指導だな」


「ただの自習じゃん!!」



感覚的指導に真心的指導、理論的指導ときてまさかの放任的指導!?


自力で出来たら、こんな苦労しないのに!!



「どうやら俺の出番のようだな!!」


「京子ちゃんのお兄さん!!」



ああどうしよう。


一番受けたくない熱血的指導もきたらしい。






(どの子がチビッ子グランプリで優勝できると思う?ねえリボーン君!)(俺なら間違いなしだ)(却下)(遠慮すんな)(銃は卑怯だ!!)
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