飴乃寂


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「品臣イチノだな?」


「…………はい、そうですが」



学校につくと、下駄箱付近に立っていた草壁さんに呼び止められた。


背の高さや顔の濃さ、長い長いリーゼントと、圧倒される要素がいっぱいある。


イケメンと言うより、漢!って感じ。嫌いじゃないけど。


が、どうして彼に呼び止められたのか、理由が分からない。


ボクらの周りはそれとなく生徒達が避けていて人気がないし、静かだし。


ヒバリさんにはまだ手を出してないんだけど、ボク何かやったっけ。



「昨日は早退したらしいが、体調はもういいのか?」


「あ、はい。熱は下がったのでもう大丈夫です」



なんで早退したことを知ってるんでしょう。



「そうか、なら良かった。実は昨日委員長から、お前の荷物を預かっていたんだ」


「ん?」


「遅くなったが、お前の分の腕章と制服だ」


「そういえばヒバリさん、人を寄越すとか言ってたな……」



草壁さんから両手で渡されたものを見下ろすと、きちんと畳まれた黒いセーラー服の上に、風紀の腕章があった。


なら草壁さんは昨日、ボクが早退した後もこれを渡しに教室とかに来てたのかな。



「………なんかすいません。朝もここで待ってたようだし……」


「いや、構わない。委員長の命だ」



どうして風紀委員って、みんなこんなに真面目なんだ。


委員長の魅力か。そうか。納得だ。



「花魁直々のお願いなら、コスプレでも何でもしましょうて!」



どうせ追い回される為だけに、入会しちゃったんだし!


黒のセーラーか。制服に合わせて、髪も黒く染めたろーか。


若干、自棄も入ってる。



「花魁が誰を指すのかは分からないが、このセーラー服はコスプレではなく、並中のれっきとした旧制服だ」


「そっか。公式なのか」



男子の前の制服が学ランだったってのは、知ってるけど。



「委員長は基本的に来るもの拒まずだが、自ら風紀に引き込んだ生徒は、お前が初めてだ」


「そんなこと言われたら、普通に嬉しいじゃないですか〜。草壁さん!」


「……フッ」



お、草壁さんが笑うところ、初めて見た。



「俺達は同級生だが、風紀委員会に関しては俺の方が先輩だ。分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」



草壁さん、いい人だ。


これで十四才だなんて、絶対に嘘だ。



「ヒバリさんの腰まわゴホンッ」


「ん?委員長?」


「なんでもないです」



本当にスリーサイズを聞くなら、ヒバリさんが制服を仕立てたお店に行くか、本人に抱きついて測るから。


でも後半は、実践すんの怖いな。


やりたいけど怖い。怖いけどやりたい。


あの人は見事にジレンマの塊だ。



「じゃあ、俺はこれで」


「はい。ありがとうございました」



ペコリとお辞儀をすると、草壁さんが颯爽と廊下の角を曲がっていくのが見えた。


ボクの手には、黒いセーラー服と風紀の腕章がある。


さて、ホームルームのチャイムが鳴なる前に着替えようか。




 
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