飴乃寂


□06
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「持田ママー!お久しぶりですーっ!!」


「あらイチノちゃん、商店街で会った時ぶりね!」


「今日は京子ちゃんママと一緒だったんですねー!」


「ふふふ、また京子と遊んであげてね。私は了平の教室に行ってから、二年生教室に行くわ」


「お待ちしてまーすっ!!」



授業参観の為に小綺麗にしてきたお母様達に交ざり、ちらほらとお父様達も校内に入ってくる。


ああ素敵だ。子持ちなんて信じられないほど若々しい人達ばかりだ。


並中に来て本当に良かった。


写真、撮りたかったです。



「あっ、あらたパパー!昨日街で息子さんに会いましたよ!」


「凄いわね、イチノ」


「みんな顔見知りなの……?」


「あいつの人脈はどうなってんだ……」


「顔が広いのなー、品臣」



廊下に出ずっぱりで、行き交う保護者達と片っ端から話している品臣さんを見る早川、俺、獄寺君、山本。


昼休みが終わった辺りから、彼女はずっとああだ。


すると品臣さんは、出入口から教室にひょっこり顔を出した。



「ツナくーん!奈々さん来たよー!」


「ゲッ!」



母さん来たの!?



「イチノちゃんは今日も元気ね」


「奈々さんは一昨日会った時より凄くお綺麗です!」


「まぁ、うまいんだから!」


「って言うか母さんと品臣さん、いつの間にか仲良くなってる!?」


「一週間前にナンパしました」


「まさか女の子から声をかけられるなんて思わなかったわ」


「一週間前って、転校してきた頃じゃん!!」



そんなに前から会ってたの!?母さんだって知ってたんなら、教えてくれてもいいのに!!


俺の心中なんて気にすることなく、品臣さんは教室に保護者を案内しては廊下に消え、教室に戻っては消えるのを繰り返している。



「はじめまして竹寿司の大将!2Aの品臣イチノです!」


「おー!武と同じクラスの子かい!いつも息子が世話になってるな!」


「あ、親父が来たみたいだな」



廊下からの声に山本も教室を出ていくと、すぐに三人一緒に教室に入ってきて、楽しそうに談笑していた。


山本のお父さんは店に出ているいつもの格好に、鉢巻きをしている。


品臣さんはじゃっと山本親子に片手で会釈してまた教室を出ていき、山本は席に戻ってきた。



「凄く盛り上がってたね。なに話してたの?」


「あぁ、品臣が実は魚に詳しいみたいでよ。どんな魚がいつ美味いか話してたら、そのまま盛り上がっちまってな。品臣にも言ったけど、ツナ達もまた家に食べに来いよ!」


「うん、絶対行くよ!」



俺も山本の家の寿司は、また食べに行きたい。



「私そういえば、竹寿司には行ったことないわ」


「早川は寿司好きか?」


「えぇ、好きよ。いつかイチノちゃんと食べに行くからね」


「おう、待ってるぜ!」


「………あれ?そういえば、獄寺君は……」



早川と山本の会話を聞きながら、ふと静かだなぁと思って、珍しく大人しくしている獄寺君を探す。


が、隣の席に座っていたはずの人影は、席にも、教室中にも見当たらない。



「あ、獄寺君ならさっきお姉さんに担がれて、保健室に行ったよ?」


「ビアンキ来てたのね―――!!」



音沙汰ないと思ってたら、獄寺君はいつの間にか棄権退場してたのか。


教室に戻ってきた品臣さんの目撃証言によると、手洗いに行くと言った彼とすれ違った後に起こった出来事だとか。


大丈夫かな、獄寺君。



「ビアンキさんと握手しちゃった!超美人だよね!流石、獄寺姉だよね!!」


「う、うん……まぁ」



両手に拳を握る彼女を見るに、例になくビアンキとも仲良くなってるようだ。


そりゃあビアンキだって余計なことをしなければ、美人なお姉さんだけど。


この誰とも仲良くなる才能は、もしかしたら山本以上なのかもしれない。



ざわっ



「ん?」


「廊下の方かな」



その時、廊下の方がざわっとどよめいた。


なんだろうと二人で首を傾げていると、慌てて教室に入ってきた女子達が、キャーキャーと悲鳴を上げている。



「誰!?誰のお兄さんだろう!?」


「私挨拶しちゃった!」


「一緒にいる人見た!?凄く美人だったの!美男美女!」


「鈴木さん佐藤さん、その話詳しくー!」


「あれっ!?品臣さんがいない!?」



話が聞こえるや否や、目の前にいたはずの品臣さんは、瞬きにも等しい間で女子達のグループに移動していた。


俺は山本や早川と顔を見合わせ、早川は品臣さんの所へ、俺達は廊下へ顔を出す。


そんなに凄い人がきたのだろうか。



「あ、あの人だかりのところじゃねぇか?」


「あっ、本当だ。背の高い人がいる……」



廊下には、中学生に交じって頭一つ分高い男の人が見えた。


遠目からだから顔はよく分からないけど、銀髪だ。



「あ」


「えっ?」


「こっちに向かってるのな」



その人と目があった。目も碧だし、外人かな。


やっぱり、誰かの授業参観で来たとか?


