飴乃寂
□03
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「失礼します、ヒバリさんいらっしゃいますか!」
三時限目が終わってすぐ、応接室に行ってドアを開ける。
ひたすら書類に向かっているヒバリさんが一度だけ手を止め、こちらを見た。
一瞬目があって、すぐに顔が下を向く。
おぉう、見れば見るほどイケメンだ。
「今朝の生徒か。なんの用だい?」
「わっ、覚えててくれたんですか!?」
やっぱり今朝のあの時も、目があってたんだ!
「見慣れない金髪だと思っただけだよ」
拒否はされなかったのでそのまま入室し、部屋の一番の机に向かう。
「あーこれ、こう見えても地毛ですよ?元々黒かったんですけど、前の学校で水泳部にいたんで、プールの塩素で色素が抜けちゃったんです」
「そう。なら制裁は下さないよ」
「やだなぁ、物騒ですねー」
「この学校の風紀委員長は僕だからね。校則を破れば、それ相応の罰を与えるのは当然だよ」
「真面目なんですね」
「別に」
ああ真っ黒な髪も、きっちり着こなされた黒い学ランも素敵だ。
獄寺が洋風の美形なら、ヒバリさんは和風の美形。
ジャンルが違うので比べるのは間違ってるかもしれないが、レア度を比較したら、やはり彼の方がレベルが上なのだろうか。
もう雰囲気から洗礼されているのを感じる。
「それより、君はまだ僕の質問に答えてないよ」
「ん?」
ピタリと、再びペンを持つ手が止まった。
ヒバリさんのいる机の手前で立ち止まると、吊り上がった猫目が、正面のボクを見上げる。
ああくそもう!!端末さえあれば、迷わず撮ったのに!!
上目遣いもなんて可愛らしいの!?
なんで女に生まれて来てくれなかったんだ!
女だったら遠慮なく抱きついて、すぐお友達になったのに!
「なにをしに、この応接室に来たんだい?」
あ。ピリッと、雰囲気が鋭くなったのが分かった。
あの有名なトンファーを出されちゃ、ひとたまりもない。
慌てて口端をあげて、ここに来た理由を述べた。
「え、えっとですねぇ。ボクもヒバリさんと同じ、風紀委員に入りたいなぁ………なんて……」
「………」
「ダメ、ですか?やっぱり……風紀委員って男子ばっかって聞きますし……」
美形の近くにいたい、美形の傍にいたい。
ヒバリさんの、獄寺の、ツナの、山本の、了平さんの、持田先輩の、京子ちゃん、花ちゃん、エトセトラ。
みんなとお友達になってこの学校生活を、潤いきった憩いの場に!
勉強なんて二の次どころか、十の次でいいもんね!
ボクは彼らと触れ合うことに、全力を捧げる。
笑顔を固定したままヒバリさんの様子を伺っていると、ヒバリさんはおもむろに机の引き出しを開け、風紀と書かれたアレを差し出した。
一瞬感じた寒気のような、刺々しい雰囲気は消えている。
「そういうことなら構わないよ。やるからには、ちゃんとやってね」
「もちろんですっ!!」
腕章を両手で受け取り、よっしゃあああぁと達成感でうち震える。
もうボク、怖いものないかも!!