飴乃寂
□03
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「そんな感じで窓という窓から校内を出たり入ったりの鬼ごっこをしつつ、ツナ君達を頼りに逃げてきました」
「十五分の業間休みの間に、そんな壮絶な戦いが起こってたの!?」
「チッ」
「ははっ。やるなぁ、品臣!」
「想像以上に怖かったです……」
場所は屋上。
死ぬ気タイムが切れたツナ達は咬み殺され、興が削がれた彼は、ボクを咬み殺すことなく去っていきました。
リボーンも交え、四時限はみんなで仲良くおサボりです。
ボクはリボーンから借りた救急箱を使って、みんなの手当てをしている。
「それにしてもお前、度胸があるんだかないんだか、分かんねぇ性格してるな」
「いやあ、それほどでも」
「別に褒めてねぇぞ」
リボーンは相変わらず、上げて落とすのが得意だな。
「なんてったって、美形で噂のヒバリさんですからね!今回は命懸けで挑みました」
「そっちの噂!?命の懸け所間違ってるよ!!」
「そういえばバレンタインの時、ヒバリの下駄箱に入りきらない量のチョコがあるのを見たな」
「はっ、しょうもねぇな」
山本の腕に巻くための包帯を、ぴっと伸ばす。
主人公を差し置いて、人気投票一位とか。
ボンゴレのお色気リーダーとか!
自宅がお屋敷で和服とか萌える!!
しかも、しかもですね。
実はこの世界で、学校の外で、ヒバリさんの話を聞いたことがあるんです。
「街を歩いてるのを見かける度にカッコいいからこっそり隠し撮りしようとして、いつも睨まれて失敗に終わるという、お姐様達にも攻略不可能な、最大の難所ですよ!!?」
「なんて怖いもの知らずな人達!!」
「最凶の難所だけあって、あれに追い回された自分が今も生きていることが、本当に信じられない……」
「お、大袈裟だよ……」
山本の手当てを終え、ツナの元へ移動。
お礼を忘れない山本の笑顔が素敵だ。
今日はワリとガチで、特攻の覚悟だったんです。
余計に癒されるよ、山本。
「まぁ、相手はあのヒバリだしな!」
「本当に助かった。ありがとうみんな!」
「そっ、そんな改まって言われると……照れるよ……」
「本当に十代目に感謝してるなら、土下座くらいしやがれ」
「ちょっ、獄寺君!?」
「しよっか?土下座」
「品臣さんまで!しなくていいからね!?」
「あははっ」
ツナの慌てっぷりは、いつ見ても面白い。
頬に絆創膏を貼ると、ツナはまた照れたように俯いて、ありがとう、と呟いた。
そんな可愛い少年に湧き始めた欲望を、理性がひっぱたいて止める。
一時だろうが、欲望が簡単に止まるくらいには、少し前に起こったことの方が刺激的だった。
屋上の風はとても気持ち良いし、天気も良い。
そして無事でいられた今だから思い出せる、ヒバリさんとの接近に気分が高揚してきて、いやぁと頬を緩めた。
「噂なんてどうでもよくなるくらいの、和風美男子でしたよ……今までの美形が遊女と例えるなら、ヒバリさんは間違いなく花魁です。親密になる為なら、三度だろうが三百だろうが、ゴール目指して会いに行きますよ!」
「花魁と関係を持つ為に、客は最低三度は花魁を指名しないと、まともに会話をすることもできなかったらしいしな」
そういえばボク、ヒバリさんとなにを話したっけ。
確かにろくに会話をしてない気がする。
あと二回会わなきゃダメってことかな。
「ヒバリさんが男だってツッコみはなしなの!?」
「陰間茶屋だったら、二十歳前でもすかさず身請け金を持って行くよ!!」
「かげ……?」
「茶屋って、喫茶店とかのお茶屋か?」
「簡潔に言えば陰間茶屋ってのは、男が女の装いをして、男性客の相手をする店のことだぞ」
「え゙っ?」
「む、昔はそんな店もあったのな……?」
「昼間っからなんて話してやがんだ……リボーンさんまで……」
今も似たようなお店は健在だがな、山本君。
そう、オカ(以下略)
並盛の店のお姐様達がハイレベルだってのは、保証します。
昔の陰間茶屋は、舞台役者の女形を志望する美少年が、女心を学ぶためとかで男性客の相手しながら、舞台の儲けを稼いでいたんだそうな。
陰間の寿命は短く、男を相手にできるのは、体が未発達な二十歳まで。
二十歳を過ぎれば、今度は女の客をとるようになるらしい。
彼等は役者見習いでもあるから、借金地獄で苦しむ遊女と違い、店からは大切に扱われたとか。
無論、陰間茶屋も発達してくると、役者に関係のない、まんま男版の遊廓。というのもあった。
陰間茶屋のナンバーワンになるのは女の花魁より難しいが、その人はより上品で美しく、浮世離れした魅力があるらしい。
まんまヒバリさんじゃないか!
