飴乃寂
□04
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£一つ屋根の下£
こんなに気だるい朝が、今までにあっただろうか。
いや十代目の護衛がなければ、学校なんて行かずに街をぶらつくところだが、そうじゃない。
昨日、よりによって自分も住むこのマンションで、嫌なやつに会ってしまったのだ。
十代目をお屋敷に送り届けた後、マンションの自動ドアをくぐった時に。
「うん?」
「あ゙?なに見てんだコラ」
住人の郵便受けが並ぶそこに立っていたのは、見慣れない銀髪の男。
俺を見るなり上から下から眺めている相手を睨んでいると、男は呑気に自分の真後ろを身やった。
「お前んとこの制服じゃねぇか?知り合いか?」
「え?あ、獄寺君今帰り?お帰りなさい」
「なに!?」
そこから顔を出したのは、先週クラスメイトになった変態女だった。
名前は確か、品臣イチノ。
先日一緒に退学しかけるわ、ヒバリに茶々いれて俺達に泣きついてくるわで、かなりはた迷惑なやつだ。
「なっ、なんでてめぇがここにいる!?」
「なんでもなにも、ボクはここに住んでるんだよ?」
「はあぁ!?」
「っていうかまさか獄寺君もここ?マジで!?」
「ん、だと……!?」
全く会わないから気づかなかった。
不思議なもので、一度会ってしまったら、逆に今までよく会わなかったなと感心する。
よっと手を上げる変態女も驚いていたが、傍の男を見て笑った。
「紹介するね、ジン君。イタリア生まれのクラスメイト、獄寺隼人君だよ」
「そうか、うちのが世話になってんな。俺のことはジンって呼べ」
「そんでこっちはボクの保護者のジン君だよ、獄寺君」
「フンッ、知るかよ」
もちろん挨拶なんてする気はなく、ポケットに両手を入れて二人の横を通り抜ける。
興味がなかったし、初対面の男を交えて立ち話するのも、避けたかったからだ。
なにより、余り他人に深く関わりたくない。
「あっ、獄寺君!これから一緒に街に行かない?今日オープンした雑貨屋に行くんだけど……」
「行かねぇよ!」
背後の声を振り切り、口を開けて乗客を待つエレベーターに乗る。
ドアが閉まる間際に後ろを振り返ると、郵便受けの前で、あの女が手を振っていた。
「明日は一緒に学校行こうねー!」
「誰が行くか!!一人で勝手に行け!!」
少し距離があるので大声で反論するも、エレベーターのドアが閉じきるまで、そいつは野球馬鹿のようにへらへら笑っている。
ついでに馴れ馴れしいし、クラスでも色んな連中と触れ合っているのをよく見かけた。
「………能天気女が」
きっとあの女も、俺には一生合わない人種だ。
* * *
「………お前さ」
「、なんだい?」
「外では猫被ってるわけ?」
「そりゃ多少は、ねぇ……?じゃなかったら、ただの喋る十八禁になっちゃうし」
「…………分かった。脳内ピンクのお前の為に、質問を変えよう」
思いがけず獄寺君に遭遇し、エレベーターまで見送った後。
ジンは出口へ歩き出しながら、ボクを見下ろした。
マンションを手配したのはジンだと本人から聞いてるし、偶然以外のなにものでもない。
なんて嬉しい偶然なんだ。
こんな身近に美形が、しかもある意味一つ屋根の下に!!
こいつは神か。………神だった。
「さっきの男、夕飯に誘わなくて良かったのか?今日ファミレスで食いたいって言ったのはお前だろ?なんだよ雑貨屋って」
「雑貨屋も行くよ?ジンがいなけりゃ、寿司でも食べに誘ったかもしんないけどね」
「なんだよ、俺は邪魔だってか」
拗ねるどころか、どこか楽しそうに笑うジン。
そんなお姐様達のような、期待した顔されても。
「有り得ないね。さっきのが山本やツナや他の誰かでも誘ったけど、保護者がいたら騒げないじゃまいか」
「それもそうか」
「分かったならいいよ、おっさん」
「ほらな!俺と二人きりだと、すぐそうやって罵倒する!おっさんじゃねーし!!」
「え、嘘。歳いくつなの君」
「忘れた」
「おい」
言わないってことは、絶対かなり年上だ。
見た目が二十歳前後だろうと、神を自称するなら高齢だと推測する。
「そんで?お前のお友達の姐御がなんだっけ?」
「……」
あからさまに話題転換したな。
いいや、いつか歳も暴いてやろう。
「アスカさんがいつものファミレスのサービス券貰ったんだけど、夜間限定だからみんなは仕事で行けないんだって。だから君と一緒に食べてくれば?って貰った」
ディナータイム半額なんて、格安だ。
あのファミレスは味もいいし、夕飯に外食なんてのも久しぶりだ。
存分に舌鼓をうって楽しんで、明日の学校も頑張ろう。