飴乃寂


□08
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なんてことが昨日ありましたが、ツナは授業中やっぱりバタ足の練習をしていたので、どんまいと声をかけた。



「知ってたんならもっと早く教えてよ!!」



涙をためながら叫んだツナは本当にかわ、ン゛ンッ。


ボクはその日の授業は見学してたので完全に高見の見物を決め込んでいたのだが、中々に面白かった。


そして、週末の今日は。



「んん〜〜……どれ着てこうか……」


「おい集合十時じゃなかったか!?そろそろ十時だぞ!」


「分かってるよ!今行く!」



ベッドに並べた数着の服から適当に一つ選び、手早く着替えて一階に下りる。


今日は掃除の日らしく、バケツと雑巾を持って窓拭きをしていたジンの前でくるりと一回転して見せた。



「どこかおかしいところある?ない!?」


「おーおー浮かれてんなあ。ねえよ大丈夫だ」


「だって何故か、今日は今朝からずっと気分がいいんだ!いってきまーす!」



よしっと肩に斜めかけバッグを提げ、小走りで玄関に向かう。


今日は獄寺との約束の日だ!!





* * *





「ごーくでーらくーん!」


「………やっと来やがった……」


「君が五分前行動してたなんてビックリだね!」


「てめえ集合場所が一階ロビーだからって、時間ギリギリにもほどがあんだろ!十分待ったぞ!!」


「十分前行動って、不良としてはどうなんだい?」


「っるっせー!!帰るぞコラ!!」


「いとこ君元気?」


「アイスクリーム屋だったか?さっさと行くぞ」



マンション内のエレベーターに向かって踵を返した獄寺にボソッと魔法の一言を呟くと、獄寺はスタスタと出口へ歩き出す。


それを追って隣に立つと、顔がくわっとこちらを向いた。



「いいか!?今日付き合ってやる代わりに、そいつの話は今後タブーだからな!?」


「はいはい、分かってますよって!」


「………いつも以上に締まらねえ顔しやがって……」


「それってどういう意味?」



元気よく快諾したのに、舌打ちと共に罵倒される。


笑顔も引っ込んで真顔で隣の獄寺を見返すも、獄寺はケッとそっぽを向くだけだ。

身を屈め、獄寺の視界に入ろうと首を伸ばす。



「ねえ獄寺君よ、どうして君は人を罵倒しないと気が済まないんだい?」


「てめえが人をおちょくるようなことばっかしてるからだろうが」


「だって獄寺君、反応が一番面白いんだもん!」


「やっぱ果たされてーかてめえ!!」


「あっははははっ」



一際大きく吠えた獄寺から逃げるように数歩先に進み、後ろを振り返る。


さあ今日は思いきり遊び倒すぞ。


いつもわりと大所帯で遊ぶというかお喋りしていたので、誰かと二人きりで出かけるのは、かなり久しぶりだ。



「ねえ獄寺君、」


「おいてめえ!肩がぶつかったぞ!?どこ見て歩いてんだ!?」


「あ゛あ゛?」



だけど後方に不良達の戦場が見えたんだけど、気のせいでしょうか。


柄の悪い二人組の男が獄寺とガン飛ばし合ってるんだけど、ボクはどうしたらいいでしょうか。



「中坊が調子のんじゃねぇよ!」


「喧嘩なら買うぞコラ」



もちろん、獄寺は売られた喧嘩を買う気満々です。



「……………………ふっ」



ジンに言われるでもなく、我ながら今日の自分は浮かれていると思う。


何を着ていくか悩んで、全身鏡で確認しても足りなくて、ジンにまで確認する始末だ。


そりゃあもう、とても楽しみにしていた。


とにかくアイスクリーム屋にかこつけて相手をどこに連れ回すかばかり考えていたし、それで相手も気に入ってくれてもっと仲良くなれたらなあとも思っていた。


もちろん、こんなことは想定外だ。



「相手してやるからさっさと来やがれってんだ」


「ざけんなクソガキィッ!!」



ざけんなはこっちの台詞だお兄さん。



「あっ、あれあなたのママさんじゃないですか?」


「えっ!?」


「やべえバレる前にフケるぞ!!」



獄寺に向き合っているお兄さんの後ろで明後日の方を指さすと、お兄さんはすぐに顔色を変えて走っていった。


だから目の前には、状況についていけずにぽかんとしている獄寺がいる。


ボクと目が合うと、今まで目の前にいた男達を目で追った後、状況が整理できたようで萎えた声を出した。



「喧嘩バレちゃまずいって……マザコンかよ……」


「いつの世も、母は強しって言うしね!」



あの不良が母親に逆らえないのは、パラレルワールドで見て知ってたし!



「って、おい!引っ張んな!!」


「さあ行くよ獄寺君!今日という日を存分に楽しもうじゃないか!」


「お前なんで今日はそんなにテンションたけーんだよ……」



獄寺の腕を掴んで前に進むと、不審者を見るような、形容し難い顔が視界の隅に見えた。


斜め後ろを見やれば、すぐに相手と目が合う。


にへらっと、勝手に口許が緩んだ。


めちゃくちゃ楽しみにしてました、なんてバカ正直に言えないし。



「だって今日は、獄寺君の奢りでしょ?」


「それが目的かこの性悪女!!!」




 
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