飴乃寂


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「ちょっとイチノちゃん!従兄があんなカッコいい人だったんなら、もっと早く紹介してよ!!」


「ふぶっ!いっ息!!息がっ!!」



体格だけは男なミンちゃんに抱き着かれたまま、横から早川さんにも頭をしめられた。


息ができないと首をふると、腕が離れて早川さんの興奮した顔が見えた。



「あの人、ドラマの並盛平凡サラリーマンに出てくる主人公にそっくりじゃない!!」


「何その平凡そうなドラマ」



その主人公に似てても、あんまり嬉しくないんじゃないかな。



「知らないの!?昼は課長に土下座ばかりする平々凡々なサラリーマンなんだけどね?」



平凡な世のサラリーマンパパが、そんなハードな仕事をしていたなんて。



「夜は社長直々の任務をこなす、ハードボイルドな男になるの!」


「あー、似たような話なら知ってる」



特命なんとかとかいう話だ。



「ちょっと日本人っぽく髪色を変えたら、きっとそれらしくなるわ!私あのドラマすっごく好きでさ!ねぇお願い、お兄さん紹介して!」


「えぇー……」



まさか二次元に生きてる早川さんが、ジンにここまで食いつくなんて。



「あらそれじゃダメよ。ジンさんは危険な香りを醸し出すより、誰にでも愛想の良い、等身大お兄さんの方がきっとモテるわ」


「それじゃあ現実的すぎて、面白くないじゃないですか!」


「あの、」


「いつまでも夢みてないで、現実の男に恋しなさいな」


「夢みるのは女の特権です!」


「ボクも仲間に、会話に入れ……」


「あら、良いこと言うわね。あなた、お名前は?」


「早川です!」


「私はミンって言うの。ミンちゃんって呼んでね?よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」



無視されたって挫けないんだから。


それより思いがけない二人が、思いがけない所で意気投合してるなんてビックリだ。



「もうミンちゃん、重いから少し離し……」


「イチノちゃん、お兄さんに相談できないことは、いつでも私達に相談してちょうだいね」


「、」



両肩に回ってる腕をはがそうと掴むと、こそっと耳元で声がした。



「お兄さんだけじゃ、心細いこともあるかもしれないでしょう?あなたにはお姐さんが沢山ついてるんだから、いつでも頼りなさい。私だって学校行事くらいなら協力するわよ?」



間近にある顔を見ると、ミンちゃんはにこっと満面の笑みを浮かべる。


彼女は言わずもがな、兄と二人暮らしのボクを気にかけてくれる、頼りになるお姐様の一人だ。



「ミンちゃん大好き――っ!!」


「可愛いわねぇ。妹に欲しいわぁ」



抱き締め返しても感謝の気持ちは足りなくて、ぐりぐりと頭を押しつける。



「それよりお前、朝と制服変わってねぇか?この晴天で制服濡らすって………」


「まさかイチノちゃん、いじめられてるの!?」


「ぐっ!!」



そんな細やかな幸せを壊すジンの声と、再び胸板に押しつけられて塞がれる鼻と口。



「お前見て女子達も逃げて行ったし、お前学校で嫌われてんのか?」


「っ。―――っ!!」


「ミンちゃん!イチノちゃん息できない!!痙攣してるわ!!」


「あら、失礼」


「ゴホッ、ゲホゲホッ、ゴホッ……………しっ、死ぬかと思っ………ケホッ」



一瞬、目の前が真っ赤になった。



「品臣さん、大丈夫!?」


「品臣は本当に誰とも仲良いのな」



店の精鋭の一人、ミンちゃん。


ヒバリ盗撮し隊の隊長で、並中のオービー……じゃない、オージー。


まさかのヒバリ父と同級生。元柔道部主将。得意なものは寝技です。




 
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