飴乃寂
□06
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「品臣イチノだな?」
「…………はい、そうですが」
学校につくと、下駄箱付近に立っていた草壁さんに呼び止められた。
背の高さや顔の濃さ、長い長いリーゼントと、圧倒される要素がいっぱいある。
イケメンと言うより、漢!って感じ。嫌いじゃないけど。
が、どうして彼に呼び止められたのか、理由が分からない。
ボクらの周りはそれとなく生徒達が避けていて人気がないし、静かだし。
ヒバリさんにはまだ手を出してないんだけど、ボク何かやったっけ。
「昨日は早退したらしいが、体調はもういいのか?」
「あ、はい。熱は下がったのでもう大丈夫です」
なんで早退したことを知ってるんでしょう。
「そうか、なら良かった。実は昨日委員長から、お前の荷物を預かっていたんだ」
「ん?」
「遅くなったが、お前の分の腕章と制服だ」
「そういえばヒバリさん、人を寄越すとか言ってたな……」
草壁さんから両手で渡されたものを見下ろすと、きちんと畳まれた黒いセーラー服の上に、風紀の腕章があった。
なら草壁さんは昨日、ボクが早退した後もこれを渡しに教室とかに来てたのかな。
「………なんかすいません。朝もここで待ってたようだし……」
「いや、構わない。委員長の命だ」
どうして風紀委員って、みんなこんなに真面目なんだ。
委員長の魅力か。そうか。納得だ。
「花魁直々のお願いなら、コスプレでも何でもしましょうて!」
どうせ追い回される為だけに、入会しちゃったんだし!
黒のセーラーか。制服に合わせて、髪も黒く染めたろーか。
若干、自棄も入ってる。
「花魁が誰を指すのかは分からないが、このセーラー服はコスプレではなく、並中のれっきとした旧制服だ」
「そっか。公式なのか」
男子の前の制服が学ランだったってのは、知ってるけど。
「委員長は基本的に来るもの拒まずだが、自ら風紀に引き込んだ生徒は、お前が初めてだ」
「そんなこと言われたら、普通に嬉しいじゃないですか〜。草壁さん!」
「……フッ」
お、草壁さんが笑うところ、初めて見た。
「俺達は同級生だが、風紀委員会に関しては俺の方が先輩だ。分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」
草壁さん、いい人だ。
これで十四才だなんて、絶対に嘘だ。
「ヒバリさんの腰まわゴホンッ」
「ん?委員長?」
「なんでもないです」
本当にスリーサイズを聞くなら、ヒバリさんが制服を仕立てたお店に行くか、本人に抱きついて測るから。
でも後半は、実践すんの怖いな。
やりたいけど怖い。怖いけどやりたい。
あの人は見事にジレンマの塊だ。
「じゃあ、俺はこれで」
「はい。ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をすると、草壁さんが颯爽と廊下の角を曲がっていくのが見えた。
ボクの手には、黒いセーラー服と風紀の腕章がある。
さて、ホームルームのチャイムが鳴なる前に着替えようか。