飴乃寂
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£花魁へ昇華£
ぶっちゃければ元いた世界がないと言われても、パラレルワールドでいくつもの世界を経験してしまったせいか、沢山ある内の一つがなくなったんだな。
という認識しか抱けなくなっていた。
二次元と同じように三次元にもパラレルワールドが存在していたのかは、確かめようがないから分からないが。
存在しないと言われても、もともと元の世界の記憶がはっきりしてないし。
そのなけなしの記憶で一番身近にいた両親にも、実はパラレルワールドで何度も会っているのだ。
奇妙な感覚だが、寂しさはない。
今自分の前にもこうして平然と日常が広がっているし、ジンがいるから生活にも困っていないし。
学校ではツナ達含め友達もできたし、驚くくらい順調に人生を謳歌してる感じだ。
ここまでくると、案外ボクって逞しかったんじゃないのとかと思ったり。
蛇足。紹介が遅れたが、ボクは臨という名前しか覚えていなかった。
学校では名字が必要だが、名前の上に適当な名字を付ける気にはなれなくて。
ジンと考えた結果、「臨」=品、臣、一、ノってことで、品臣イチノという名前が出来上がったとさ。
以上、蛇足終わり。
なんて解説してる間に、到着しました中学校。
毎朝校門の名前を確認するのは忘れない。
パラレルワールドでの間違い探しに使える、キースポットなのだ。
同じ通学路を通った先にあるこの学校が、いつか違う名前になるんじゃないかと、淡い期待なのか不安なのか分からないものを抱いて読み上げる。
「並盛中学校、か」
はい、今日も今日とて、並中生です!
ジンといるからなのか、今のところ、またパラレルワールドへトリップして死にかけることはない。
「ちス。私宿題やってくんの忘れたから、先に行ってるよ」
「おはよう!私も先に教室に行ってるね」
「おはよー。花ちゃん、京子ちゃん。またあとでね」
校門の前にいるボクを追い越していく花ちゃんや京子ちゃんを始め、クラスメイトの方々にも挨拶する。
ボクもそろそろ教室に行こうか。
校庭を歩きながら辺りを見回せば、同じ制服を着た生徒達が、同じ方向へ向かって歩いている。
制服はきちんと着ている生徒が多いし、学校の敷地内もとてもキレイだ。
生徒や学校の敷地を注意して見れば、「彼等」の努力というか、徹底っぷりが察せる気がした。
いつだったかボクがブレザーの中にパーカーを着ていった時なんて、周りから浮くわ浮くわ。
その後根津に絡まれて、端末が木っ端微塵になるし。
あれほど散々だった日もない。
「風紀って、いるんだよね……?」
まだ会ったことはないが、本当なら真っ先に会いに行きたかった組織でもある。
会いたい。めっちゃ会いたい。
だが、怖いのも事実だ。
教室で平和に過ごすだけでも十分楽しいし、そんな危険区域にまで行かずとも。
いいや彼は、命を懸けても会う価値のある美形だきっと。
でも正気でいられない気がするし。正気でいられない気がするし。
いやいや、転校初日から数日はツナ達を見ても大人しくできたんだ。意外と大丈夫かもしれない。
想像するだけで動悸がするあの顔を思い浮かべ、自問自答を繰り返す。
なんとなく校舎を見上げると、ここからでもまばらに生徒達が教室にいるのが分かった。
教室で各々のクラスメイトと喋っている彼等の視線は、ほとんど校庭に向けられることはない。
が、教室から離れた二階の一番端の部屋の窓から、こちらを見下ろす人影を見つけた。
その人物が黒服をまとっているせいか、室内の薄暗さと同化して、白い顔だけがぼんやり浮かんでいるようにも見える。
思わず足を止めた。
あ。
目が合った、気がした。
しかしすぐ興味がなくなったのか、背を向けて室内へ消える影。
暫くその窓を見上げていたが、再び人影が立つことはなかった。
プツン
頭の中で、最後の糸が切れる音。
堪らなくなって、両手で頭をかきむしる。
「……………ぁああああ――もうっ!端末があればミンちゃん(♂)に、骨は灰にして海にまいてくれってメール送ったのに!!」
まさか彼女から、あの名前が出てくるなんても思わなかったし。
ダメだ。やっぱり行きたい。
近くで見たい。話してみたい。
近くで見たい。見たい見たい見たい。
仲良くなれるもんならなりたい、マジで。
ミーハー全開。
「…………そうだ、今日の四時限目って確か……」
本日の予定は、急遽変更。
数学である三時限目が終わった時が勝負だ。
そろそろ、もしかしたら最悪の結末が待っているかもしれない、この街最大の難所に向かいます。