飴乃寂
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£勉強会=座談会って定番£
「ただいま戻りましたー!」
「じゃあ次はこの書類、生徒会室に届けて」
「さっき職員室の前に寄ってきたところなのに!!」
今日は朝から風紀委員のお仕事です。
昨日はヒバリさんと出会い頭に問答無用で追われた後、咬み殺される代わりにズルズルと引きずられながら、応接室に連行され。
制限時間内に書類を届けられなかったら咬み殺すと言われ、最終下校まで時間いっぱい走っていた。
逃げ回ってた時間も合わせると、約三時間ほど校内を走り込んだことになる。
そしていつもより一時間早く登校した今朝は、その続きである。
好きに追い回されて仕事でも走らされて、完全に遊ばれてるのか、ボクは。
仕事は逃げ回ることだけかと思ったが、世の中そんなに甘くなかった。
どうせならまとめて出して!と抗議したって、暴君上司は我関せずと仕事に没頭している。
「これは体育委員長に」
「3Cの橋渡さんですね」
「こっちは美化委員長」
「3Aの伊藤さんは忌引きで欠席なので、同じクラスの副委員長の桃園さんに渡しておきますね」
「教頭に」
「午前中は出張なので、昼休みにでも行ってきます」
「囲碁・将棋同好会」
顔を合わせることなく渡される書類を受け取りつつ、一番上に乗せた予算削減の書類を見て、手を止めた。
「佐々木部長って優しくてカッコいい、純朴イケメンじゃないですか!ただでさえ人数少ないのに、これ以上予算削減なんて可哀想ですよ!!」
「年間の活動費が残るなら、減らすのは当然だよ。残った分は全て風紀委員会にあてるからね」
「うわあぁーっ!腐ったお役所みたいな台詞、ヒバリさんから聞きたくなかったぁーっ!!」
結局、何かを運営しているトップはみんなこうなのか。
「こっちは図書委員会ね」
「……」
このゴーイングマイウェイめ。
数度差し出される白い手を掴みたい衝動に駆られているが、学校でのボクは予定が立て込んでいる。
業間休みは可能な限り先輩後輩を含めたみんなと雑談し、授業中は早川さんとコミケの情報交換をし、放課後は街の皆々様に会いに行く任務がある。
よく考えたら、風紀の仕事をやる時間なんてなかったのだ。
自薦する前にヒバリさんにスカウトされた為(リボーンとも手を組んでたし)、入会は逃げられなかっただろうけど。
ちくしょう。できる限り早く仕事を終わらせて、このブラック企業ですり減らした精神を、外の美形美人達に癒してもらおう。
黙って好きにさせてくれるなら、目の前のヒバリさんでプラマイゼロになるのに!!
遠い昔のことじゃないのに最初に会った時と比べて、ヒバリさんに会う興奮が冷めてきているのをひしひしと感じる。
ブラック企業万歳。
ブンッ
「うわあぁっ!?」
「不快な気配がした」
「不快!?」
顔の横を通っていったトンファーに背をのけ反らし、ヒバリさんを見る。
久しぶりに正面から拝みましたよ、その綺麗なお顔。
「君は男子生徒といるとたまに肉食動物みたいな目をするのに、戦いになると逃げ回ってばかりで情けないね」
「それ、肉食違いだと思います」
男好きなんかじゃない。襲おうと思うのは男相手だけってだけで、美しいのはみんな平等に好きだ!!