そのまま男の人は真っ直ぐ歩いてきて、俺達の前で足を止めた。


少し離れた所には女子達が興味津々といった顔つきで、その男の人を見上げている。



「もう人に囲まれてばっかで困ってたんだ。やっと見つけたぜ……」


「ん?」



そこで漸く、男の人の目線が俺ではなく、俺の後ろのものを見ていることに気づいた。


女子達も視線の先に気づいたのが、何故か急に顔を青くして、蜘蛛の子を散らしたように消える。



なんで!?



俺の後ろには、一体誰がいるのだろうか。


そっと後ろを振り向くと、風紀の腕章をつけた黒いセーラー服を着た品臣さんが、しかめっ面で腕組みをして立っていた。


フランクさに忘れかけていたが、彼女は今日から風紀委員になったんだった。


いつものように進んで群れの中に突っ込むくらいだから、クラスメイト達は彼女を全く恐れてなかったけど。


さっきの女子達が、風紀委員へのごく普通の反応だ。



「なんだよ君かよ。芸能人ばりに超美形のお兄さんがいるって期待してたのに…………ホンットがっかりだよ!!!」


「出会い頭の挨拶がそれか!力一杯悪態つくんじゃねぇ!!」


「ガイジンの兄さん、日本語ぺらぺらなのな。品臣の知り合いか?」


「ま、まさかあの人って………」



そういえば品臣さん、今日は従兄が来るって話してたような。



「あの人のこと知ってるのか?ツナ」


「そういえばイチノちゃんが今朝、国籍も歳も不明の従兄がいるって言ってたわね」



俺達の視線に気づいてか、品臣さんは腕を組んだまま、お兄さんを見上げて大きな舌打ちをした。



「チッ。こいつはボクの保護者のジンだ」


「なんでそんな不機嫌なんだよ」


「保護者一番のイケメンって言うから、ついにヒバリさんを超すアダルトな大物が現れるかと思ったのに、期待が大きかった分ショックも一押しだ!君がヒバリさん超えられると思ったら、大間違いだからな!!」



どうやら品臣さんは噂の美形が身内だったショックで、少し機嫌を損ねたらしい。



「へーへー。んじゃ紹介があったが、俺はジンだ。うちのが世話になってんな」


「私はミンよー!ミンちゃんって呼んでね!よろしく!」


「えっ!?なんでミンちゃんまでいるの!?お店は!?」


「そうだお前………頼むからこいつはがしてくれ……会ってからずっと離れねぇし……」



更にそのお兄さんの後ろから、ンバッ!という効果音付きで、綺麗な女の人が男のようなハスキーボイスで現れた。


この人も、品臣さんの知り合いらしい。



「ふっふー!今日はオフだから街を歩いてたら、ジンさんに会ってね。イチノちゃんの授業参観に行くっていうから、ついて来ちゃったー!」


「ついて来るのは勝手だが、腕を離せ!!歩きにくいったらねぇよ!!」


「もうっ、いけずー!」



ジンさんがミンちゃんの頭を押すと、ミンちゃんは渋々といった体で腕を離した。


そのまま品臣さんを熱烈に抱き締めるのを見て、ジンさんは溜息を一つ。



「それはそうとしてー、噂の委員長はいないのかしら!?会ったら一緒に写真撮りたかったのに!」


「うぐっ。そ、それがですね隊長、ターゲットは人口密度が上がり始める昼休みから街の見回りに出ているようで、恐らく保護者達が帰る放課後までは、帰ってこないと思われます」


「えぇ――っ!!じゃああのまま街をぶらついてた方が良かったかしら!?」


「多分……」


「委員長がいると思って名一杯おめかしして来たのに!!イチノちゃん、ヒバリ君を撮ったら私にもちゃんと画像回すのよ!?」


「ヒバリさんの生写真なんて、ボクの方こそ欲しいですよ!!近づけば近づくほど隙がないんだからちくしょう!!」


「せっかく同じ学校に通ってるのに、勿体ないわねぇ」


「はぁ、本当に罪な人なんだから………」



ヒバリさんを隠し撮ろうとしてる怖いもの知らずなお姐様って、もしかしてこの人のことか。



「そういや、獄寺隼人もこのクラスじゃなかったか?休みか?」


「あっ、獄寺君はちょっと体調を崩して、保健室に………」


「まさかイチノの風邪がうつったのか?」


「いや、風邪ではないかと………」



ただの心的外傷です。なんて言えないし。



「なんだ、また獄寺のやつ倒れたのか?」


「う、うん。無事だと良いんだけど」



獄寺君がいる保健室には恐らく、ビアンキがつきっきりでついてるはずだ。


山本もなんとなく察したのか、苦笑いしている。


今はただ、彼の無事を祈ろう。



「そうか。で………えっと……」


「あ、沢田綱吉です」


「山本武っス!」


「お前がツナで、山本だな!」


「えっ?」


「話はイチノからちょくちょく聞いてるから、少しならお前らのこと知ってるぞ」



漸くジンさんと自己紹介をすると、ジンさんは快活に笑った。



「まっ、せっかく会ったんだし、仲良くしようぜ!」


「は、はぁ」


「ハハッ、うっす!」



ジンさんのこのフランクさは、少し品臣さんに似てると思った。




 
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