飴乃寂


□05
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その日の昼休み。


持田先輩とマンガ談義をし、貸し借りする約束を取り付けて、教室に戻るかと踵を返したところ。



第二回、リアル鬼ごっこが始まりました。



今日は問答無用でトンファーが襲ってきたので、再び死に物狂いで逃げ回る。


ぶっちぎりでフェロモンはんぱないくせに、殺気も最強なんだ。


怖いし憎いし悔しいしで、涙ぐむわ。


咄嗟のことで都合よくツナ達に助けを求めることもできず、とうとう人気のない廊下で追いつめられました。


恐ろしくて声が出ない。



「あんなに僕から逃げおおせたのも、君が初めてだよ」



こっ、光栄です。



「堂々と真正面から来る獲物も、そうそういないし」



獲物って思いきり言いましたね。



「君は他の草食動物より、逃げる本能が強そうだね」



それは褒められてるんですよね?



「気に入ったよ」



気に入られたのに嬉しくないのは、多分顔の真横にあるトンファーのせいだ。



「これから不定期に君を呼び出すから、僕から逃げ回る準備をして応接室に来てね」


「この上なく恐ろしい呼び出しだな!」



そんなリアル鬼ごっこの前ふりいらない!!



「そもそも、そんな呼び出しには応じれませんよ!」


「君が来なくても構わないよ。僕が君に会いに行くから」


「口説き文句なのに悪寒しかしない!?」



狼が自分の欲を満たす為にあえて捕まえた羊を放して、また追いかけては捕まえての無限ループ!?



「もし捕まえた時は、」


「、」



そんな殺生な!と思っていると、ふいにヒバリさんの声が更に低く、艶めいたものになった。



「じっくり、咬み殺してあげる」


「へっ」



違う。


捕まったが最期だ。


これほどまでに、美形にときめいてしまった自分を殴りたいと思ったことがあっただろうか。


ああ美形が憎い!!



「ぜっ、絶対無理です!毎回あんなアグレッシブに逃げ回れませんって!!」


「昨日みたいに赤ん坊達に助けを求めてもムダだよ。君には手を貸さないように言ってきたから」


「更に難易度上がった!?」



ただでさえ、追い回したいが為に逃げ回るなんて、不毛すぎるのに!



「それやっても楽しいの、ヒバリさんだけじゃないですか」


「いいや、お前にもメリットはあるぞ」



この声はまさか、リボーン?


バッと辺りを見回すと、すぐ隣に消火栓があった。


ヒバリさんが少し離れたので、ボクもすぐに壁から離れて距離を取る。


普通なら消火ホースが収まってるはずの扉から、コーヒーカップを手にリボーンが現れた。



「やぁ、赤ん坊」


「ちゃおっす、さっきぶりだなヒバリ」


「リボーン……リボーンさん、さっき何ておっしゃいましたか?」



デメリットじゃなくて、メリットがあるとか聞こえた気が。


足元にいるリボーンから、平和なエスプレッソの香りがする。



「昨日の逃走劇を見て、お前は見込みがありそうだと思ったからな。ヒバリにみっちり鍛えてもらえ」


「逃げ足を?」


「それだけじゃない。トンファーを避ける反射神経も大したもんだぞ。もっと磨けば、ヒバリを盗撮してから逃走するのも可能なんてことに」


「やる!!」


「交渉成立だな」


「しまったあぁ――――っっ!!!」



なに頷いてるんだバカか!!



「そういうわけだから、君にはあとで人をよこすよ」


「えっ?」



頭を抱えると、応接室に戻るつもりなのか、ヒバリさんが踵を返した。



「君も風紀の腕章をつけていれば、周りからの援助はないだろうしね」


「ボクも風紀委員会に入るの!?」



そりゃヒバリさんが一般生徒を追っかけるより、風紀の腕章をつけた生徒を追っかけていた方が、只今部下を制裁中ですみたいな意味合いになるけど。


仲間にも容赦ない。そんなストイックなとこが大好きです。



「………なんて言えないよ!もうそろそろ畏怖の塊なんですけどヒバリさん!!このイケメン!!」


「僕からは逃げられないよ」


「くそぉ、あの妖艶な笑みが憎い………」



風紀委員入会って、当初の目的を果たせたはずなのに。


めっっっちゃ嬉しくない。



「ボクが死んだらリボーン、君にとり憑いてやるからな」


「スピー」


「ああどいつもこいつも、美形なのにこれだよ……!!」



俺様か。ゴーイングマイウェイか。


実際に会って、よおく分かった。


美しさ余って憎さ百倍ってのは、こいつらの為の言葉だ。




 
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