飴乃寂


□06
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「この返り血浴びてるのが、野獣ちっくでカッコイィーッ!!」



ぺらり。ページをめくる。



「これなんか完全に王子様って感じ!うわあ屍の上に立ってるなんて信じられない!」



もう一度、めくる。



「殺し屋と言ったら、やっぱり銃ですよね。ハードボイルドですよね!」



ぺらり。



「この背景の廃墟もいい味出してるわあ。出るなら幽霊よりゾンビって感じだけど」


(見るのが怖くてツッコめない!!)



雑誌を広げてはしゃいでいるイチノは置いといて、俺は放課後で人がめっきり減った教室を見回した。


授業終了後に目覚めたミンを含めた保護者はとっくに帰ったし、部活がある者はそっちに行った。


教室に残った沢田綱吉がイチノを見て何を思っているのか、表情を見れば手に取るように分かる。


俺は怖くないけど、見たいと思うほど興味もない。



「山本武は部活に行ったとして……もう一人はどうした?」


「あ、早川はさっきの時間居眠りしてた罰で、職員室に呼ばれてました。図書委員の仕事もあるから、仕事が終わったらそのまま帰るって」


「そうか」



じっと目の前のボンゴレ十代目、沢田綱吉を見下ろすと、相手は居心地悪そうに目を泳がせる。


これがマフィアのボスだなんて、言われても信じられない。


でもこいつの傍にいろってのが依頼の条件だし、イチノが死なない程度に無茶するくらいなら、問題ないか。



「ちゃおっす、待たせたな」


「ふぐっ!」


「大丈夫か?」


「リボーンお前……今どうして人の頭踏みつけた?」



イチノの頭を踏みながら教室に入ってきたのは、黒いスーツの赤ん坊。


イチノの恨めしい視線を総無視し、俺の隣にある机の上に着地する。



「俺はリボーンだ。よろしくな」


「俺はジンだ。こちらこそ、よろしくな」



リボーンとやらに挨拶すると、リボーンも帽子の鍔を触って会釈した。


両手をポケットに入れて身を屈め、まじまじとリボーンを見回す。



「それはそうとお前、なんでスーツと帽子なんだ?その格好だとおしゃぶりが不自然だぞ。さっきのリボ山に似てるけど、同一人物か?もみあげは地毛か?」


「質問が多いやつだな。どれもノーコメントだけどな」


「俺も色んな人間を見てきたが、お前みたいな奴は初めて見たからな。どうなってんだお前」


「ジン君、それ赤ん坊の周りをガンつけて囲ってるようにしか見えないから、止めて」


「お前もその鼻血拭いたらどうだ」


「リボーンが後頭部を蹴るから、雑誌見て我慢してたのが、プツンと切れたんだよ!!」



ティッシュで鼻を押さえたイチノは、ちゃっかり問題の正解を出して頂いた雑誌を大事そうに両手に抱えている。



「それはそうとリボーン、どうして正解出したのに、ボクまで居残りなの?」


「リボ山が言ってただろ?いいマフィアの就職口を紹介してやるって。あれを解くなんて大したもんだな」


「えへへー、気合い?」



あの授業で、膨大なパラレルワールドの知識から公式を引っ張り出して問題を解いたこいつは、リボーンの言う通り大したもんだ。


中学生やってることが多いって言ってたが、それ以外はそれ以外で、やはり幅広い経験をしているらしい。



「ちょっと前から目をつけていたが、やっぱりお前をスカウトすることにしたぞ。お前もファミリーに入れ」


「ファミリーならモデルを生業にしている、このイケイケファミリーのマネージャーがいい!!」


「それもうマフィアでも何でもじゃないじゃん!!」



雑誌を広げて見せるあたり、多分その発行元がイケイケファミリーとかいうマフィアなんだろう。


マフィアって、なんでもありか。



「甘いなイチノ。そのイケイケファミリーに命令でもなんでもできる、とっておきのファミリーがいるんだぞ」


「えっ!?どこ!?」


「………まさか……」


「?」



リボーンはおもむろにクラッカーを出して紐を引き、パーンッと音を鳴らした。



「十代目ボスであるツナが率いる、ボンゴレファミリーだぞ」


「だから俺は、マフィアのボスになんてならないから!!これ以上俺のクラスメイトを、お前の変なことに巻き込むなよ!!」


「メンバーはボスのツナに、獄寺、山本。候補がヒバリと笹川了平と……」


「それだって友達と先輩だから!!」



すかさず挟む、早口なツッコミ。


クラッカーの中から紙吹雪と一緒に小さな旗が出てきて、それには「ようこそ、ボンゴレへ!」と書いてあった。


どう返事するのか気になってイチノを見ると、ちょうど目が合った。


なんとなく俺を伺ってる風だったので、腕を組んで軽く首を傾げる。



「お前の好きにすりゃいいだろ?」


「じゃ、入るー!」


「ええぇ!?」



すぐにぱっと笑顔になって片手をあげたイチノに、非難の声をあげる十代目。


この温度差、普通は逆なんじゃないのか?