ノリツッコんだところで、本来のヒバリさんの話に戻す。
あんなにバイオレンスで獰猛な花魁がいたら怖いけど、だからこその魅力があるのも確かなわけで。
胸を右手ぐっと掴み、正座していた足を崩して、左手をコンクリートの床につける。
「花魁への恋は報われないのが定石だ………だったらボクは大勢いるうちの、貢ぎ客の一人でいい……!」
「お前みたいなヤツのお陰で、ああいう町は成り立ってたんだろうな」
「本望です」
「本望なんだ……」
ずりずりと膝立ちのまま、最後の怪我人である獄寺の手当てをしに近づく。
「ほら獄寺君、手当てするから腕出して?」
「手当てなんかいらねぇよ。それより近づくんじゃねぇ、変態」
「否定はしないが、また近々ヒバリさんの所に行くつもりだから、キズが痛くて動けない!ってなったらボクは困る!」
「え゙ぇ――!?またこんなことするの!!?」
「ははっ、見かけよりずっとガッツあるのな。品臣」
「その下心にまみれた根性は買ってやるぞ」
「ボクは喜ぶところなの?リボーン」
「ざけんな!これに懲りて十代目や俺にもう迷惑かけんじゃねぇ!!」
「そんな!ヒバリさんに対抗できるのが、君達しかいないと思ってのお願いなのに!?」
「!!」
まさか、一度で諦めるなんてできない!!
少なくとも端末が戻ってくる来月からは、ヒバリさんの近くからシャッターチャンスを狙い、あんな顔やこんな顔を、ファイルに永久保存するんだから!
くそっ、こうなったらなにか別の角度で攻めるしかないのか?
まだ初日だし、気を取り直して穏便に行けば、修正は可能かも……。
「なっべっ、別にヒバリのヤローなんざ、俺が本気を出せばどうってことねぇよ!」
「ん?」
どもっている獄寺を見ると、獄寺は顔を逸らしつつ、目だけをこちらに向けた。
が、すぐに逸れる。
「でもお前がどうしてもって言うなら、仕方なく…………し・か・た・な・く!手を貸してやらなくもないぜ?あくまでも、仕方なくな!勘違いすんなよ!?」
(ツンデレ!?)
萌えるどころじゃない、禿げた。
獄寺から、まさかの不意打ちだ。
花魁候補は、ここにもいたらしい。
「じゃ、またピンチになった時はよろしくね!」
「んな゙―――!!ほっ、本当にやるの!?」
「獄寺が珍しく乗り気なのな。俺も部活がない時なら、助っ人に行くぜ!」
「お前もあの不屈の精神を見習えよ、ツナ」
「だっだからって銃向けるなよ、リボーン!!」
そしてこの日を境に、ボクとヒバリさんの校内リアル鬼ごっこは始まった。
助かったと思ったら大間違いです
(っていうことがあったんだ、ジン)(パラレルワールドで散々死んでるくせに、どうしてまたそう、危険な橋を渡るの?バカなの?)(橋の向こうに絶世の美少年がいるから)(い゙っ、足を踏むな!)