飴乃寂
□07
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昼休みの図書室。
この日の当番だった図書委員長に最後の書類を渡し、両手を挙げて言葉にならない達成感を味わった。
おわっった!!
時間内でできるなんて思ってなかったから、喜びも一押しだ。
「あとこっちは、うちのクラスにいる書記長に渡せばいいのね?」
「はい!こんなこと頼んで、本当にすみません……」
「これくらい、お安いご用よ」
「この学校の先輩は、みんな好い人すぎて涙が……うぅっ」
にこりと笑う図書委員長に目頭を押さえる。
そう。書類を該当者に渡してくれるよう、頼めるものは人に頼んだのだ。
手抜きなんかじゃ、ないんだから!
「じゃあボク、この書類を応接室に出してきます。委員長、その書類だけお願いしますね!」
「うん。風紀の仕事頑張ってね、イチノちゃん」
委員長に手をふって図書室を後にし、書類を提出しつつヒバリさん宛にと受け取った書類を持って、応接室に向かう。
その道すがら購買部の前を通ると、見慣れた銀髪を見つけた。
「ごーくでーらくーん!」
「あ゛ぁ?って、てめぇかよ……やけに機嫌いいな」
「分かるの獄寺君!?そんなにボクのこと見てたの!?やーだー!」
「いつにも増してウゼェ。アホ牛よりウゼェよお前」
今日始めて喋ったというのに、どうして必ず悪態をつくんだろうか。
「アホ牛?」
「十代目の家に居候してるガキだ。ランボっつうくそウゼェやつなんだが、いつも十代目に迷惑ばっかかけやがって……」
「へぇー」
こうして見ると、獄寺は本当にランボが嫌いなんだろうな。
いや、嫌いってよりも、ただムカつくって感じかな。
普段はいじめっ子でも、いざとなればランボを庇ってるシーンがあったし。
「それより獄寺君は購買で何してたの?」
「去年夏期限定で販売してた素麺パンが戻ってきたって話を聞いたから、買いに行ってた」
「君それ好きなの?」
「………わりと」
新発売と聞いてツナと実食して、そのままホイホイされちゃったのか。
「じゃあツナ君の分は?」
「今日はお母様のお弁当があるから、買ってねぇよ」
「獄寺君はお昼いつも購買なの?」
「ああ」
「食費上がらない?」
「一人暮らしだから仕方ねーよ」
「あのマンションに一人暮らし?広すぎない?」
ボク達が住むマンションは、階によって少し部屋の構造が違うらしい。
ボクのところは二階建て構造の1LDKだけど、その下の階は階段がなくて、もっと広い部屋だって聞いたことがある。
「っだぁもううっせぇな!余計な世話だっての!!」
「いつもご飯一人ならさあ、ボク達と食べようよ。どうせこっちも二人だし」
「はあ!?嫌だね!なんでてめぇらなんかと飯を食わなくちゃならねーんだ!!」
「買い食いばっかだと手料理が恋しくならない?ジン君ああ見えて料理が超上手いんだよ?食べたいのなんでも作ってくれるし!」
「ぜってー行かない」
「…………」
くそ、強情な。
顔を背けた獄寺君の前に回り込み、無理やり視界に入り込む。
「じゃあ食費に困った時とかで良いからさあ、いつでも家に食べに来てね?遊びに来てね?」
「行くか、バーカ」
ケッと渋い顔をいただいたが、自分の要求を言い切れたせいか、気分は仕事に一区切りつけた時の高揚感のままだった。
書類を後ろ手に回して、獄寺君の前を後ろ向きで歩く。
「……………なに笑ってんだよ」
「えー?」
「断られたってのに、気持ち悪いやつだな」
「あんまりそんなこと言うと、ボクでもキズつくからね?」
ライフは減るどころか、回復しっぱなしだけどな!
罵倒されても萌えるんだから、ツンデレって凄いよな。得だよな。
あれ?ボクって実はドのつくMなの?
「知るかよ。さっさとビラ配りに戻りやがれ」
「なんだ知ってたの。ビラじゃなくて重要書類だけどね」
「授業終わる度に大量の紙抱えて出て行きゃ、誰だって気づくっての」
まあ、最初は高さが三十センチあって目立ってたしね。
教室の後ろの方で回るクラスごとに書類を仕分けてたら、先生に怒られたしね。
「じゃあボクは応接室に行くから、また教室でねー!」
「さっさと行け」
反転して獄寺に片手をあげ、傍の階段を駆け上がる。
なんだか気分が良くて鼻唄でも歌いたかったが、階段を登りきったところに京子ちゃんがいて、抱き着く為に万歳した。
「京子ちゃああんっ!あの書類の山をさばき切ったよ!!」
「わあ、あんなにあったのにもう終わったの!?凄いねイチノちゃん!」
「京子ちゃん達が応援してくれたお陰だよ!」
ああ女の子って、どうしてこんなに良い匂いがするんでしょうか。
タバコ臭い獄寺は、ちょっと見習えばいいと思う。