「本気なの品臣さん!?」


「だって断る理由がないもの」


「メンバー全員顔見知りだしな」


「おまけに全員イケメンだし!」



俺も夕飯時のイチノの話で、ボンゴレメンバーの名前はちょくちょく聞くし。



「でもマフィアだよ!?危ないよ!?」


「ヒバリさんに咬み殺されるのと、どっちが危ない?」


「えっ!?え〜っと………って、マフィアの方が危ないに決まってんじゃん!!」


「今一瞬、イチノに流されかけたな?」



マフィアと天秤にかけて悩むくらい本当に危険なのか、ヒバリってやつは。



「じゃあ危ない時は守ってね、ツナ君!」


「交渉成立だな」


「え゛え゛え゛え゛!!?」


「顔が赤いぞ、沢田綱吉」


「んなっ、こっ、これは、その……!!」


「ツナ君、ツナ君」


「なっ、なにっ?品臣さん……」



沢田綱吉の顔を覗き込むようにして笑ったイチノは、慌てふためく相手の肩にポンと手を置いた。


ふっと雰囲気が変わったことに気づいたのは、多分傍観している俺とリボーンだけだろう。



「ぐだぐだ言うと、その服はぐぞ」



バッ



「!!?!!!?」


「おー、いい反応だな」



口許にだけ笑みを浮かべ、目を据わらせたイチノから、自分の胸元を掴んで一気に距離を取った沢田綱吉。


ミンの時といい、こいつは絡まれやすいタチなのかもしれない。


でも安心しろの意味を込めて、隣にきた沢田綱吉の肩を叩いた。



「安心しろ。本気で手を出すつもりなら、足蹴にしてでも相手を押し倒してるはずだから」


「ちっとも安心できませんよ!!」



俺の場合は、暴力的な意味でな。



「リボーン!このイケイケファミリーの人達のサインが欲しい!いつか会える!?」


「機会があればな。イタリアでもショーを開いてるから、希望するならチケットを入手できるよう、手を回しておくぞ」


「やったー!今まで優しい毛皮を被った暴君だと思っててゴメンね!リボーン大好き!!」


「それは誉め言葉として受け取ってやるから、ちょっと俺の前に来い」


「銃構えてるやつの目の前に行くなんて御免だね!」


「お前ら仲良いな」


「人に銃向けるなよリボーン!!なんでみんな、こんなにボンゴレに入る気満々なの!?」



即座に教室の出口の傍に移動し、いつでも逃げる態勢バッチリなイチノと、自分の体に合った小さな銃を構えるリボーン。


唯一頭を抱えているのは、やはりボンゴレ十代目だけだ。



「死ぬような無茶しなきゃ、何やってもいいだろうぜ?まだ若いんだしな」


「…………ジンさんだって、十分若いじゃないですか」


「俺は傍観に徹するからな。お前らが死なないよう、見守っててやるよ!」


「冗談に聞こえないから止めてください!!」



別に冗談じゃないけどな。


やれやれと息をつくと、ふいに廊下を覗いたイチノが、慌てて雑誌を自分の鞄に突っ込んだ。


なんだ?と沢田綱吉と顔を見合わせると、イチノはその鞄をぶん投げる。



バチンッ



「ぶっ!!」


「大丈夫ですかジンさん!?」


「ジン君それ持って先に帰ってて!じゃあまたねツナ君、リボーン!!」


「えっあの、品臣さん!?」


「じゃあな、イチノ」



人の顔面に鞄をぶつけたまま、イチノは静止も聞かずに、今まで見たことのない速さで教室を出ていった。


その数秒後。



「逃がさないよ」



開けっぱなしにされたドアから、イチノと同じ方向へ黒い影が駆けていくのが見えた。



「………ええっと………今のって………」


「ヒバリだ。街の見回りから帰ってきたみてーだな」


「やっぱりヒバリさん!?」


「噂の絶世の美少年か?」


「その噂、そんなに広がってんの!!?」



ぎゃああああっ


あああっ


うわあああああっ



更に数秒後、女子生徒のけたたましい悲鳴が遠くから聞こえてきて、それがだんだん近づいてきたかと思えば、また遠ざかるのを繰り返す。



「………品臣さんの声……ですよね……?」


「みたいだな」



これは、さっきの影からずっと逃げ回ってるってことか。さすが元水泳部なだけあって、肺活量も凄いらしい。


が、ふとあることに思い当たって、どこか諦めたような苦笑いをしている沢田綱吉を見下ろした。



「何をしてでも会いたかったやつに、いざ会うと必死に逃げ回るって、あいつ一体何がしたいんだ?」


「………さ、さぁ……?」


「あいつも結構バカだからな」


「やっぱり俺以外のやつもそう思うか」


「ああ」



変な方向に情熱的だしな。



「もう帰んのか?」


「ああ。そろそろ夕飯の支度もしねーと」


「じゃあツナ、俺達も帰るぞ」


「あっ待てよ、リボーン!置いてくなよ!」



イチノのことは待たなくていいらしいし、ボンゴレに会うというか、顔を見る俺の目的も、さっき最後の一人を見て果たされたし。



「じゃあジンさん、俺はこれで……!」


「ああ。またな」



リボーンの後を追って走って教室を出て行った背中を見送り、俺も鞄を片手にゆっくり歩いて教室を出る。


このあとは商店街で買い物をして、夕飯の献立を考えながら帰ろうか。


もちろん家族会議は、延期です。







家に帰還したのは三時間後でした

(帰ったか、生きてるか?)(き、記念すべき初仕事は、書類を各所に届けるタイムアタックでした………)(そうか。夕飯食ったら薬飲むの忘れるなよ)(そうだったよ、ボク病み上がり!!)
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