飴乃寂


□2.5
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£同居人の正体£




人間との生活が始まって早くも一週間が経つが、それで分かったことがある。


その娘はパラレルワールドを経験して何か悟ってしまったのか、元々の性格なのか分からないが、楽観的な上に社交性もあるらしい。


これはある日、街の見物ついでに夕飯の材料を買って帰路についていたところ、ファミレスで見慣れた制服を見つけた時の話だ。


学校帰りに堂々と寄り道か。


出入口に近い窓側のテーブル席の一角が顔の良い男達で埋まっており、真ん中に金髪の女子中学生が一人。


なんとも異質な雰囲気を放っている集団だ。



「そうなの〜、それは残念だったわね」


「みんなのアドレスも画像も、爆破されちゃいましたよ……ちくしょうっ!」


「まぁまぁ、退学にならないだけ良かったじゃない」


「そうよ、元気出してイチノちゃん!ほらほら手出して!」


「うぅっ……ミンちゃんの手、あったかい」



店内で一体どんな会話をしているのか分からないが、俺が見ていることに気づいたんだろう。


正面に座っていた男と両掌を合わせていたイチノが、俺を見て手を振った。


すぐさま周りの男達も俺に気づいて、手を振られたり手招きされたり。


みんな急に動き出して、口々に何かを言っている。


道路を挟んだここからでも、店内が軽い騒ぎになっているのが分かった。


凄くテンションの高いメンツらしい。見て見ぬふりはできなさそうだ。


横断歩道を渡って目の前にある店のドアを開け、外から見えたテーブル席に近づく。



「お前なに制服のまま堂々と道草食ってん……」


「いやーんカッコいい!あなたがイチノちゃんのお兄さん!?」


「!?」


「もうワタシ好みいぃっ!!」


「な、なんだぁ!?」



イチノに辿り着く前に周りに男達の壁ができ、聞こえてきたのは、黄色い女言葉。


きゃいきゃいという音が似合いそうな会話が、周りでマシンガントークのように繰り広げられているが、目の前のは確かに男だ。


もう一度言う。男だ。



「ジーン!紹介するね!」



席についたままのイチノの周りにも男が数人いるが、そのテーブルには化粧しない俺でも分かるほど、一人分じゃない量の化粧品が並んでいた。



「夜にコンビニ寄った時に見つけてナンパした、美しいお姐様グループです!」



どこからつっこめばいいんだ。



「いやだわイチノちゃんったら本当のこと!」


「夜は余り歩き回っちゃダメよ〜?変な男がさ迷ってるんだから!」


「そうそう!お兄さんも軽々しく裏通りなんか通っちゃダメよ?」


「アスカなんて良いお尻した男見つけると、すぐ行っちゃうんだから!」


「良い男はお尻で分かるのよ」



状況についていけてないが、俺は呑気にジュースを飲んでいるイチノを見下ろした。


部活に入ってるわけじゃないのに、帰りはいつも六時過ぎ。


初日から友達作って遊んでるんだろうと深く突っ込まないでいたが、今、分かった。



「いつも帰りが遅い理由はこれか……!!」


「オカンか」



友達は友達でも、ずいぶん大きなお友達じゃねぇか。


そしてこの日の帰宅後、俺はイチノが昨日買った携帯端末を、学校で壊してきたと知る。



「怒らないであげてお兄さん!」


「私達って夜のお仕事だから、それまで一緒にお喋りしてくれるだけなの!」


「遅くなった時はちゃんと家まで送ったげるから!」


「あぁ?お前ら一歩間違えれば、女子中学生を囲ってる変質者だぞ!?」


「いやぁねぇ、変質者なんて人聞きの悪い!」


「私達はただの女友達なんだから大丈夫よ!それにこのお店の常連だし!」



ファミレスに入ってオカマに囲まれた中学生がいたら、恐ろしい店だと思うがな。


こんなに援護されるほど、イチノはこいつらに何かしたんだろうか。


俺の心中を悟ったのか、リーダー格らしいベリーショートの女(にしか見えない)やつが近寄ってきた。



「イチノちゃんったら凄いのよ!気が利くっていうか、会ったばかりなのに人の好みを心得てるみたいで、ほらこれ見てちょうだい!」



目の前に突きつけられたのは、ブランドものらしいロゴが入ったバッグだ。



「イチノちゃんの情報で手に入れられた、幻のブランドの限定バッグ!この世に三つしかないのよ信じられる!?」


「私もずっと欲しかったネイルが手に入ったの!」


「このコ色んなこと知ってるし気が利くから、本当に助かってるのよ!」


「もー男だったら間違いなく口説いてるのに!惜しいわぁ〜〜」


「女友達なんて勿体ないけど、女の子じゃあ……ねぇ?」


「それ以上は……ねぇ?」



男じゃねぇかお前ら。というツッコミは、後が怖いから喉の奥に押し込んだ。


各々の戦利品を見せびらかす男達を見、その後ろのテーブルで頬杖をついているイチノを見る。


まさかこいつ、パラレルワールドの経験を、知識を、イケメンはべらす為に使ってるのか?



「お前はそれでいいのか!?」



もっと有意義っつうか、得する使い方があるんじゃないのか!?



「見てよジン君」



しかしイチノは否定することなく、テーブルについてるやつらを手で示し、真剣な表情で言った。



「エデンは地上にあったんだ。美形がいっぱい」



俺は悟った。


こいつは、ただのバカだ。






(お兄さん今夜うちの店に来てよ!)(たまには遊びましょう?)(ぎゃあああ!?てめぇ見てないで助けろよ!!)(もっとやって)

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