飴乃寂
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£授業参観£
僅かに気だるさは残るものの、目覚めはすっきりしたものだった。
熱も下がっているし、今日は学校に行けそうだ。
だから制服に着替えて一階に下りると、ジンから授業参観のお知らせを受けた。
「今日?」
「あぁ、昨日玄関までプリント届けに来たんだぞ。獄寺隼人が」
「獄寺君家に来たの!?」
「プリントだけ渡してさっさと行っちまったけどな」
「らしいっちゃ、らしいけど……」
朝食を食べながら、昨日の獄寺を想像する。
相手が嫌いだろうが何だろうが、全力で一つずつ反応する面白美男子だ。
ボクも起きていれば会いたかったのに。
学校に行ったら、プリントのお礼を言わなくちゃ。
「会ったら礼言っとけよ」
「うん」
それにしても、授業参観か。そんな話もあったような。
うーんと、と記憶を手繰り寄せる。
確か授業中にランボとイーピン、ビアンキといった沢田家の居候達がやってきて。
なんやかんやあって、リボ山先生が代理で授業をすることになって。
メチャクチャになった授業のクレームは、クラスメイト達から居候を預かるツナに向けられるのだが。
そのツナも死ぬ気弾を撃たれて、生徒を援護するのではなく教壇に立つ。と。
ざっとこんな内容だったかな。
「あっ、ということは今日は並中に、美人妻やイケメンパパが集まるってことじゃ!?」
授業なんて受けてる場合じゃない。
知ってるだけでコンタクト取れる機会が中々ないのが、家事育児と仕事で忙しい親御さん達だ。
このチャンス、逃す手はない。
「授業中にどこまでクラス回れるかな……京子ちゃんのご両親や、持田先輩のママは絶対ナンパはしなくちゃ……」
「俺も行くんだから、授業受けろよ」
「お前は攻略対象外だ」
「聞いてねぇし」
「ジンも授業参観来るの!?」
「反応遅ぇよ!!」
なんで!?
「お前がイケメンと騒ぐやつらが、どんな顔してるのか見にな」
「でもお前、絶対に目立つぞ?お父さんお母さん達から浮くぞ?」
ただでさえ目立つ外見をしているのに、中学生の親御さん達に若い兄さんが交じってたら、注目の的だ。
「気にしねぇよ。それよりお前、俺の設定を言うから覚えとけよ?」
「設定?」
「お前の転校理由は、両親が他界したから、従兄の俺とこの遠い街に引っ越してきた。だろ?」
「うん。重い理由にしとけば、よっぽどのことがない限り聞かれないだろうし。ある意味それで合ってるし」
不思議なもので、こういう話はこっそり広まっていて、自然と周りでその話はタブーになる。
誰がどこまで知ってるのかは、流石に分からないけど。
「俺は世界各地を点々としているフリーターで、今は傷心中の従妹の面倒を見ている、優しいアニキだ」
「その設定はツッコミ待ちか?」
「超バイリンガルだが、度重なる転居で出身地は忘れた。歳も分からん。だが仕事はできる。そんな俺をよろしく」
「そこまでボケてんのかおっさん!!分かったけど、遅刻するからもう行ってくるよ!」
「おっさんじゃねぇ!お前のクラスどこだっけ?」
「2Aです。行ってきまーす!」
「おう、行ってこい」
そんな話をして家を出たのが、二十分前のことだ。