飴乃寂


□04
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「ゲッ」


「お、この声は」



翌日。


どんよりとした空模様に比例して、気持ちも晴れ晴れしなくて億劫だ。


なのに自動ドアくぐった途端にあの女がいたもんだから、今日は一日ついてなさそうに感じた。



「おはよ、一緒に学校行こうぜ獄寺君」


「っるせー!近寄んな変態!!」


「ほらほら遅刻するよ?ヒバリ様が待ってるよ?」


「うぜー、咬み殺されろてめぇ」



水色の傘をさして片手をあげる相手に、自分もビニール傘をさしながら怒鳴るも、目的地は一緒。


追い払うのも早々に諦めて、学校に向かって歩き出す。



「その時はまた助けてね獄寺君」


「あれはてめぇの為じゃねぇ!!十代目の為に仕方なくだ!勘違いすんな!」


「じゃあ沢田君に、ボクが獄寺君に助けてもらえるようお願いするかな」


「果たすぞ」


「うわガチだこの人、はは」


「笑ってんじゃねーっ!!」



昨日の今日で、なんでこんなやつの為に引き受けるとか言ってしまったのか、後悔し始めていた。


悶々としたものを抱いて眉を寄せていると、横から感じる視線。


目を開けると横目で俺を見ていたらしく、目が合った。


なんだコラと睨み返すと、何故か相手には笑みが浮かぶ。


意味が分からない。



「ま、いっか」


「あ゙ぁ!?なに急にやけてんだよ?」


「楽しいね、獄寺君」


「楽しかねぇよ、なんでてめぇなんかと登校するハメに」



人の顔を覗きこむように首を傾げる変態女から逃げるように、舌打ちをしてそっぽを向く。



「同じマンションなんだから仕方ないじゃまいか」


「それが納得いかねぇんだよ!もう引っ越せ!」


「無理だね」



ふふふっと笑い声まで聞こえてきて、一体なにがそんなに楽しいのやら。


解せない。解せないから相容れないとも思うし、癪に触る。


イライラしてきてくわえてたタバコを深く吸い、紫煙を吐き出した。



「…………こほっ」


「あん?」


「ごほっ、げほごほっ」


「なんだ、バカのくせに風邪か?」


「バカって!いや、ちがっ……だいじょ、こほっ」



すると今度は、唐突に聞こえてきた咳。


俺の横で制服の袖で口元を覆い、大丈夫だと握った傘を軽くあげて見せるが。



「………」


「こほこほっっ………けほっ」



俺は自分の手にある、部屋を出る時に火をつけたばかりだったタバコを見た。


地面は、雨で濡れている。


足元の小さな水溜まりにタバコを落とし、通りすぎ様に踏みつけた。



「こほっ……はぁ」



煙がなくなったら、案の定相手も咳が止まったらしい。


一息ついてそれまでなら良かったのに、目敏くこっちに気づいたようだ。


俺の方を向いて、またあの、俺の嫌いな笑みを浮かべた。



「ごめんね、ありがとう」


「フンッ」



手持ち無沙汰になった手を、ポケットに入れる。


他の連中がいればマシだが、二人きりだとこんなにイラ立つのだ。


早く十代目と合流したい一心で足を早めると、歩幅の小さい相手も、小走りするように足を早めた。


「………」


「………」



更に早くする。


数歩遅れて、ピシャピシャと水を跳ねて近づいてくる音がした。



「なんだい、獄寺君。急ぐの?」


「うっせぇ!ついてくんじゃねぇ!!」


「通学路一本道なんだから無理だよ」


「じゃあ後から来ればいいだろ!?足並み揃えんな!」


「やだ。これがボクの歩く速さだから」


「もうほとんど走ってんじゃねぇか!!」


「朝からツッコミも元気だね、獄寺君」



ビシャビシャ、バシャバシャ足元を濡らしながら、十代目のお屋敷を目指す。



「ちょっと待った!普通のダッシュじゃ勝ち目ないから!」


「あぁ?一々うるせぇやつだな」


「競歩にしよ、競歩!」


「んなちんたらしてたら、遅刻しちまうだろうが!」


「まだ時間はあるから大丈夫!ツナ君と合流したらダッシュすればいいし!」


「十代目に余計な負担かけられっか!」


「んじゃあ一刻も早く始めるよ。競歩って実は速いらしいし」


「あ、てめっ、フライング!」



傘と鞄で手が塞がれているのが嫌になったのか、品臣は鞄を背中に背負っていた。


水色の傘を追い、すぐに追いこす。


チョロいもんだと口端を吊り上げた時、肩にかけていた鞄を引っ張られて、後ろにつんのめった。



「ぐっ!?」


「マジで置いてかないでよ獄寺君……!」


「負けそうだからって引っ張るんじゃねぇっ!お前が競歩にするとか言い出したんだろ!?」


「言ったけど本当に置いてくことないじゃん!昨日のデレはどうしたの!?デレがほしい!!」


「誰がいつデレたって!?」


「屋上で、ボクが困ってたら助けてくれるって言った!」


「おい待て、なんか意味が歪曲されてんぞ!俺は仕方なく、お前には荷が重いだろうヒバリの相手を、代わりにしてやるって言っただけだ!仕方なくな!し・か・た・な・く!」


「仕方なくって三回言った!?」



ビシャッ


パシャシャッ


バチャバチャバチャッ



もうそろそろ、十代目のお屋敷に着く。


するとそのお屋敷から出てきた人影が、俺達に気づくことなく学校の方に向かった。


ラストスパートだ。


相手を見れば既に乗り気のようで、次こそ競争だね!と意気込んでいる。


いつの間にか苛立ちは、気に食わないやつに負けたくない、という闘争心に変わっていた。


お互い傘と鞄を抱え直し、スタートラインに見立てた水溜まりを同時に飛び越える。


ゴールはもう、目の前だ。



「どっちですか十代目!?いえ、俺ですよね!?右腕のこの俺が勝ちましたよね!?」


「ボクの方が一歩速くツナ君に追い着いたよね?ねっ!?」


「ちょっと待て!ルールは十代目じゃなくて、十代目のお屋敷までだっただろうが!」


「ツナ君が家から出てきたの見た途端、十代目のところに早く!とか言ってたの君だよ!?」


「二人とも、朝からなにしてきたの!?傘さしてるのにずぶ濡れだよ!?」






全速力でのぼる

(俺達のはじめましてな一週間は、こんな感じだ)
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