紙面ではバラユリうまーだが、リアルではいたってノーマルです。
美女を着飾りたいとは思っても、服をはがしたいなんて思わない。それじゃボク、ただの痴漢魔じゃないか。
「ヒバリさん好きな人とかいないんですかー?」
「いるわけないでしょ。僕は一人でいるのが好きなんだ」
「じゃあ女の子を見て、可愛いなあとか綺麗だなあとか思ったりは?」
「しない」
「花とか植物は?」
「花は花でしょ。好きでも嫌いでもない」
「ハムスターとかどう思います?」
「…………弱い小動物」
このとても気になる間はなんだ。
やっぱりヒバリさんを揺さぶるのは、小動物だけなのか。
「そういえば飼育係とか委員会とかこの学校にありませんけど、教室でハムスターを飼ったり、外で鶏を飼ったりしないんですか?」
「飼いたい動物がいれば別だけど、ケージやエサの費用とか、色々と面倒だからね。その予定はないよ」
「じゃあ飼いたいですって生徒が動物を連れて来たら、飼っても良いんですか?」
「動物によるよ。学校に連れて来る前に、僕に確認をとって」
「はーい」
どんな動物を連れて来るにしても、最低条件として、ヒバードと共存できる動物じゃないとダメだろうな。
雑談はこれくらいにして、仕事に戻ろう。
「……で、えっと……図書委員会って言えば、うちのクラスの図書委員の早川さんが、蔵書を増やしたいって言ってましたね。あの件どうなったんですか?」
「収納スペースが限られてるから、古い書籍と新しいものを入れ替える形になったよ」
「古いものは処分ですか?」
「うん。破けてたり、状態の悪いものばかりだからね。全て廃棄処分だ」
「そうですか。それは少し勿体ないですけど、代わりにどんな本が入るのか、楽しみですねえ!」
「別に」
つれない返事と共に、ドサッと書類の山が机に置かれた。
「…………なんですか、これ」
「今の会話のうちに終わった書類だよ」
「こんなに!?」
「今日の昼休みが終わるまでに提出してきて。応接室に来るのは放課後でいい」
「昼休みまでなんて沢山時間あるじゃ………ゲッ、もう朝のホームルーム始まる!!」
「一枚でもやり残したら咬み殺すよ」
「その前に、本当にこれ持って教室に行かなきゃダメですか!?高さが三十センチはある!」
「図書委員に普及する紙紐ならあるよ」
「資源ゴミ扱い!?」
「捨てたら殺す」
「そんな恐れ多いことできませんよ!!」
紙紐は借りるけど!
書類の山を紙紐で縛り、抱っこするように両腕に抱く。
今日は誰とも雑談できることなく、書類配りで終わりそうだ。
ドアに向かって駆け出しながら、さっき投げられたトンファーを跨ぐ。
「ヒバリさんの社蓄イケメンー!!」
くいっ
ガンッ
「ぶっ!!」
そのままドアを開けようとしたら足に何かが引っ掛かり、顔からドアにダイブする。
バッと後ろを振り向けば、ヒバリさんが何かを引っ張ってトンファーを引き寄せているのが見えた。
トンファーに糸でもくくりつけてたのかよ!
「………な、なにするんですか……」
「君をどう追いつめるかの計画を練ってるんだ。罠を張るのも面白いかと思ってね」
「ヒバリさんは、ボクをこれ以上どうしたいんですか!?」
ただでさえ体力の限界まで走ってるのに、罠まで仕掛けられたらいよいよ三途の河も目の前に!
「それに忘れてましたけど、ボクこれでも病み上がりなんですから、少しは労ってください!」
一昨日高熱で早退してたなんて、昨日もすっかり忘れてたけど!
「そう。体調が完全に回復すれば、今以上に逃げ回れるんだね」
「違う!そこで微笑むな可愛いな!!ああもう時間もない!!」
いい加減、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴りそうだ。
壁掛け時計を見上げ、今度こそドアを開ける。
「そういえば保険委員会から、もっと包帯を補充したいと言われてました!申請書もらってくるんで、あとでハンコ下さいね!」
バンッとドアを閉めると、とうとうチャイムが鳴ってしまった。
書類を抱え、慌てて教室に向かう。
だからまさか応接室に小さな客人がいたなんて、ボクは知るよしもなかった。
「風紀委員になって二日目にしては、凄い働きっぷりだな」
「仕事だけなら、草壁といい勝負だよ」
「そうか。人脈もあるし、情報も早い。お前ももっとイチノを鍛えてやってくれ」
「彼女は役に立ちそうだから、引き受けてあげるよ。赤ん坊」
「ニッ」